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seikaさん

かつては女子中学生でした。

性別 女性
将来の夢 生まれ変わること
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イエローナイフのオーロラ

16/05/03 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:0件 seika 閲覧数:770

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「・・・なんとかしなくちゃならないなぁ・・・。」
ドイツ文学者戸舞賛歌は文学談義仲間で南大沢大学文学部ドイツ文学科教授の中野肛作に打ち明けた。
「実は、ウチの娘が最近本など読まないような連中と付き合い始めては変な格好するようになったんだ・・・。」
「・・・それは早めに芽を摘んでおかないとなりませんな・・・。」
中野肛作は戸舞賛歌にそう進言した。
最近戸舞賛歌の娘の香織はまるでドイツ文学者の娘とは思えないような格好をして、そして自転車で同級生だか先輩だかの家の郵便局やら乾物屋に通っているらしい。夏休み中なんて朝起きると赤いジャージにサテン生地の短パンで出かけ、帰ってくるのは暗くなってからだった。
「いいじやない、香織ちゃん、生き生きとしてきたし皆で一緒にお勉強していて成績もよく成ったし・・・。」
という意見もあるが、ドイツ文学者戸舞賛歌としては文学者の娘というカラーに染まってもらわなければならなかった。いくら生き生きとしたからといって、あるいは成績が上がったからといって、良い本を読んでその本についてあれこれ議論するようなことがなければ認められなかった。
「よしっ。」
汗ばむ中、書斎でモーツァルトミサ曲「バカミサ」Kv550を聴いていた戸舞賛歌は決意した。娘香織を今の友達との付き合いを断ち切らせることを、だ。

 そして初秋のある晩、戸舞賛歌は香織を山に連れ回した。そして山頂の神社の境内で
「最近お前は本を読まないような連中と付き合っているようだが、そういう連中とは付き合うな。嫌ならこの家かせ出て行ってくれ、わかったな。」
と迫った。赤いジャージの上着を来た香織は悲しそうに、でもどうしようもないという表情でうなづいた。そして帰宅後、香織をやさしく受け入れるととも、友達を断ち切らせた代償として、本棚を本をあてがった。
「ああいう友達がいくても、ここにはこんないい本があるじゃないか・・・。」
と・・・。香織の表彰から生き生きとした輝きが消え、なんとも言えない悲しみが漂っているの見ることは戸舞賛歌も心痛かった・・・。しかしこれで我慢してほしい。その代わりすばらしい本をあてがうから・・・。

 その日から香織は何もしゃべらなくなり、食欲もなくなった。その目に生気はなく、何か死に憧れているかのようだった。戸舞賛歌の妻詩織は
「やっぱりあの子にはあの友達が必要だったのよ・・・。」
という。それはわかっている。だからこそ認めたくない。
「うるさい、コレでいいんだ。あんな連中と付き合ったらろくな事にならないぞ、麻薬や覚せい剤に手を染めるかもしれない。」
「だって乾物屋さんや郵便局の家で麻薬や覚せい剤やっているわけないでしょ。」
「うるさい、くだらない低俗雑誌や流行歌なんぞは麻薬や覚せい剤以下だっ。」
とついつい詩織を怒鳴りつけてしまった。詩織は目に涙を浮かべてそして台所に行った・・・。
「絶対に認めんぞ。」
戸舞賛歌は一人で大声で怒鳴って、そして二階の書斎にいき、近所に迷惑なぐらいの大音響でバッハのマタイ受難曲を流した。

そしてそれから数日後、
「気分直しにでも、中野と湊を誘って泊りがけの山に行くか・・・。」
といって泊りがけで下総中山登山に出かけた。そして家に帰ってみると、そこには妻詩織も娘香織も居なかった。・・・戸舞賛歌はわかった。ついに二人は逃げ出したのだ。そして電話台には村木沢という男性の連絡先の書き記したメモがあった。
「・・・。」
戸舞賛歌は目の前が暗くなった。村木沢とは詩織の緯線の恋人だ。戸舞賛歌は詩織を村木沢から強引に奪って婚約しそしてこの東北山奥の悪天候市へとつれて来たのだった。
当然戸舞賛歌は酒の量が増える。そしてかねてから思いを寄せていた三十路半ば美人行員霊野陰子と密通し同棲生活を監視する。霊野も戸舞賛歌夫人に成ることを喜んだが、しかし戸舞賛歌のワンマンさに愛想を着かして戸舞賛歌の許を去った。
 そしてカナダのオーロラの名所、イエローナイフで自殺と見られる東洋系男性の遺体が発見された。厳寒の中、軽装で一人で森林に入ったのだ。その遺体は日本人のドイツ文学者戸舞賛歌と確認されたというメディアは報じた。
「誰も僕の文学をわかってくれない・・・。」
という遺書も見付かった・・・。そして戸舞文学「教養の勝利」の原稿もその場で見付かった・・・。


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