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つつい つつさん

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気に食わない!

16/04/29 コンテスト(テーマ):第108回 時空モノガタリ文学賞 【 甘夏 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:829

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 俺の家は華道教室を開いている。といっても、田舎町の小さい華道教室だけど。でも、町ではそれなりの名家として通っているから、俺は家を継ぐため週に一回新幹線で家元に赴き稽古している。修行は楽ではないが、さすがに家元だけあってその技も華やかさも飛び抜けていて全てが為になることばかりだったし、勉強するのは楽しかった。だけど、一つだけ気に食わないことがあった。それは、次期家元でもある若先生のことだ。
 若先生は三十代半ばでイケメンてわけではないが、気品があり、技も確かで尊敬出来る部分もたくさんあった。しかし、少しばかり神経質すぎた。それに、なにかあると俺を田舎者とバカにするのが鬱陶しかった。今日もそうだ。春を題材に実習していると俺の作品を見て首をかしげた。
「竹本君の作品は華がありませんねぇ。確かに春ですが、これじゃ田舎の春ですよ。まあ、あなたの地元はそうなのかもしれないですけど」
 同じく稽古に来ている周りのお弟子さん達が笑う。一番遠方から来ているのは俺だから必然的に一番田舎者の立場だ。若先生はそれを知っていながら俺を田舎者だと揶揄する。だけどここで余計なことを言って、機嫌を損ねられたくない俺は渋々苦笑いする。確かに若先生の作品は都会的でシャープだって評判だけど、なにかにつけて俺の作品を田舎くさいって言うのはやめてほしい。それに、本当は自分だって田舎もんが好きなくせに。特に、愛媛あたりの。
 一週間経ち、稽古の日が来た。俺はバカにされないよういろいろな雑誌や文献を漁り、それに若先生の作品も必死で勉強して準備してきた。今日は大丈夫だろう。
 お弟子さん達が集められ大きめの作品を作るための、まず花器選びから始まった。みんなそれぞれの感性で花器を選び始める。俺も、散々勉強してきたことを思いだし、シャープな作品をイメージしてモダンな花器を選んだ。周りを見渡すと、だいたいの人が地味で基礎的な花器を選んでいた。
 若先生はみんなの花器を見ると、まず中川さんの選んだ白と青の洗練された器を指さす。
「中川さんは何年目ですか?」
「はい、ここに来させて頂いて、五年になります」
 若先生は柔らかく微笑む。
「そうですね。あなたの実力ならこの器で大丈夫でしょう」
 次に島田さんのシンプルな白一色の器を見る。
「島田さんは、まだ二年目ですか。大きい作品ですので、それくらいがいいでしょう」
 穏やかに島田さんに声を掛けた後、俺のほうにやって来た。
「なかなかいいデザインですね。まるで、私が使うみたいな器ですね」
 銀色に光るスタイリッシュな金属製の表面が若先生の険しい表情を綺麗に映しだしていた。
 俺は慌てて弁解した。
「つい、器を選ぶのに夢中になって、自分の実力を考えていませんでした」
 若先生はゆっくりとうなづく。
「そうですね。何事も基本が大事です。基本を学び、伝統を理解してこそ、革新があるのです。昨日今日出てきたものになんて、そんな簡単に美も生命も宿りませんよ」
 それからが大変だった。よっぽど俺が背伸びしたデザインを選んだことが気に食わなかったのか、一挙手一投足に文句を言われ続け終始機嫌が悪かった。でも、元々は若先生があんまり俺のことを田舎者ってバカにするのが原因なのに、なんで俺だけ怒られないといけないんだ。なにが昨日今日出てきたものに美がないだよ。そのポッと出に踊らされてるのは自分だろ。なにが伝統を理解だよ。お前はもぎたてフレッシュが好きなんだろ。でも言い返すことなんか出来ないから稽古が終わる頃にはへとへとになっていた。稽古の後片づけが終わると、部屋に戻っている若先生を呼びに行くように言われた。ここでは、若先生が自室に
戻った時に呼びにいくのは男のお弟子さんと決まっていた。その理由はみんな知っていたけど、みな気づかないふりをしていた。
 若先生の部屋の前まで来て、ドアに耳を近づけると、案の定、音楽が流れている。
 
 キュイーーン♪ 愛媛直送、田舎娘はじめました!
 もぎもぎ ギュギュギューン 絞って、弾ける果実が唄います♪

「みかん、オレンジ、夏みかん。 はっさく、ネーブル、日向夏。 でもでも、やっぱり甘夏齧り隊!」 

 あーあ、若先生、全力でコールしてるよ。どうせ部屋の中ではオタ芸してるんだろうな。。また、愛媛のご当地アイドル、甘夏齧り隊のDVD見て喜んでんだな。今日はムカついたから、このままいきなりドア開けてやろうか。いい歳してアイドル追っかけてるのばれたくないから、焦るんだろうな。でも、みんな知ってるのに、隠す必要ないだろ。
 でも、やっぱり気に食わないなあ。若先生全然わかってないよ。甘夏齧り隊? はぁ? ご当地アイドルって言ったら、やっぱり一番は秋田のご当地アイドル 
 生・HOT・GET7(ナマハゲーナ)でしょ!


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