1. トップページ
  2. デートの終わり

たらこさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

デートの終わり

12/03/26 コンテスト(テーマ):第一回 時空モノガタリ文学賞【 新宿 】 コメント:0件 たらこ 閲覧数:1929

この作品を評価する

 新宿駅西口スバルビル前。
僕たちのデートの終わりは、いつだってここだ。
23時45分発名古屋方面行きの夜行バスに乗る彼女を、僕はいつも見送る。

 バスが到着するまでの少しの時間、僕たちはいつもくだらない話をしていた。
僕の隣の家の飼い猫がたぬきに似ているだとか、ヨーグルトとあんこは実は相性がいいだとか。
お互いの寂しさをまぎらわせるため。そして、残り少ない二人の時間を少しでも共有するため。

 それなのに、さっきから彼女は口を固くむすんだまま、黙りこくっていた。
僕がどんな話をしても、「うん。」とか「へー。」とか曖昧にうなずくだけ。
「どうした?具合悪い?」
「……ううん。」
「話、面白くない?」
「……違う。」
「もしかして、まだ気にしてる?」
「……うん。」

 僕たちは今日、ボウリングをした。
2レーン目の途中、缶ジュースを賭けた勝負が面白い展開になってきたころ、彼女は右耳のイヤリングがないことに気付いた。
それは、僕が彼女の誕生日に初めてプレゼントしたものだった。
(彼女はピアスの穴を開けていない。)
「すっごく探したよね?それでも見つからなかったんだから仕方ないよ。」
「……うん。」
現に僕たちは1時間以上、スタッフの人にわがままを言って、探させてもらった。
(途中で隣のレーンの大学生らしき男子グループも探すのを手伝ってくれた。)
それでも、ピンクゴールドのイヤリングは見つからなかった。
「スタッフの人に連絡先伝えたよね。見つかったら連絡くれるよ。」
「……うん。」
「ごめん。」と彼女は言った。
「本当にごめん。私がボウリングするのに外しておかなかったから。すぐに外しておけば無くしたりなんかしなかった。初めてもらったプレゼントだったのに……。」

 彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
僕は彼女の頬を両手でぷにーっと引っ張った。
「……いたい。」
「そんな泣きそうな顔しない。もしこのままイヤリングが出てこなかったとしても、僕は全然怒らないよ。なんなら、また買ったっていい。でもさ、なっちゃんがずっとそんな顔してるのは嫌だ。もうすぐバス来ちゃうよ。だからさ、笑って。」
「だってぇ。」彼女はついに泣き出してしまった。
「ほらほら、泣かないの。周りの人が見てるから。」
僕は彼女の頭をとんとんとなでた。
彼女はティッシュを取り出すと、涙を拭き、チンと1度鼻をかんだ。
「僕が新しいイヤリングを買うから、なっちゃんには何買ってもらおうかな?」
「えっ、私も何か買うの?」
「当たり前でしょ。」
「えー。」と言いながら、彼女は笑ってくれた。

 「23時45分発名古屋方面行きのバスが到着しました。」
黄色いジャンパーを着たスタッフの人の声がする。
「もう行かなきゃ。」
「うん。」
「またね。」
「うん、またね。」
彼女は小さく手を振りながら、バスの方へ駆けていった。
僕は彼女を見送る。
もしこのままイヤリングが見つからなかったとしてもいい。
僕たちには変わらない未来がある。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品