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KOUICHI YOSHIOKAさん

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自動販売機の上のカラス

16/04/24 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:6件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:7729

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 いつのころからか真っ赤な自動販売機の上にカラスがいるものだから、誰も飲み物を買えなくなっていた。
 大学の購買棟の横にある自動販売機には他所では買うことができない炭酸入り缶コーヒーが売っていたので、一部の学生からはまずいと言われながらもよく買われていた。
 普通のコーラや緑茶やオレンジジュースなども売られてはいたが、それらは購買棟の中でも買うことができるので、カラスの存在に困っていたのはまずい炭酸入り缶コーヒーを買いたい人たちだけだった。
 手を叩いたり石を投げたりして追い払ってもすぐにカラスは戻ってくる。
追い払ったわずかな隙に買おうとすれば成功することもあったが、失敗したときには手痛くカラスから突かれた。
数人でチームを組んでカラスを追い払おうとした人たちもいた。
石を投げる担当、竹ほうきで威嚇する担当、手を叩いたり大声を出したりして脅かす担当、自動販売機にお金を入れる担当、取だし口から炭酸入り缶コーヒーを取りだす担当、走って逃げる担当に分かれて果敢に挑んだ結果、買うには買えたのだが、逃げる途中に襲われて散々な目にあった。
この手痛い成功以降、カラスに挑もうとする人たちは現れなかった。
大学側は無関心、購買棟の責任者もほったらかし。購買棟の中で飲み物くらいいくらでも買えるだろうという考えだった。
 ひとりの女学生だけが諦めなかった。炭酸入りコーヒーが飲みたくてたまらなくなった女学生はカラスが他人に排除されるのを待つことができなかった。
 女学生はカラスを追い払うのではなく、カラスと仲良くなることによって自動販売機で自由に買うことが出来るようになろうとした。
 女学生はまず餌づけをしようとした。スーパーで買った生肉を与えようとしたり、お菓子やパンをあげてみようとしたりした。しかしカラスが女学生に懐くことはなかった。
 自動販売機の近くに置いた餌を食べることはあっても女学生が自動販売機に近づくことは許さなかった。
 女学生がなぜ炭酸入り缶コーヒーに固執したかといえば、初めてできた恋人が最初に奢ってくれたのがこの炭酸入り缶コーヒーだったからだ。味は正直嫌いだった。
 すでに恋人とは別れてしまっていたが、まだ恋愛感情を失っていなかった女学生には元恋人との繋がりを思い出させてくれる大切な飲み物であった。炭酸入り缶コーヒーまで失うわけにはいかない。
 追い払うこともできず、餌づけもできず、次に女学生がとった方法はカラスが興味を持ちそうな物をあげてみるというものだった。
 ある日、真っ赤なビー玉を持っていった。きらきらと光って綺麗な物ならカラスも興味を示すだろう。
 自動販売機の前に置くと、カラスはすぐに飛び降りてビー玉を嘴でつまむと自動販売機の上まで持って行って足元に置いた。
 おそるおそる近づいてみてもカラスは襲ってこなかった。女学生はあっさりと目的の炭酸入り缶コーヒーを買うことができた。
 この日以来、女学生はさまざまな色のビー玉を持って行ってはカラスに渡した。
 カラスは自動販売機の上にビー玉を集めていった。ありとあらゆる色彩のビー玉がカラスのコレクションとなった。
 この方法はすぐに炭酸入り缶コーヒーファンに知るところとなり皆が真似し出した。
 ビー玉さえ与えれば簡単に買えるので、誰もカラスを追い払おうとはしなくなったし、そのうち神社のさい銭感覚でカラスを拝むようにビー玉を供えるようになっていった。カラスはごく一部の人たちの信仰の対象に似た存在になっていた。
 しかし、ある日突然、自動販売機は空っぽになった。
 カラスが居座るようになってから補充されていなかったので、ビー玉が増える分だけ炭酸入り缶コーヒーは減っていき、ついに売り切れてしまったのだ。
 学生たちの依頼を受けて購買棟の責任者が業者に問い合わせてみたが、そもそも炭酸入りコーヒーなど入れていないし、作っている会社も知らないという冷たい返事だった。
 確かに炭酸入り缶コーヒーは存在した。だがそもそもそんな飲み物は存在しないという。女学生や他の学生たちが探しまわったが、作っている会社はついに見つからなかった。
 そして売り切れと同時に何故かカラスの姿も見られなくなった。真っ赤な自動販売機の上には様々な色彩のビー玉だけが残っていた。それがここにカラスと炭酸入り缶コーヒーがあった確かな証拠だった。
 今でもカラスを見かけることはあるが、自動販売機の上にとまることはなかった。


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このストーリーに関するコメント

16/04/25 キャプリス

吉岡様 拝読しました。
こういう感じの話が好みです。

16/04/25 KOUICHI YOSHIOKA

キャプリス様
コメントありがとうございます。
嬉しく思います。感謝。

16/05/25 犬飼根古太

吉岡幸一様、拝読しました。

独特の世界観が構築されていて印象的でした。あり得そうな奇妙な物語といった雰囲気でセンスを感じます。
色彩というテーマから、カラスという相性の良いキャラクターを考えついたのも素晴らしいです。
しっかりとした起承転結があって最後まで引き込まれました。

16/05/26 KOUICHI YOSHIOKA

犬飼根古太様
コメントをいただき誠にありがとうございました。
嬉しく思います。感謝します。

16/05/26 光石七

拝読しました。
どこかの大学で実際にあったような、少し不思議な話。カラスという存在が物語に独特の雰囲気を纏わせているように感じました。
ラストの真っ赤な自販機とその上の様々な色のビー玉のコントラストが鮮やかな印象を残しますね。
着眼点といい、書き方といい、自分には無かったものなので、とても勉強になりました。
素敵なお話をありがとうございます!

16/05/26 KOUICHI YOSHIOKA

光石七様
コメントをいただき誠に有難うございます。
嬉しく思います。
深く感謝いたします。

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