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石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

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縁(えにし)

16/04/24 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:2件 石蕗亮 閲覧数:1467

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 「私の人生、本当に良縁の無いものだったわ。あったのは悪縁ばかり。」
桜の木の下で女はそう呟いた。

 煌々とした満月の下で桜が静かに散り始めていた。
風もなく穏やかな春の夜。闇に淡く滲むように桜は咲乱れていた。
闇を映した桜は白く、提灯の灯りを映した桜は仄明るい紅を帯びていた。
丑密時になってもまだ花見酒を楽しんでいる人が公園には残っていた。
そんな桜の木の1本に女はもたれ掛かって舞う桜の花びらを眺めていた。
その傍らを男が通りかかり声を掛けた。
 「丑密時に桜と女性なんて如何にもですね。」
男がしみじみと言うと「怖がりさん?」と女は悪戯っぽく笑った。
 「綺麗じゃないですか。」
男は真顔で即答したが、女は予想外だったようで顔を赤くして俯いてしまった。
そしてそのまま俯きながら呟いた。
「そんな台詞、見ず知らずの人じゃなく、好きな人に言われたかったわ。
私の人生、本当に良縁の無いものだったわ。あったのは悪縁ばかり。」
女の独白に男は少し首を傾げ
 「縁は合縁奇縁の一期一会。人の縁は悪くても物や趣味のコレクションとかの縁はあったのでは?」と問うた。
「コレクションね。そうね、あったわ。
私、招き猫が大好きだったの。たくさん集めたわ。私の部屋は招き猫だらけなのよ。」
女は懐かしそうに、そして楽しそうに語った。
 「で、その招き猫たちに『何を』願いました?」
男の質問に女は「え?」という顔をして返した。
 「あぁ、貴女は招き猫の意味を知らなかったのですね。」
男はそう言うと語り始めた。


 「招き猫とは神様の一種なんです。
だから当然『請願』し、叶えてもらったらお礼参りしなければいけません。
招き猫とは縁結びの神様なんですよ。縁を招くから招き猫なんです。
だから招き猫には『何を招いてもらう』かを言わないといけないんです。これが請願。
そうでないと招き猫は『何でも招いてしまうんです』よ。物の良し悪しに関わらず。
もし最初に招いたものが『悪いもの』であったのに止めないでいると際限無く悪縁を招き続けるんです。」
男の話を聞きながら徐々に女の肩が震えだした。
それに呼応するかのように風が吹き始め桜の枝を揺らし華弁を舞わせた。
いつしか満月も雲に隠れ、白い桜の華が闇に映えていた。
「そんな…。私、嫌なことや辛いことがある度に気分転換で招き猫を買っていたわ。」
 「最初に買ってもらった招き猫がたまたま悪縁を招いてしまった。
いくら招いても貴女はお礼を言わない。集められた招き猫たちは請願を貰えないからそのまま悪縁を招く。
しかし貴女は依然お礼をしない。終には招いた悪縁が悪人を引き寄せてしまった。
こんなところでしょうか。」
男の話を聞いて女は肩を落として項垂れた。
カタン
近くの提灯が落ちて壊れて灯りを失った。
女の姿までも桜の華のように白く闇に滲むように映えていた。
落ち込む女に男は「丁度良いものがありますよ。」と声を掛けた。
背負っていた鞄を下しファスナーを開くと中から猫の置物を取り出した。
「また招き猫?」
 「いいえ、これは『祓い猫』です。」
「祓い猫?」
 「そう、『祓い猫』。
招き猫はその名の由来通り手招きしている。でもほら、この猫は掌を見せているでしょう。これは『あっち行け』っていう仕草なんですよ。
そしてもうひとつ、この顔。口を開いて歯を見せているでしょう。拒絶の表情なんです。
本来は招き猫と祓い猫は対の存在なんですよ。
いつしか招き猫ばかり有り難がられ、祓い猫は忘れられてしまったんですよ。
もし招き猫が悪いものを招いてしまったり、もしくは招き猫に請願した内容を破棄する場合はこの祓い猫に請願するしかないんです。」
「へぇ〜。」と女は珍しそうに祓い猫を覗き込んだ。
 「どうぞ。」
「え?いいの?」
 「貴女はもう『貰うことはできないでしょうけど』、願うことならできるでしょう。」
「あ、やっぱりわかってた?」
 「はい。ですから、どうぞこの祓い猫に『現世との縁』を祓うことを請願してください。」
男が言うと女は微笑んだが頬には一筋の光が伝った。
「最期に良縁があって良かったわ。」
ありがとうの一言を残し、女は姿を消した。

 「よう!おっさん!酔っ払いか?さっきから一人でぶつぶつ喋って気持ち悪りい。」
公園の出口で酔っ払いの青年に絡まれた。
 「なんだそれ?猫の置物なんか持ってやがる。そういや昔の女もやたらたくさん招き猫持ってて気持ち悪かったなぁ。」
青年は酩酊し悪態を吐いて去っていった。
男はその後ろ姿に向かって猫の手を作ると招き猫の仕草をして「みぃや〜おぅ。」と啼いてみせた。
 直後、車のブレーキ音がしドンと鈍い音が公園沿いの道路から聞こえた。
 「おや、私も悪いものを招いたようだ。」
男はニヤリと呟いて闇に消えるように去った。


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このストーリーに関するコメント

16/05/09 夜降雪都

拝読しました。
招き猫の対に祓い猫がいることを初めて知りました。
なるほど、願を掛けるものだからただ持っていてはダメなんですね。
納得の内容でおもしろかったです。

16/05/25 石蕗亮

夜降さん
コメント遅れてすみませんでした。
一般的ではありませんが本来はそうみたいです。
正しい招き猫の扱い方してる人はどれほどでしょうか?
怖くなります(笑)

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