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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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識者≒愚者≒敗者の連立思考

16/04/17 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:9件 クナリ 閲覧数:1472

時空モノガタリからの選評

 自らの思考の罠にはまった男の悲劇ですね。ホラーサスペンスとしての面白さに加え、思考についての興味深いテーマもあり、読み応えがありました。思考の盲点をうまく生かした密室劇だと思います。
元妻のセリフが辛辣ですね。確かに論理的思考に頼りすぎれば、逆にそれが足枷になることもありそうです。見方によってはコンクリートの箱は、主人公の硬直性を象徴しているようにも見えますね。主人公の知的で自信過剰な性格がストーリー展開を支えていて、推論の流れからのどんでん返しが鮮やかでした。

時空モノガタリK

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 目が覚めると、俺はコンクリート製の立方体の部屋の中にいた。
 五メートル四方程度の部屋の中には家具はなく、鉄製のドアが一つある。
 ドアの脇には、十個ほどのボタンが横一列に並んでいた。全て異なった色で塗られている。ドアを開けるボタンだろうか。
 俺は、床を見て悲鳴を上げた。そこには、うつ伏せの人間がいたのだ。成人男性らしいが、無地のTシャツと短パンという格好で何者なのか分からない。
 よく見ると、男の腕に赤い文章のようなものが書かれている。いや、腕に、刃物で字が刻まれているのだ。
「私は殺された。私に触れてはならない。死因の色を押して、外せばお前は死ぬ」
 俺はもう一度悲鳴を上げた 。何が起こっているのかは分からないが、この男の死因を特定し、それを元にあのボタンを押せというのだろうか。
 しかし、死因が色でどう表現できるというのだろう。
 ボタンの色は、赤、青、黄色、緑、青紫、ピンク、橙、茶色、灰色、黒、白。
 死体に目立った外傷はない。失血死などではないようだ。
 ――では、赤ではないということか?
 死体の肌は青白くもきれいなものだった。これなら、溺死ではないだろう。なら、青もないか?
 本当にこんな推量の仕方でいいのかは分からないが、他に判断の基準もない。
 今度は、色から判断してみる。青紫は、チアノーゼ=窒息だろうか。絞殺された跡はない。
 橙は炎と仮定する。焼死体ではない。
 茶色は、土の色しか思い浮かばないが、生き埋めになったにしては泥一つついていない。
 白は、氷のイメージで凍死だろうか
 残った色は、更に頭をひねって考える。
 黄色で人体に害するものといえば、黄疸か。そこから病死全体を指すと考えるのは、飛躍だろうか。
 緑は、植物から毒草の類を連想することはできる。が、いい加減こじつけもひどい。
 灰色は、灰と化す=焼死か、……橙と被ってしまった。鼠色と捉えてみても、今日びペストでもないだろう。
 黒はいよいよ分からない。直接の死因となるもので黒色というのは何だろうか。
 ボタンの方からのアプローチはここまでが限界だろう。今度は、死体をあらためてみなくては。
 そもそも――……
 そう。そもそも。この男は、なぜ死んだのだ。他殺というが、体にダメージを与えられた形跡がない。
 ならば、毒物か感染症ということになるが、皮膚に異常が見られなければ素人には死因など見当もつかない。
 では、手掛かりがないのが手掛かりだという可能性はないか。つまり、まるでノーヒントであるなら、専門的な知識が必要になる毒や病気ではないことを示唆している――か?
 その時、頭上から轟音が響いた。
 コンクリートの天井が、ゆっくりと降りてきている。
 嘘だろう。制限時間など聞いていない。
 ふざけるな。俺より先に死ぬべき愚鈍な人間は沢山いる。俺は生きるべき人間だ。
 改めて頭をフル回転させた。さっき死因と紐付けできなかった色で、何かないか。
 そして思わずアッと声を上げた。
 黄色!
 雷――いや、電気だ。感電死。心臓マヒ!
 いや、しかし感電死するほどの電圧を受けて、体に焦げ目一つ残らないものだろうか……。
 瞬間、天啓のような考えが頭に閃いた。
 まさか。いや、しかしあり得る。
「おい。お前、本当に死んでるのか?」
 死体は、ピクリともしない。
「死んでいるというのは嘘なんじゃないのか。なら――嘘を表す色を押せってことか」
 誰も保証などしてくれない。だが、最後は自分で賭けるしかない。
「まさかだよな。これで天井が止まったら、むしろ怒るぜ」
 俺は、真っ赤なボタンを押した。
 天井の降下が止まった。

 俺は、別れた女房の言葉を思い出していた。
「自分は頭がいいとか、物が分かってるとか、物事を裏から見ることに長けてると思ってる人間て、自分が相手の思考を上回ったと思った瞬間、物凄く馬鹿になるのね。その人がさも好きそうな答を『見えるように隠して』おくと、簡単にコントロールできるのよ。自分様が見つけ出した答が一つあれば、もう思考力なんて空っぽになるんだから。あなたも、思い上がりと馬鹿さ加減のせいで周りに誰もいなくなってから、自分の馬鹿を悟るがいいわ」
 そういえば、死体のメモには扉のことは一言も書かれていなかった。
 鍵がかかっているとも、ボタンを押さねば出られないとも、何とも。
 色を外せば死ぬとあったが、選ばなければどうなるとも書いていない。
 俺は、天井から降り注いできた無数の丸ノコギリに全身を刻まれて真っ赤に染まりながら、かろうじてドアに取り付いた。
 押しても動かない。引いてみる。
 降りてきた天井にドアの上端が引っかかって開かない。
「うわあああああ」
 俺は絶叫しながらドアノブを引っ張り続けた。
 天井が再び、降下を始めた。


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このストーリーに関するコメント

16/04/17 霜月秋介

クナリ様、拝読しました。

死因を色で表現するとは。その発想はありませんでした(笑)素晴らしいです。自分が相手の思考を上回った瞬間馬鹿になる…ですか。確かにそうかもしれません。油断大敵ってことですかね。面白かったです。

16/04/20 クナリ

連立施行
霜月 秋介さん>
自分はむしろ、死因以外に思いつきませんでしたッ(←病気)。
謙虚に考えれば分かりそうなものを、自信がある人って、自信があるだけに自分が一番最初に手を届かせた答えを疑うことができないという盲点がある…ことがある、とこの奥さんは言いたいのでしょう。たぶん(おい)。
会社とかでもいません? こういう方(^^;)。

海月漂さん>
別のボタンを押していれば、別の死に方になります!(なぜイキイキしている)
こういうパニックものみたいなのって、犯人が出てくるとわりと興ざめというか、何者が何のためにやってるのかわからないというのが怖くて面白いと思うんで、それをいいことに姿なき黒幕には嘘みたいな無茶してほしいんですよね。
構成がうまくいって楽しんでいただけたようで、うれしいです!

16/05/18 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

殺された人の死因ではなく、自分の死因を決めるボタンなのですね。
追い詰められていく心境、安堵を打ち崩す冷静な元奥さんの分析。
一連の流れが巧みで、さすがだと思いました。面白かったです。

16/05/20 クナリ

冬垣ひなたさん>
色「彩」という意味においては、テーマを生かし切れていなかったかなあ…と今更ながらに思いますが(^^;)、薄暗い密室に無機質に並ぶ彩り豊かなボタンがあったら不気味で良いかなーと思ってこのようになりましたッ(←変)。
個人的には叙述トリック含め仕掛けのある掌編は好きなので、自分でも書いていきたいです。いきなり転調部分で元奥さんのとうとうとしたセリフを入れることによるメリハリの生み出しみたいなものに、今回は挑戦してみました。
「わー」「えっ?」と思わせるものが書けたらいいのですが。
コメント、ありがとうございました!

16/05/26 光石七

うわあ、すごい状況……(幼稚な感想)
確かに主人公は論理的で頭がいいのでしょうね。私だったら、目覚めた時この状況なら頭真っ白で何も考えられないと思います(苦笑)
元奥さんの言葉が痛烈ですね。でも、的を射ている。
主人公には悪いのですが、とても楽しめました。

16/05/28 クナリ

光石七さん>
こういう、いろいろな説明一切なしで異常な状態に放り込まれたサスペンスが好きなんですよね。
密室などに放り込まれた主人公が知力で切り抜ける、というお話は結構あると思うんですけど、「ああこれ自分だったら絶対に何一つ思いつかないで詰んでるな〜」と思いながら読んでいます(^^;)。
コメント、ありがとうございました!

16/05/30 デヴォン黒桃

ショートムービーが思い浮かびます。
密室の某ホラー映画を連想しました。
別れた女房のセリフで、主人公の以前の行いが想像させられますね。

16/05/31 クナリ

デヴォン黒桃さん>
密室でのスプラッタなサスペンスが好きなので、某有名映画に似てしまうことはままあるようです。
実は、自分一作めしか見たことないんですが、以前書いた密室スプラッタが「ソウ(言っちゃった)を片っ端からパクって並べただけ」と批判されて驚いたことがあります。
完全に決めつけられて、あれは辛かったー……。
一応主人公ひどい目に遭うので、因果応報な方を選びました(^^;)。

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