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れいぃさん

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色とりどりの肝試し。

16/04/14 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:0件 れいぃ 閲覧数:724

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 かき氷にかけるシロップのような、原色に色づいた水がペットボトル何本分も用意されている。今日は、肝試しの日だ。村の子どもたちはこの水を口に含み、何を見てもひとこともしゃべらないで再びこの広場へ帰ってくる。途中で声を出して水をこぼしてしまったら失格だ。次の年まで、「意気地なし」と呼ばれる覚悟をしなくてはならない。
 陽代鳥は、背筋が霜柱になりそうなほど緊張していた。
 意気地なしの臆病者、と思われるのは怖い。
 街のほうから転校してきて、遠巻きに尊敬の目で見られ、ようやっと、ガキ大将の右腕にまでなったのに。
「陽代鳥、おまえはひとりで行けるな。ばあさまの真珠、ちゃんと取ってくるんだぞ」
 ガキ大将の砂尾が安心しきった目をして言う。
 彼には、小さい子たちの手を引いて回る役目がある。
 二人一組で回る肝試しだが、一人あぶれるので、どうしたって陽代鳥は一人で行かなくてはならない。それが二番目に強い男の、義務であり誇りだからだ。
「行くよ」
 震えているのを悟られないように、陽代鳥は凛とした声で答えた。
 彼だってまだ十二歳だ。
 コースのいちばん最後、ずるをしたらぜったいたどりつけない場所にある「ばあさまの真珠」を、何としても取ってこなくてはならない。口に含んだ水を、一滴もこぼさずに。
 やがて、肝試しなどとうに卒業した青年たちが、小さなコップに水を注いで、出発する子どもたちに配って回る。
「飲み込むなよ、口に含むだけな」
 注意して回る彼らは、にやにや笑いたいのを必死に噛み殺しているに違いない。
 子どもたちの向かうコースに潜んでいる妖怪たちは、この青年たちの仲間だからだ。
 彼らは仕事の合間を縫って、子どもたちを驚かすことを真剣に考えてきた。自分たちも子どもだったころに、上の世代の大人たちに驚かされてきたから、そのお返しを下の世代にするのだ。
 この肝試しは、村の伝統として新聞にも取り上げられ、今年も記者が取材に来ている。
 陽代鳥もさっき声をかけられて、「珍しい名前だね、ヒヨドリくん」と言われた。

 いよいよ、陽代鳥の番が来る。
 提灯を手に戻ってきた流介は、引きつった顔をしていた。
 真珠を取る手前で引き返してきたらしい。
 青い水を口に入れていたのは、当然ながら残っていなかった。 
 子どもの悲鳴があがるたびに、山道や坂に、鮮やかな水がまかれる。
 肝試しの後もしばらくの間、雨が降るまで残っているから、色とりどりの記憶となって子どもたちの胸に残るのだ。
「行ってらっしゃい」
 流介から提灯を受け取った陽代鳥は無言でうなずいて、歩き出す。
 なんてことない、とはじめは思った。村の中は知り尽くしているし、墓地なんて遊び場の一部だ。
 けれど、あまりに静かで暗くて、心細くなってくる。時折提灯で照らすと、この辺りでギブアップしたらしい子がまいた緑や橙の水が地面を染めているのが分かった。
 俺はこの桃色の水を吐くまい、と陽代鳥は口を結ぶ。
 かたわらの樹がわざとらしくざわざわと揺れ、
「……恨みまする」
 と、掠れた声がした。
 あれは金物屋の兄ちゃんじゃないか、と一瞬思ったけれど、それより早く、「うわあああ!」と雄たけびとともに、白い着物の女が飛び出してきた。
 陽代鳥は声を抑えて、いちもくさんに逃げる。
 その行く先に片腕が落ちていて、ぺたんと生温かいものが額に触れた。
 見たらだめだ、見たら。
 自分に言い聞かせて、しっかりと提灯を握る。
 色つき水が次第に苦くなっていくように感じられた。
「来るな、こっちへ来るな……」
 低く恐ろしい声が前方から聞こえる。
 ばあさまの真珠はあの木の根っこ辺りに隠されているんだろう。
 必死に口を結んで、陽代鳥はそこに近づき、根元の隙間に手を突っ込んだ。
 ……とたんに。
「うわあああああっ!」
 地面からにゅっと伸びてきた腕が、陽代鳥の腕を掴んだのだ。
 叫んだのは陽代鳥ではなかった。
(……砂尾)
 後ろからそっとついてきていたらしい砂尾が、捕らえられた陽代鳥を見てガクガク震えていた。当然、黄色の水は辺りに巻かれてしまっている。
「砂尾は失格ね」
 地面の下から姿を現した幽霊が、泥を払いながらあっさり言った。
 誰かが来るまでずっと、穴を掘って隠れていたのだろう。
 真珠をしっかり手にしていた陽代鳥は、勇気あるものとして帰れそうだった。
 色付き水はまだちゃんと、口の中にある。

 気をつけてな、と送り出された陽代鳥は、並んで歩く砂尾が「後つけてごめん」と言うより早く、そばの草むらに桃色の水をぴゅっと噴きつけた。
「あ、おまえせっかくなのに」
 そのまま帰れたら英雄なんだぞ、と砂尾は残念がったけど、陽代鳥は首を振った。
「また来年にするよ」
 いろんな色の水がまかれた道を歩いていく。


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