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海音寺ジョーさん

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都会の水族館

16/04/12 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:0件 海音寺ジョー 閲覧数:865

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池袋にあるムーンライト水族館は、高層ビルの屋上にある。都心の、憩いの場だ。アシ
カショーもやっていて、ミル子は調教師として舞台に立っている。
アシカのトレーナーの収入だけでは生活できないので、副業としてウチのラーメン屋で
パートをしている。
ミル子は真面目に働いてたので、オレはアシカの調教師って品がいいんだなあとしみじ
み感銘し、ムーンライト水族館のイメージもミル子のイメージで美化して捉えてた。

オレは子供のころ修学旅行で鳥羽の水族館に連れて行ってもらったことはあったが、池
袋の水族館には東京に来て以来、まだ行ったことがなかった。でも、おとなしいミル子が
舞台で活躍するのは、どんなもんなんだろうという興味が湧き、一度行ってみたいという
好奇心が高まってきた。しかしラーメン屋は忙しくて、ろくに休みがとれないのだった。

秋ごろ、ムーンライト水族館が大幅リニューアルで一年休館することになったとミル子
が伝えてきた。必然自分も収入が減るから、夕方のパートだけでなく、昼の時間帯も働か
せてもらえないかと交渉してきたのだったが、昼は昼でパートは足りていて、ミル子の勤
務シフトを増やすのは困難だった。
「そうですか、では他の仕事を探します」
ミル子は別のバイトを見つけ、ラーメン屋を辞めてしまい、それっきりになった。

「オレ、ミル子のショー見に行きましたよ。ミル子、かっこよかったっすよ」
厨房をまかしてるバイトリーダーが思い出を語ってくれた。そうか、かっこよかったのか。

それから、大きな地震があってバタバタしてるうちに、ミル子のことは思い出さなくな
った。数年たち、実家の事情で関西に戻ることになった。20年ぶりに、高校時代の友達を
訪ねた。古い家の、玄関を開けて懐かしい顔が出てきた。だいぶ鄙びてはいるが、昔と同
じ顔が。久しぶりやなあ、と旧交を温めた。積もる話をして、休みの日に、またどこかに
行こうぜ、と意気投合した。

「京都に新しく水族館が出来たんや、行ってみいひんか」
「そうなんか、よし、行こう」

次の日曜に、京都の梅小路公園前にある京都水族館に行った。
公園をバックにした野外ステージで、イルカショーを観た。その時に心のどこかに聖性
を感じ、いったいそれは何処からくるのか、と軽い混乱を覚えた。
記憶の揺り戻しが生じ、四年ぶりにミル子のことを思い出した。色黒で清楚で、キビキ
ビと夜走獣のように静かで精悍な動きをするミル子が。ミル子の笑顔は素晴らしかった。
ミル子が、今も何処かのステージで万雷の拍手をもらっていればいいなと思った。
眼前でイルカが飛沫を上げて、高く跳躍した。




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