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デーオさん

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駅 〜ユキ〜

12/09/03 コンテスト(テーマ):第十四回 時空モノガタリ文学賞【 駅 】 コメント:1件 デーオ 閲覧数:1528

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大勢の勤め帰りの人達が川の流れのように改札口に向かっている。私もその流れの一部だった。改札口から出ると、流れは滝壺のように一部が停滞しやがて流れは四散して行く。パチンコ店を目指し歩き始めた私の斜め前を、少し肩を揺らしながら歩く癖があった見覚えのある姿が目についた。私は思わず立ち止まり、その姿が駅に向かって行くのを見ていた。

人の流れに押され、私はバス停の側に押しやられた。「ユキ!」と思わず言葉が漏れる。あの頃と同じショートカットの頭が、そしてお気に入りだと言っていたコート姿。私は人混みをかき分けながらその後を追った。

まるであの日と同じようにユキは、少し怒ったような背中を見せて階段を登って行く。

懐かしさとほろ苦さ、後悔とで懐かしい気分のまま後ろを歩いた。

ユキと同じ車両に乗った私は離れた所に立ち、人々の間からさり気なく少し俯き加減で座っているユキの姿を見る。ユキは本を取り出して読み始めた。そして、少し下がったメガネを左中指で上に上げた。それも見覚えのある仕草だった。その薬指にはシンプルな指輪があった。

私は近寄って言葉をかけるのをためらった。ユキの反応を知りたい。あの素晴らしい笑顔をもう一度みたいと思うのだが、ユキを傷つけたであろう自分が、ユキの反応で傷つくことを恐れているのかもしれない。私は、暗くなり始めた窓の外を見ながらあの頃あの日を思い出す。

    *     *

ユキは同じ課の後輩であり、昼休みなどに話をすることもあって、退社時たまに二人きりになった時に、電車で二つ駅先にある繁華街をぶらぶらしたりしていた。

いつの間にか当然のように残業か特別の用事でもなければ毎日となり、ユキは私の住んでいるアパートにも来るようになった。それは楽しい日々であった。でも、私には病気ともいえるパチンコ好きがあって、二人のデートにもパチンコ店に入るようになった。最初興味を示して、一緒にやっていたユキもすぐに飽きて、私が一生懸命にやっている側で退屈そうに見ているようになった。

ある日、ユキは黙って私について歩いていた。私が古本屋に入ると、一緒に入って本を探していた。なぜかその時私は、ユキを鬱陶しいと思ってしまった。少し離れたもう1件の古本屋に入った時も黙ってついてきた時に、私はユキに向かって「先に帰ってもいいんだよ」と言った。その時にユキが、「一人になってパチンコでもしようと思ったんでしょ」とでも言ってくれれば、苦笑しながらも、一緒にどこかへ行ったのかもしれない。

ユキはまるで別れの言葉を聞いたように、表情を変え、私をじっと睨んだ。そして、何も言わずに背中を向け歩き出した。私は直ぐ後を追い少し離れた後ろを歩いていたのだが、ユキは背筋を伸ばし、真っ直ぐに前を向いて力強い足どりで歩いて行く。ユキは怒りのオーラを出していたのだろう。向こうから来る人々がユキの進む道を開けて通る。水を切って走るモーターボートのようだった。

    *     *

あの日のあと、一時は仲直りしたものの、結局ユキは会社を辞めて私のもとを去って行った。

私は、まだ本を読んでいるユキの姿を見てから、思いを断ち切るように次の駅で降りた。そもそも家とは反対方向だった。胸の中に何かが澱んでいて、多分泣いてしまえば、それは溶けてしまうような気がした。

普段降りたことの無いその駅の改札口を出て、私は寂れた商店街を歩き出した。

ユキはなかなか頭の中から出ては行かず、商店街の外れまで歩いてしまった。また駅に向かうために引き返した途中で、パチンコ店が目に入ったが、もう他人になってしまったユキに申し訳ないような気がしてその前を通り過ぎた。



それぞれに違う思いを抱きながら駅に向かう人達に混じって、私は改札口に向かって歩いた。




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このストーリーに関するコメント

12/12/25 笹峰霧子

ストーリーの流れが、さすがお上手ですね。
色々なお作を読ませてもらって参考にしたいと思います。

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