1. トップページ
  2. 青い水族館

たまさん

こんにちは。ごくフツーのおじさんです♪

性別 男性
将来の夢 たぶんもう遅い。それとも、すでに到達したか?
座右の銘 晴耕雨読

投稿済みの作品

3

青い水族館

16/04/06 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:5件 たま 閲覧数:1132

この作品を評価する

春休みが終わって明日から新学期がはじまる。
今朝の気温は14℃。黄色い雨が降っている。午後はオレンジ注意報が出ていて憂鬱だったけれど、今日中に東の街に帰らなければいけない。
 ママー、コットンの靴下どこだっけ?
 去年のだったら穴が空いてたから捨てたわよ。
 え、そうなの……。
ベッドの上に旅行鞄をひろげて有りっ丈の夏物を詰め込んだ。夏休みまでは帰れない。学生寮のある東の街には午後一番の飛行船に乗って帰るつもりだった。
わたしが生まれ育った街は地上9メートルの高さにあって、一年中雨にぬかるんだ地上や地下に人はいない。いわゆる高床式都市と呼ばれている街だった。雨はめったにやまない。というか、去年の夏休みに三日ほど雨がやんで八年ぶりに夏祭りをして以来ずっと降り続いていた。
空港は街の外れにあってモノレールに乗ってゆく。雨期と乾期があった百年ほど前まではプロペラ式の飛行機が飛んだらしい。でも、雨期ばかりになって雨の中の飛行はとても危険だったから、より安全な飛行船が飛ぶようになったという。オレンジ色に煙り始めた雨の中を、飛行船は20名ほどの乗客を乗せて離陸した。東の街まで三時間余りの憂鬱な旅だった。
ほんとのことをいうと飛行船は大嫌い。船室の丸い窓の外はいつもオレンジ色に濁って、わたしはまるで泥水の中に生きるナマズと同じなんだ。こんな世界で一生を終えるのかと思うと憂鬱でたまらない。たとえ、不自由のない生活だとしても、わたしは、わたしの居場所がわからない。ここは地球よ、ってママはいうけれど、わたしは信じることができなかった。どうしても。
一時間余り飛んだ気がする。わたしは眠ったらしくて、騒がしい船内の人声に目覚めた。オレンジ色の雨の中を飛行船はかなりの速度で降下しているのがわかった。

飛行船はやわらかい草原に不時着した。どこからともなくバスがやってきて乗客を乗せるとオレンジ色の雨の中を走った。ぬかるんだ坂道を上り切ると、石畳の道とレンガ造りの家並みが窓の外にみえた。そこは東の街から遠く離れた水族の街だった。迎えの飛行船が来るまで、わたしたちは水族の街にしばらく滞在することになった。
あくる朝はホテルの一室で目覚める。窓の外が妙に明るくてレースのカーテンを開けてみると、ほとんど無色に近いガラス玉みたいな雨が降っていた。
 あ、やむかもしれない……わたしはそう思った。
水族の街はなだらかな丘陵の頂きにあって、石畳の坂道を歩くと雨水は心地良い音を立てて側溝を流れ下った。人々はレンガ造りのアパートメントに暮らし、街の中央には大きなドーム状のテントがあって、ちいさなお店がひしめいた市場があった。水族の人々については様々な噂があって、たとえば左右の耳の穴はふたつずつあって水の中でも呼吸ができるとか、水族の人たちは水の中でしか性交をしないとか、その昔は傘もささずに裸で歩いていたとか、まるで世界の七不思議みたいな噂話だった。
二日目の朝、雨はやんだ。うそみたい……そんな感じだったけれど、わたしは大急ぎで朝食をすませた。ひょっとしたら青空がみえるかもしれないし、雨がやんだらどうしてもこの目で確かめてみたいものがあった。
 近くに海のみえる場所はありませんか?
ホテルのフロントに訪ねると少し遠いけれど岬があるという。バスが出てるらしい。わたしは市場のバス停まで歩いて満員のバスに乗った。この人たちも海がみたいのだろうか? そう思うとわたしは楽しくてたまらない。
街を出て一時間余りでバスは岬に着いたみたいだ。満員のバスは空っぽになって運転手はもうお昼寝をしている。バス停を降りると目の前に遊園地があった。でも、鉄製の観覧車やジェットコースターは真っ赤に錆びていてとても動くとは思えない。遊園地の中へと歩いてゆく人たちはどこへゆくのだろうか。わたしは汗ばんだ上着を脱いで人々のあとを追った。
芝生の中の小道をしばらくゆくとずっと先に黒い林がみえた。

 えっ、なに? 
黒い林にたどり着くと水族の人たちはあちこちの木の根株に集まって服を脱ぎ始めたのだ。唖然として立ち尽くすわたしを残して、まるでお風呂に入るみたいにバスタオルを手にした人々は林のおくへと歩いてゆく。
 そうだ、海だ……林の向こうに海があるのだ。
わたしはとっさに思い出した。小学生の頃にママに聴いた海水浴の話。ママたちは浜辺の林で水着に着替えて泳いだという。
空はまだ低いけれど、ところどころ雲が切れて青い空がみえた。目の前には真っ青な海と白い波が打ち寄せる浜辺があった。波しぶきを浴びてはしゃぐ大人や子供たちの歓声が聴こえた。

 ああ、地球だ。わたしはいま地球にいる……。
ただそれだけを確かめたくて、わたしは海をさがしていたのだ。もう迷わない。わたしはまっすぐ生きてゆける。
空も、海も、青く輝くこの星で。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/04/06 たま

今回は早めに仕上がったので、挿絵も描いてみました……♪^0^v

16/04/11 泡沫恋歌

たま さま、拝読しました。

これは未来の地球のお話なのかしら、不思議な世界観でした。
たまさんらしい、飛行船とかメルヘンチックで可愛らしいお話。
水族たちの存在も気になります。
挿絵も素敵でした。

16/04/11 たま

恋歌さま、ありがとうございます♪

最近の地球規模で発生する異常気象が気になってしかたありません。
いつか地球ではない地球が生まれそうな気がします。
水族の話はもう少し書き込みたかったのですが、字数が足りませんでした。
久しぶりのお絵かきはペイントを使用してます♪

16/04/26 そらの珊瑚

たまさん、拝読しました。
どことなくジブリを思わせるSFですね。
雨ばかりで視界の悪い日常というものは、どんなにか鬱陶しいものかと思います。
それだけに最後のシーンは晴ればれとした明るい気持ちになりました♪

16/04/27 たま

珊瑚さま、ありがとうございます♪

雨のなかの生活は魚になった気分です^^
SFだけど遠い昔のようなモノガタリなので飛行船がでてきます。しっかりジプリですね^^
自分の居場所が見つからないって深刻なお話なんですが、普遍のテーマでもあります。

ログイン

ピックアップ作品