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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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末期の願い

16/04/06 コンテスト(テーマ):第78回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:992

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 白いシーツ、白の掛布団、そして四方白い壁にかこまれたなかで、K老人はその痩せさらばえた体を横たえていた。深く落ちくぼんだ目の光は、いまにも消え入りそうに弱々しかった。乱れた呼吸は苦しげな咳に何度も阻まれ、それでなくても枯れ木のような体はそのたびにいまにもへし折れんばかりに波打つのだった。
 ベッドのまわりには、白衣に身を包んだ男女が数人、神妙な面持で彼を見守っていた。
「Kさん、なにかおっしゃりたいことはありますか」
 老人の手首から脈を測りながら、白衣姿の主任らしい一人がたずねた。
「そろそろ、終わりがちかづいていんだな……隠さなくても、わしにはちゃんとわかっている。わしもこの歳まで生きながらえたんだ、思い残すことなんか、ない……といいたいところだが、一つだけあるんだ」
 言葉がか細くなるいっぽうのK老人の耳もとに口をちかづけ、優しい声音で助手がいった。
「それは、なんですか。私たちに、教えてくれませんか」
「あんたたちにとっちゃ、つまらないことだ」
「いいから、お話しください」
 と、それはまたべつの助手がたずねた。
 K老人は、膜がかかったような虚ろな目を、しばらくあたりにさまよわせてから、干からびた唇を、むりやりこじあけるようにしてひらいた。
「子供じみたことと笑わんでくれよ。ロボットたちの未来、わしがしりたいのはそれだ。日進月歩を遂げたロボットたちが将来、どこまで進歩発展をとげるのか、いずれは人間にみわけがつかないまでに進化することだろう、それをしらないまま死んでゆくのはなんとしても心残りだ―――」
 耳障りな咳がK老人の言葉を遮った。やがて荒々しい息遣いがつづいたとおもうと、さいごにほとんどききとれないような声がその口から出て、あとは急に静かになった。
 全員の目がモニター画面に釘づけになった。そのときにはすでに、血圧波形や呼吸曲線はきわめて緩やかに波立っていて、まもなくすべてが一本の線となって画面上を並んで走るのを見届けた助手が、みんなにむかって一言、
「ご臨終です」
 全員が一様に、厳粛な表情でうなずいた。
 ただちに助手たちが力を合わせて、K老人をベッドからおろすと、テキパキとした手つきでその体を折りたたみはじめた。そして、模擬臨終型ロボットは次回、その役目が再び訪れるときまで、研究室の片隅にたてかけられた。


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