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つつい つつさん

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間違った人生

16/04/03 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:1014

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 夜の八時になった。もう夕食も食べたしテレビを見てもつまんないし、スマホのゲームにも飽きた。かといってLINEするような友達もいない。仕方ないから、いつものようにぶらりと出かける。
 コンビニを越えて本来なら人通りの少ない工場跡の空き地に行く。中学生の女子ひとりでこんな寂しい道歩いたら危ないんだけど今日も賑わっていたので安心だった。町内会長やらPTAやら、近所のおじさん、おばさん連中が集まり、みんなして眉間に皺を寄せ、なにやら相談している。
「今日こそは止めさせましょう」
「あんな人が近所にいると、迷惑でしょうがないわ」
「あれだけ言われて、まだわからないかね」
 しばらくすると、周りの喧噪なんかまるで気にしていない様子で、ひとりのおばさんが、ニコリともしないでズカズカと歩いてきた。「猫おばさん」だ。私は音の出ない拍手で猫おばさんの登場を歓迎する。右手には杖を持ち、左手には無造作にスーパーの袋をぶらさげている。ひとりのおじさんが猫おばさんに駆け寄る。
「あんた、昨日あれだけ言っただろう。勝手に餌なんかやっちゃ駄目だ!」
 さらに、眼鏡を掛けたおばさんが近寄る。
「みんなフンやら鳴き声やらで迷惑してるんです。あなたの勝手なエゴイズムで餌をやらないで」
 猫おばさんは黙ったまま目を見開き、近寄ってきたおじさんの右足のすねを杖でたたく。
「オオッツッゥウ!」
 おかしな悲鳴をあげ、おじさんは二、三歩よろめくと、その場にしゃがみこんだ。恐れをなした眼鏡のおばさんは必死で猫おばさんから逃げまどう。群をなしている連中は「暴力ふるうなんて」と鬼のような剣幕で口々に非難するけど、誰も猫おばさんに近寄ろうとはしない。私は空き地の隅の木々の陰から「ざまあみろ」って、猫おばさんを応援する。
 邪魔者を追い払った猫おばさんは、いつものようにスーパーの袋に入れてあるキャットフードをむんずと掴むと、まるで力士が土俵入りしているかのようにキャットフードを豪快にばらまく。すると、どこに隠れていたのか次々と野良猫達が姿を現す。私は、この野良猫達が好きだ。ペットショップで可愛く愛想振りまいて、じゃれているような猫より、断然野良猫のほうが好きだ。こいつら、ふてぶてしい。ちょっとでも近寄ろうもんなら「あ、なんかワシに文句あんのか」って感じで睨んでくる可愛げのなさがいい。餌を食べるだけ食べたら、もうおまえらに用はないって感じでさっといなくなるところもいい。警戒心のない動物なんて大嫌いだ。エサには近づくけど、ちょっとでも人間が近づくと一目散に逃げるような臆病さが好きだ。そう、人間は怖いんだ。それをわかってる野良猫が私は大好きだ。
 野良猫達はさんざん餌を食べると満足したのかいなくなり、猫おばさんもまるで何事もなかったかのように、騒いでる連中なんてまるで眼中に入っていないかのようにまたズカズカと去っていった。私は、今日もご苦労様って、猫おばさんに手を合わせる。
 でも、騒いでいたおじさんおばさん連中はこっからが本番だ。猫おばさんが見えなくなると再び活気を取り戻し猫おばさんの悪口に花を咲かせる。
「あの人、三丁目のボロボロな文化住宅にひとりで住んでるみたいよ」
「身寄りも、友達も知り合いもいなくて、結婚もしてなくて、ずっとひとりで生きてきたみたいよ」
「だから、猫しか相手出来ないのね。ある意味かわいそうよね」
 勝ち誇ったように猫おばさんの悪口を言い合い喜んでいる。まるで、猫おばさんの痛いところを突いてやったみたいに満面の笑みを浮かべ猫おばさんのいないところで笑う。私は思う。なにが悪いんだ。ひとりでいいじゃないか。友達ってなに。親なんかいても、うっとうしいだけ。猫しか相手出来ないんじゃない。猫だから相手出来るんだ。たった十五年しか生きてないけど、私は家族なんていらないし、友達も欲しいなんて思わない。ひょっとしたら私は将来、猫を飼うかもしれないけど、猫おばさんのやり方も一つの答えだなって思う。だけど、それは間違いだ。負け犬の遠吠えだ。正しいのは騒いでいるおじさん、おばさん達で、間違っているのは猫おばさんだ。それくらいのことは私は知っている。社会に迷惑をかけないように、人の道にはずれないように真面目に生きていくのが一番だってことはわかっている。だけど、私はそれが出来ない。人になじめない。学校になじめない。社会になじめない。だから、間違って生きてる。たぶん、猫おばさんもそうなんだろう。生き方を間違ったんじゃない。間違った方向しか道がなかったんだ。この先私も猫おばさんみたいに生きるたびに非難され、叩かれるんだろう。それでも私は進む。悪口言われても、怒られても、なじられても、それでも私は間違ったまま生きる。


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このストーリーに関するコメント

16/04/17 つつい つつ

小狐丸 様、感想ありがとうございます。
僕も基本的には、たくさんの人に共感されるような話が書きたいと思いつつも、たまに変な話も書きたくなります。
楽しんでもらえて嬉しいです。

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