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いたるさん

ショートショート初心者です 好きな作家は星新一さんです 小説家になろうでも投稿したりしています

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繁華街にいる男

16/04/03 コンテスト(テーマ): 第77回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 いたる 閲覧数:723

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またあの男が繁華街を歩いている。俺はいつもその男が気になって仕方が無かった。中年くらいのその男はスーツ姿でコーヒー片手に喫茶店で読書をしていたり、ジャージ姿でひたすら道に落ちているタバコの吸い殻を拾っていたり、時には若者のような服装と歩き方をしながらショーウィンドウを眺めていたりしている事もあった。

俺は自慢じゃないけれど一度見た人の顔や特徴は絶対忘れない特技を持っている。いつどこで会っても、少しくらいの変装をしていてもああこの人かと分かる。だから気になって仕方がなかった、ただの冴えない中年の男なのに服装ややっていることなんかが違ううえに、同じ繁華街でしか見かけないのだから。

大学への通学路としてその繁華街を通るだけで俺は毎日その男を見かける事はなく、その男のやっている事に何かの規則性があるのかは分からない。たまに二日連続で不動産屋のチラシを眺めている日なんかもあったが。

半年ほど前から俺はその男を見かけた時には毎回その男がやっている事、服装や仕草などをノートに書きはじめた。最初はただの奇人観察記録だったのだが、半年もするとどうしてその男はこんな事をしているのだろうと疑問に思いはじめた。

次見かけた時は聞いてみるか、とぼんやり思いながら繁華街を歩いていたところに丁度またあの男がいることに気付いた。今日は平凡な服装で何かの雑誌を歩きながら読んでいるようだ。俺は少し勇気を出してその男に近付いた。

すみません、と俺は通りすがりにその男に声をかけた。
「何ですか」とその男は雑誌を読みながら俺の顔を見ようともせずに答えた。

失礼だとは思うのですが…と俺は疑問を口にした。するとその男は少し沈黙して
「………探し物をしているだけです」と淡々と言った。
「探し物ですって、そんなはずが」
「あなたには分からないでしょうね」その男は淡々と言う。俺はちょっとムッとしながら
「何を探しているんですか」と尋ねた。
「探し物を探しているんです、それだけです」その男はまた淡々と答えた。

俺は意味が分からなかった、とても探し物をしているとは思えない。それに探し物を探しているなんてやっぱりこの男は頭がおかしいんじゃないか。しかしこの男は何を探しているのだろう。

もしかしたらこの男と同じ事をすればいいんじゃないか、と俺は思いついた。

それから俺はその男を見かけるたびにその男の隣で出来るだけ同じ事をしてみることにしてみた。服装も関係あるのかもしれないと、姿恰好も似せて。男は俺を全く気にすることはなかった、探し物に夢中なのだろう。大学もろくに行かなくなった。俺はもうあの男というよりもあの男の探し物に取りつかれていた。

何年経っただろうか。俺はその男が繁華街のいつどこで何をしているのか分かるようになったけれど、その男の探し物は分からなかった。

ある日、突然その男は居なくなった。探し物が見つかったのだろうか。それとも死んでしまったのだろうか。俺は結局分からずじまいだった。ここまで来たらあの男の探し物を探すしかない。

何年経っただろうか。もう分からない。俺は探し物を探し続ける、あの男が探していたものを。あの男がやっていた事をやりながら。いつ何をすべきかはもう体が覚えている。

ある日、平凡な服装で雑誌を読みながら繁華街を歩いていた時だった。隣からすみません、と俺を呼ぶ声がした。俺は何ですか、と答えた。
「いつも不思議な事をされているようですが、どうしてそんなことをされているのですか」

ああ、あの男も俺と同じだったのだ。少し俺は沈黙して
「………探し物をしているだけです」と淡々と言った。


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