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犬なんかはたぶんいない。

16/03/29 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:0件 れいぃ 閲覧数:751

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 その水槽には、犬がいたんだ。
 青と黄色、片目ずつで色が違うやつさ。
 俺がそっと手を出してみたら、犬は右の前足を出して載せてきた。
 濡れていた。
 
 路騎士は、僕の左のこめかみのずっと向こうを見ている顔で、よどみなくそんな話をした。どうせ作り話だと思う。新しくできた水族館に、犬なんかいるはずがない。「水族」じゃないじゃないか、犬は。だいたい、お金とって見せるような珍しい動物じゃないし。
「そいつ、何犬?」
 一応のってやったら、路騎士は憎たらしくも首をかしげて、「ミックスかな。レトリーバーとダックスフントの」なんてもっともらしく言う。
 嘘つけ、そんな大きさ違いすぎる二頭が交尾できるわけがないだろ。
 人間が無理やりかけあわせたにしたって、想像できる姿が可愛くなさすぎる。大型犬なのに足が短いとか、短足なのに毛がふっさふさとか。
「犬の他には何が?」
 さぁ、いったいどこでボロが出るかな。
「うーん、人間が泳いでた」
 は、それはもしかして飼育員か何か?
「パリコレに出てるようなりっぱな衣装着てにっこりしてたよ」
 はいはい、嘘もそこまでくるとおもしろいね。
「ドラァグクイーンもいた?」
「うん、いたいた。女王様、いっぱい。ハートの女王に薔薇の女王に、雪の国の女王様も」
 どういう水族館だよ、それは。
 だいたい、ドラァグクイーンって、おまえの想像してるような「女王様」じゃないよ。
「それで、お客さんはいっぱい来てたかい」
「うん。子どもも、大人も。子どもはみんなお父さんに肩車してもらって、高いところの林檎を取るんだ」
 はぁ、水族館に林檎、ね。
 僕はもうつきあうのもばからしくなってきたよ。
 そりゃたしかにこの町に初めてできた水族館だし、路騎士なんてキラキラ厨二ネームを真剣につけた兄さんは、この子をどこかに連れてってやったことなんかない。パソコンもケータイも持っちゃいないからたぶん、「水族館」を調べたこともないな。そのわりにパリコレなんて知ってるのは、義姉さんの趣味がうつったんだろう。かわいそうなコ。
「入場料がいくらか分かったら、おじさんのバイト代で連れてってやれないこともないな」
 どうせ案外高いんだろうけど、林檎も女王も犬も水族館には存在しないって教える役目はプライスレス、だから。
 行くことはもう決めているくせに、最後の意地悪で訊いてみた。
「うーん、五百円、くらい……?」
 そうだね、おまえのお小遣いたしか五百円だもんね。
 お札なんか見たことないんだろうな、兄さんも義姉さんもけちだから。
「そっか、五百円か、ならいけるな」
「本当!?」
 路騎士の生意気な目が輝く。
「あれ、おまえもう行ったんじゃないの?」
 突っ込んだら、視線が回遊魚のように泳いだ。
「ま、いいや。僕も行きたかったしな、水族館」
 教えてやるよ、今度の日曜。
 水族館には、サメやペンギンやラッコがいるってこと。
 人間がらくには行けない海の世界にも、すげー生き物がいっぱいいるってこと。
 僕もかなり久しぶりに行く水族館のことを考えると、楽しくてたまらなくなってきた。




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