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泉 鳴巳さん

泉 鳴巳(いずみ なるみ)と申します。 煙と珈琲とすこしふしぎな方のSFが好きです。文章を書くことが好きです。短編が好きです。 まだまだ拙いですが皆様の作品を拝読して勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い申し上げます。 HP:http://izmnrm.wpblog.jp/ Twitter:@Narumiluminous

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野良猫のルドルフ

16/03/29 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:11件 泉 鳴巳 閲覧数:2465

時空モノガタリからの選評

「野良猫」としての矜持を保ちつつ、適度な距離感をたもちながら家族と関わっていくルドルフ、猫らしい魅力があり素敵です。猫に限らず本来人間と動物とは、本来対等であるはずのものなのでしょう。「自分の誇りを守るため勝手にやった行い」を知られまいとするルドルフと、ハヅキさんの心づかい、彼らの適度な距離感が素敵だと思います。ほんわかとした気持ちになれる暖かい作品でした。

時空モノガタリK

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 おれは猫だ。名前もちゃんとある。

 名はルドルフ。濡れたような艶のある毛並みが自慢の黒猫だ。
 この名前はハヅキさんという人間が付けたんだ。なんでも人間の読み物からとったそうだ。おれは名前なんて何でも良いのだけれど、しかしルドルフという響きはなんだか気に入ってもいた。

 おれは野良猫として生まれ、自分の力だけで生きてきた。野良として中堅の域に達していたおれだが、とある冬、食糧の確保を怠るというヘマをやらかしちまった。必死に残飯やら鼠やらを探しまわったが、寒さと空腹に苛まれ遂には道端で行き倒れた。
 そんなおれを暖かい家に連れ帰り、飯まで出してくれたのがハヅキさんだった。「今日からあなたも家族の一員よ」なんて言って。
 バカ言えよなんて思いながらも、ハヅキさんとその旦那が暮らす家があんまり居心地がいいもんだから、それ以来ずるずると入り浸ってしまっているんだ。
 だがおれは野良の誇りを捨てたわけじゃねえ。自由に外出するし、しばらく遠出することもあった。首輪なんてもっての外だ。
 でもハヅキさんは気まぐれなおれをいつも笑顔で迎え入れてくれた。それどころか「怪我はない?」なんて身体の心配までしてくれる。おれはまだカミサマって奴に会ったことがねえが、きっとこんな感じなんだろうな、なんて思う。

 そんなハヅキさんが、朝からずっと悲しそうにしている日があった。
 昼を用意してくれる時も、無理して笑っているのがばればれだったから、おれは柄にもなく心配になったんだ。
 それとなく後をついて回ったところ、どうやら旦那から貰った指輪を失くしちまったらしい。さんざん探し回っても、一向に見つからないようだった。だからあんな顔をしていたのか。おれにはあんな輪っかの価値は分からねえが、それだけ大事なものなんだろうな。
 おれは思った。「任せろ」ってね。
 飼い猫になったつもりは無かったが、受けた恩を忘れるほど礼儀知らずじゃない。

 その日は結局指輪を見つけることができず、落ち込んだ表情のままハヅキさんと旦那は床に就いた。
 そんな二人が寝静まった頃、おれはそろそろとあてがわれた毛布から這い出た。そして最後に指輪を見たという洗面台の辺りに向かった。スンスンと鼻を鳴らせば、あの懐かしいような落ち着く香りが微かに感じ取れた。わんコロには負けるが、おれたち猫だって人間なんかとは比べものにならないくらい鼻が利くんだぜ。
 そのまま慎重に匂いを辿っていき……ほうら、見つけた。
 そいつは洗濯機とかいうデカい機械の底にあった。多分、洗面台から落とし、そのまま転がって入り込んじまったんだろう。しかも何かの拍子で底の出っ張りに引っ掛かっていた。これじゃたとえ洗濯機を動かしたとしても見つからなかっただろうな。
 壁と機械の隙間に潜り込んだおれは、埃だらけになりながらもなんとか指輪を取り出すことができた。そのまま二人の寝室へ向かい、涙の跡が残るハヅキさんを横目に指輪を棚の上に置いた。そして再び自分の毛布に潜り込むと、何事もなかったかのように眠りに就いた。
「シンちゃん! 指輪、見つかったよ!」
 翌朝、そんなハヅキさんの声で目が覚めたのは言うまでもない。

 驚いたのが、その日の昼飯だった。
 一嗅ぎしただけで分かる、金持ちの飼猫ですらなかなか食べたことのないような、超高級猫缶を出してくれた。そいつを皿に盛りながら、動揺するおれに向かってナイショ話をするみたいにハヅキさんは言ったんだ。
「ルドルフが見つけてくれたんでしょ? きっと誰も信じてくれないけど、私には分かるよ」
 興味の無いふりをしながら、おれは昼食を掻き込んだ。そいつは信じられないくらい美味かった。ハヅキさんが微笑みながら漏らした言葉を聞くまでは。
「うふふ。だって、あなた埃まみれだもの」
 思わず一瞬固まったね。ヤバいと思ってすぐにまた食べ始めたが、もう味なんて分かんなくなっちまった。
 自分の誇りを守るため勝手にやった行いが、埃が原因でバレちまうなんて、スマートな黒猫としちゃあどうにも締まらない。ああ、今思い出しても恥ずかしいやら勿体ないやらでモヤモヤするぜ。

 それからしばらくして、ハヅキさんがしばらく家を留守にしたんだ。飯は旦那が出してくれたから文句はねえが、なんだかつまらなかった。
 いい加減どうしたんだろうと心配になってきた頃、ハヅキさんが帰ってきた。その腕になんと赤ん坊を抱いていたのを見て、流石のおれも心底たまげたぜ。

 今じゃおれも若くない。前みたいに身軽な動きはできなくなっちまった。
 おれは今でも野良猫のつもりだぜ?
 だけど、寒い日にみんなでコタツに入ったり、ようやく歩けるようになった赤ん坊と追いかけっこをしている時にふと思うのさ。
 家族ってのも、案外悪くねえもんだなって。


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このストーリーに関するコメント

16/03/30 イルカ

 優しさ、思いやりが伝わってきます。
ルドルフ 強がり言ってくけど、ほんとは さみかったのだと思います。
心 温まる作品ですね。^^

16/04/16 泉 鳴巳

イルカ様

ルドルフは、家族のことが大好きな良い子です。
いわゆるツンデレなんです笑
お読み頂きありがとうございました!

16/05/03 光石七

拝読しました。
姿も心意気も男前で、根は優しいルドルフにハートを射抜かれました(笑)
温かいお話をありがとうございます。

16/05/03 泉 鳴巳

光石七様

お読み頂きありがとうございます。
クールぶっているけれどどこか抜けていて優しい人柄(猫柄?)を目指したので、そう仰って頂いて嬉しいです。こちらこそありがとうございました。

16/05/07 つつい つつ

ルドルフのクールさとプライドがかっこいいです。
ルドルフが居れば、この家はずっと幸せでいられるだろうなって思えて幸せな気持ちになりました。

16/05/09 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。
プライドと、外から見えるルドルフの愛らしさのギャップが良いと思いました。

16/05/10 石蕗亮

拝読致しました。
いやー、かっこいい!家に付く猫が人の為に動くっていうのがちゃんと猫らしく描かれていてとても良かったです。
ツンデレなあたりが猫!ですよね。
ツンデレがなかったら犬とかわりなくなってしまうので。
ルドルフ欲しくなりました(笑)

16/05/11 泉 鳴巳

つつい つつ 様

まだ幼い頃、実家で猫を飼っていたので、彼の動きや行動を思い出しながら書きました。
今は亡き彼は探しものを見つけてくれたりはしませんでしたが、幼い私と遊んでくれた、ある意味お兄ちゃんのような存在でした。もしかすると、その温かさが文章に宿ってくれたのかもしれません。
お読み頂きありがとうございました。



にぽっくめいきんぐ 様

確かに本人(本猫?)はカッコつけているつもりでも、人の目から見たら可愛らしい動きをしているかもしれません笑
お読み頂きありがとうございました。



石蕗亮 様

ちゃんと猫らしく描かれているとのお言葉、ありがとうございます!
ルドルフは一生懸命だけどちょっと頼りない旦那さんの穴を埋める、影のヒーロみたいなイメージで書きました。
犬は好きではないけれど、認めている部分もある……という裏設定(?)もあり、いつか他の話も書いてみたいと思います。
お読み頂きありがとうございました。

16/05/23 デヴォン黒桃

ツイッターからきて読みました
ルドルフのツンとした雰囲気と、優しい気持ちの同居。
ハヅキさんの素直な愛らしさに、ハッピーエンド。
これからのルドルフは、赤ちゃんにどう接していくのでしょうか。
ルドルフの心の氷が溶けて行ったようで、優しく接するルドルフが見える気がします。

16/05/23 泉 鳴巳

デヴォン黒桃 様

実は当初、ラストでルドルフが息を引き取る流れを想定していました。しかし、2000文字の中では時間経過が急すぎるように思えたことと、誕生と死を描写せず、飽くまでルドルフの暮らしを切り取った話にしたかったことから現在の形になりました。ですので、彼の「これから」について言及して頂き嬉しいです!
お読み頂きありがとうございました!

16/06/04 名の無い魔術師

拝読させて頂きました。
猫は家に着くが家人も家の一部として見るそうです。
何が猫を野良と家猫に分けるのかは猫次第なのでしょう。
猫視点のお話、素晴らしい内容でした。

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