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奇都 つきさん

金魚とクラゲが好きです。 主にホラーを書いております。 他ジャンルだと、ギャグ、コメディ、ファンタジーをよく書きます。 よろしくお願いします。

性別 女性
将来の夢 ホラー作家になれたらなぁ
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ラストシネマ

16/03/28 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 奇都 つき 閲覧数:662

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 気がついたら、私は暗い中にいた。
 ホラー映画やサスペンス映画みたいに、どこか体がガムテープやロープで括られていたり、ベッドに縛り付けられたりなんかはしていない。どこか体に痛みがあるなんてこともない。
 私はそこそこいい具合に柔らかい椅子に腰かけて、何かを前に座っている。劇場や、映画館のように左右に席が伸びていて、ちらほらと座っている人が見える。目を凝らすと、なにも移していない真っ暗なスクリーンが見えたから、きっと映画館の方。
まだ上映時間前なのだろう。画面は暗い。しかし、開始は近いのだろう。会場は暗い。
しかし、おかしい。
私は確かに出かける予定はあった。でも、友達と買い物のはずで、映画を観る予定はないはずだ。そもそも、今は何時なんだろう。一緒にいたはずのミカはどこだろう?
 一個疑問が浮かぶと、不安が一気に膨らんで胸を占める。そしてそれらは化学反応を起こして次々と疑問と不安を連鎖して浮かばせ、私は気持ち悪さをも覚える。
 どうしよう。その一言で頭がいっぱいの私に、隣の席から声がかけられた。
「おやおや、また若い人が」
 バっと顔を上げると、おおきなお腹をしたパジャマ姿の老人がいた。
「ここはどこですか」問いかけたかったのに、舌がうまく回らず「こ、こ、は?」と三文字引きずりだすのでいっぱいいっぱいだった。
 その時、ブーと上映開始のブザーがなった。老人から顔を反らさずに、視線だけスクリーンに向けた。
 画面は、眩しいくらい真っ白だった。
 真っ白な画面から、変わらない。ただただその一面のみを映している。
「混乱されてるようだね……よろしければ、少しお話でもいかがです?」
 頷くと、彼は笹原と名乗った。彼曰く、ここは彼岸らしい。
 信じられないし、信じたくない。
 無言で首を横に降る私に、笹原さんは続けた。
「走馬灯、というモンはご存知かな?」
 頷くと、スクリーンに顔を向けた。
「ここは走馬灯を上映する映画館です」
 と、いうことはだ、私は死んだ、もしくは死にかけ、ということになる。
 怪訝な色を隠さずに笹原さんを見た。困ったように笑って「私もそう聞いただけなので、あなたが生きてらっしゃるのかどうかはわかりませんが」と肩をすくめた。
「あちらに係員が見えますでしょう?あれ、死神のようですよ」
 二つの出入り口には黒スーツのガードマン風の男性が一人ずつ立っている。「マジか……」と無意識にでた呟きに笑って「ええ、本人がそう言っていたので、間違いないかと」と答えた。
「一番前、見えます?」
 続いて皺だらけな指がさす先はスクリーン。普通に横に並んでいる座席の列より一席分、スクリーンに近いそこは椅子が一個だけある。背もたれから少し、白髪交じりの黒髪が見える。
「は、はい。見えます」
 頷くと、笹原さんも一度頷いて「今、彼の人生の走馬灯が見えているようなんですよ」と指を下した。
 もう一度、スクリーンを見る。相変わらずの白さ。
「走馬灯は、本人のみが見れればいいので、他の観客には見えないそうです」
 ああ、靄がはれていく。そうだ。私は、信号無視して飛び出して、それで……。
 自業自得だ。どうしようもない。私はため息をついた。
「ここにいる人は、二つに分かれてます。これは、確実です」
 黙っていると、笹原さんは話だした。
「一つは、完全に死んでいる人。そういう人は、走馬灯を見せられて、見終わったらあの出入り口の死神がどこかに連れていくんです」
「詳しいんですね」
「ええ、何人も見送りましたから」
 へぇ、と返事をしたが、なにか違和感を感じた。それはなにかわからなかった。
「そしてもう一つは、私みたいに中途半端な人」
 彼を見ると、ふふっと楽しそうに笑って続けた。
「私、現実では植物人間らしいんですよ。それでね、他の人見てて気付いたんです。自分の人生を見終わったら、たとえアッチで家族や医者が努力をしても、死んでしまうんだろうなって」
 私はただただ、信じられないものを見るように、笹原さんを見ることしかできなかった。
「だから、色々な人に先を譲っているんです」
 急に、室内が暗くなった。いや画面が、暗くなったのだ。
 スクリーンは、なにも映していない。
「ああ、終わったようですね」
 彼はすっと、今さっき開いた特等席を指さして私に笑いかけた。
「さあ、どうぞ。レディーファーストです」


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