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滝沢朱音さん

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16/03/28 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:9件 滝沢朱音 閲覧数:1641

時空モノガタリからの選評

何と優しい「秘密の国家プロジェクト」でしょうか。「アイソカイム」という言葉の響きがまさに呪文的な響きであると同時に、玲奈の人柄をうまく言い表していていいですね。「主役を張る者に、孤独はつきものなの」という彼女の言葉は「僕」にいかに勇気を与えたことでしょう。彼女の優しさが素敵です。「映画」というテーマを生かしたユニークな発想が印象的でした。読後感も爽やかで、タイトルにもインパクトがあり良いですね。大胆な話に見せかけながら、ちゃんと着地点に説得力があり、読みやすさとテーマ性を兼ね備えたバランスの良い作品だと思います。

時空モノガタリK

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 とっておきの呪文は「アイソカイム」。最悪な夜にしか使わない魔法。だって、効力が薄れてしまうといけないから。

「映画?」
 素っ頓狂な声を発した僕の唇を、玲奈は指一本で制した。
「大声出さないで。私がバラしたって知られたらたいへん!」
 話があると呼び出された玲奈の部屋には、相変わらず本ばかりが並んでいる。とびきり頭が良くて気も強い彼女は、中二のくせに生徒会長になったらしい。五歳上のこの従姉妹に、僕はとてもかなわない。
「信じられない。僕が……映画の主人公?」
 自分がドキュメンタリー映画の出演者で、保育園の頃に主役に選ばれて以来、密かにずっと撮影中だなんて、いったい誰がすぐ信じられるだろう。
「それも超大作のね。拓は今まで気づかなかったの?」
「うん」
「例えばほら、あの屋根にとまってるカラス、拓を追ってうちまで来たのよ。あれ、最新の追跡カメラだから」
 その言葉とシンクロするようにカラスが鳴き、僕は背筋を凍らせた。玲奈はシャッとカーテンを閉める。
「主役に選ばれるなんて羨ましすぎ! 拓って顔はわりとイケてるもんなあ」
 玲奈は横目で僕をにらみ、ため息をついた。確かに彼女は美人とはいえない。だからといって、そんなことで嫉妬されても困るんだけど。
「最近エンドロールでよく見かけるでしょ、○○製作委員会って。企業とかが少しずつ出資して、リスクを分散させながら作品を作る方式なんだけど、たまに極秘の国家プロジェクトも仕込まれてるの。拓の映画はその一つ」
「国家プロジェクト?」
「そう。超弱虫ないじめられっ子が、それをどう克服していくかっていう成長記。まあ、コンセプトはありがちだけど」
「超弱虫って……そんなのやだなあ」
 泣きべそをかく僕に、玲奈は真剣な顔で告げた。
「きっと、同じような境遇の子どもたちに勇気を与えるためね。契約は確か十年だったかな。だから、拓が高校に入る頃までは撮影が続くことになる」
「そんなあ……どうしよう」
 僕はみっともない姿をどれだけカメラにさらしてきたんだろう。特に学校じゃ、泣き出すシーンが多いはずだ。いつか映画がこのまま公開されてしまえば、観客はみんながっかりするに違いない。えぐっえぐっと嗚咽する僕の背中を、玲奈はぽんと叩いた。
「主役を張る者に、孤独はつきものなの。覚悟を決めて!」
「でも……」
「言っとくけどあんたのママはね、この映画の契約と引き換えに生活を保証されてるの。拓がしっかりしないと!」
 僕はどきりとした。うちにはパパがいない。病弱なママがなんとか会社で働くことができているのは、映画のおかげなのかもしれない。
「製作委員会のみんなは、拓に賭けたんだよ。この子なら絶対いい映画になるって。その責任を果たさなきゃ」
 玲奈はそう言うと、さらに声をひそめた。
「いいこと教えてあげる。主人公にはさまざまな試練が訪れるけど、あまりに理不尽なシナリオが続いて耐えられないときは、SOSを出してもいいの」
「SOS?」
「……アイソカイム、よ」
 玲奈は不思議な言葉を口にした。
「拓の映画を作ってるのは、『アイソカイム』製作委員会。その言葉を口にすれば委員会が開かれて、ひどすぎるんじゃないかってシナリオが見直されるの」
 僕は口の中でその言葉を繰り返した。アイソカイム、アイソカイム――

 その日以来僕は、この呪文を何度心に思い浮かべただろう。耐えられない状況が続き、苦しくて眠れない夜だけは、それを口に出すことを自分に許した。窓を開け、夜空を見上げながら。
「アイソカイム(クラス全員で無視だけでなく、先生まで笑うなんて!)」
「アイソカイム(この傷は屋上でやられました。ちゃんと見てましたか?)」
 呪文の効力は絶大で、明くる日には何かしら状況が好転した。解決するわけではなくても必ず動きがある。その安心感が、僕を静かに強くした。

「――でさ、何語だったの、アイソカイムって」
 高校生になった僕がたずねたとき、玲奈は怪訝な顔をした。すっかり忘れている彼女にあきれながら、僕は説明した。
「……ああ、昔の話ね!」
「アイネクライネみたいなドイツ語かなって調べたけど、結局わからなかったんだ」
 それなりに化粧を覚えた大学生の玲奈は、今も決して美人とは言えないけれど、ハッとするほど美しい表情で微笑んだ。
「それって当時、私がクラスの男子に言われて傷ついた言葉よ。おまえって可愛げがない、愛想皆無≠セなって」
「ええっ?」
 僕はあのときにも劣らない、素っ頓狂な声で叫んだ。そして玲奈と顔を見合わせ、笑い出した。
 そんな由来じゃ、今さら言えやしない。僕が中学生になってもしばらくの間、映画の話を心のどこかで信じてたこと。それと、最悪な夜には今も、この呪文をつぶやいていることを。
――玲奈。きみは僕史上、最高の女優だ。


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このストーリーに関するコメント

16/04/01 霜月秋介

滝沢朱音様、拝読しました。

私もすっかり玲奈さんに騙されました。
普段の日常が実は映画の撮影で、自分も含めまわりの人間が役者さん達だとしたら面白いですね。今こうして朱音さんの掌編を読んだりコメントしてるのも映画のワンシーンなのでしょう。

16/04/10 冬垣ひなた

滝沢朱音さん、拝読しました。

「アイソカイム」という不思議な言葉に、見事に引き込まれました。
何か大いなる力が働いていて、自分にはそれを変える力もあるんだと。
ふとそんな事を思った時、文句の代わりに呪文一つで何か変わったように思える、
そんな気持ちは大事にしたいですね。
楽しいお話をありがとうございました!

16/04/24 夏日 純希

自分が傷ついた言葉を、勇気の言葉に変えてしまうところが、
玲奈のすごいところだなと感心しました。

状況が好転したのはきっと、「僕」がそう心から信じたから
世界の見え方か、世界そのものが変わったんでしょうね。

滝沢さん、きみは僕史上、最高の騙し屋だ。……あ、いい意味でですよ(笑)

16/04/25 滝沢朱音

>霜月さん
読んでくださってありがとうございます!
気づいてなかったですか?実は「秋介」製作委員会というのもありまして…(笑)
なんてね。
どんな人生も、役割を演じてるのかもしれません。そんなことを考えて書きました。

>小狐丸さん
コメントいただきありがとうございます!
家族との会話で「愛想皆無」という言葉が飛び出したときに、
語感的にこれは使えるなと思い、寝かせてました(笑)
「I saw Caim」、面白いですね!何かのときのネタに…?φ(..)メモメモ

>冬垣さん
お読みいただきありがとうございます!
幼い頃の私にも、最悪の夜にすがり、祈った言葉がありました。
それは、好きだった星の名前でした。
その言葉を唱えた翌日は、不思議と何か状況が上向いたのでした。
玲奈と拓、どちらもある意味、私の分身なのかもしれないです。

>夏日さん
お忙しい中、目を通していただきありがとうございます!
おっしゃるとおり、実は玲奈もめちゃくちゃ傷ついてきたと思います。
「何くそ!」と思う気持ちが、ふと口をついて出たのかなと。
騙し屋って、物書きには最高の褒め言葉ですね!うれしい(*^^*)

16/04/29 犬飼根古太

滝沢朱音さま、拝読しました。

とても面白く心が温まる物語でした。
終始微笑ましい空気が作品から漂ってきて素晴らしかったです。

「同じような境遇の子どもたちに勇気を与えるため」や「主役を張る者に、孤独はつきものなの」などの台詞の一つ一つが生き生きとしていて輝いて感じられました。

他の方々もおっしゃっていますが、「アイソカイム」という不思議な言葉に引き込まれました。そして由来を説明されるまで気づきませんでした。

「映画」というテーマにピッタリのオチまであって、とても面白かったです。

16/04/30 滝沢朱音

>犬飼根古太さん
コメントいただきありがとうございます!
いじめに苦しんでいる子どもは、どうやったら救われるのか。
結局のところ、外的ではなく内側からの助けしかないんじゃないか。
そんなことを考えながら書いてみました(^^)
アイソカイム、まさかのダジャレ?オチでしたm(_ _)m

16/04/30 光石七

受賞おめでとうございます!
拝読しました。
とても温かく、優しく、勇気を与えてくれるお話ですね。
拓を励ますための玲奈の台詞の一つ一つが素晴らしく、呪文の由来に玲奈の強さと優しさをさらに感じました。
ラストの一文も洒落ていますね。
素敵なお話をありがとうございます!

16/05/29 石蕗亮

拝読致しました。
受賞おめでとうございます!
タイトルを見て、?と思いましたがオチでなるほど!と思い知らされました。
カタカナだと語呂やイメージが変わって面白いですね。
とても勉強になりました。

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