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笛地静恵さん

SM小説家。妄想家。言葉遊び師。 三和出版『女神の愛』「女神帝國盛衰記」連載中 他

性別 男性
将来の夢 歌集、句集をだすこと。
座右の銘 永遠の未完成、これ完成(宮沢賢治)

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月祓い師オロナC

16/03/28 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:0件 笛地静恵 閲覧数:1091

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 そうかい。ミンCは、この星に来たばかりかい。最初に、ことわっておくが、きつい仕事だぜ。かっこいいって、あこがれだけじゃ、やっていけない。若い子猫には、けっこういるんだ。そういうのが。おもりが、たいへんだよ。
 コン師匠の紹介状を持っているから、ことわるわけには、いかないけどよ。いろいろと、お世話に、なってるからな。百聞は、一見に如かず。現場を体験してもらおう。まあ、ついて来いよ。
 その鋭い眼光では、いちおう修業はつんでいるようだな。それでも実戦では、こわくて、おしっこを、ちびるかもしれないぜ。子猫の時代は、だれでもそうさ。気にするなよな。
 俺はオロナCという。このあたりの星系では、ちったあ知られた雄猫だ。おぼえておいてくんな。惑星地球をまかされている。月祓い師だ。
 月極獣どもが、赤い満月の夜に、竹に卵を産みつける。もっとも、やつらの力が強くなる日だ。ご覧のように、竹林ばかりの星だ。植生まで変化してしまったよ。
 正直なところ、だいぶ、やられているんだ。オレひとりでは、手が回らない。狂都の住人は、もう半分以上が、生きている人間じゃない。人間のもどきだ。美しい女にもなる。たったひとりで、世を乱した者がいる。あいつは時のみかどを手玉にとりやがった。
 手が足りないんだ。ほんとうは、月にできた基地外をたたかないと、意味がないんだけどさ。こっちには、とてもそんな兵力がない。
 増員を頼んでいるんだが、あっちはあっちで、手いっぱいだからなあ。侵攻が、銀河全体に、進んでいるそうじゃないか。
 子猫の手でも、かりたいくらいさ。一匹でも、来てくれて、うれしいよ。
 いや、ほんと。口先だけじゃなくってさ。
 オロナCはしゃべりすぎって、言われるけど。これは、本心だ。俺の茶虎は浮き世の風に、すっかり汚れちまったが。ミンCの毛なみ。白くてきれいだぜ。あとで、ゆっくりと、にゃんにゃんしたいもんだ。この尻の匂いが……。
 まじめなむすめっ子だなあ。何も、血が出るまで、ひっかかなくたっていいじゃないか。こんな銀河の辺境の星に、流されてるんだ。たまには、話し相手が、ほしくなる。一匹じゃあ、さみしくてさ。切ない気持ちを、わかってくれよ。
 ともかく、月極獣が、孵るまでに退治しないと、やっかいなことになる。怪物が人間になりかわってしまう。
 竹の中では、とても人間には、見えないんだけどさ。蛇と蜥蜴と胎児が、まざったようなすがたをしている。そいつが、竹を割って外に出る。敏捷だ。飛び跳ねていく。一週間で、人間の成人の体格になる。血を吸い、肉を食らう。本ものそっくりのすがたに化けてしまう。みわけがつかない。
 どの竹で生まれるかが、問題だ。生まれるまでに、その竹林にたどりついていなければ意味がない。俺たち猫にしかわからない。ひげで空気のゆらぎをしらべる。全身の体毛に感じる。しっぽをまっすぐに立てて探知する。そうそう。それでいい。上手だ。
 変身する前に、始末をつける。
 いまが、そのときだ。孕み女の腹のような赤い月の夜。ほら。竹やぶだ。あそこの奥の竹が、黄金に光っているだろ。卵が産みつけられたんだ。
 竹を真っ二つにする。迷うな。爪の一撃でたたき斬れ。迷うとやられる。俺が、やって見せてやる。見て、おぼえろよ。ほら、こうするんだ。
 あれれ。どうしたんだ。今夜は勝手が違うぞ。
 爪が跳ね返された。竹そのものが膨張している。深紅の心臓のように鼓動している。大きくなっている。塔のようだ。なんだこれは?
 子猫ちゃん。前に出るとあぶないぜ。逃げた方がいい。
「あなたでは、手に負えないわ」
 白い尾が鋭く立った。闇と対峙している。
「久しぶりね。竹馬王。あなたが、来るのを、この辺境の星で、待っていたのよ」
 え、ええっ??
「傷ついた太陽が泣き叫ぶローエングリン・ゲートで、果たせなかった決着を、ここでつけることにしましょう!」
 ミンCが、闇に飛び込んでいった。勇敢というよりも、無謀なやつだ。止めているひまがない。光が爆発する。ふっとばされる。竹に激突した。
 目を覚ましたときには、竹林が焼け焦げていた。狂都も、大半が消失していた。
 手強い敵だった。
 もっとも、頭をぶつけたせいだろう。何も、おぼえていなかった。顔に切り傷もあった。
 うろついていた生きている死者たちも、姿を消した。あんなにたくさんいたのに。竹林に、卵を産みつけられることも、なくなった。ともかく、任務は成功している。月面の基地外も撤退したようだ。
 月祓い師オロナCがいるからには、勝手な真似はさせない。地球の平和は、俺が守る。でも、だれか、かわいい子猫が、来ねえかなあ。
 この星のネズミは、うまいんだけどなあ。


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