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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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夢の格闘者

12/09/01 コンテスト(テーマ):第十三回 時空モノガタリ文学賞【 格闘技 】 コメント:9件 泡沫恋歌 閲覧数:6306

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「ずいぶんストレス指数が高いですね。98%もありますよ。放って置いたら大変なことになるところでした」
 白衣を着た怪しげな男は俺の頭にヘルメットのような器具を被せて、その機械が弾き出した数値を見てそう呟いた。
「やっぱり、そうか……放っていたら、どうなっていた?」
「希死念慮や殺人衝動という危険な行動に出るところです」
「このままだと壊れそうだと俺も思っていたよ」

 俺は平凡なサラリーマンだった。
 入社以来ずっと総務の仕事をしてきたが、どういう訳か営業の仕事に配置転換させられた。酒も飲めない、人付き合いも苦手な、この俺に営業は向いていない。知らない会社に名刺ひとつで営業するなんて、小心者の俺にはとても無理だ。
 営業成績は社内でビリッケツ、鬼の営業部長から「おまえは無能だ!」「この給料泥棒めぇ!」と、みんなの前でいつも怒鳴られていた。
 会社に行くのが苦痛だった。朝起きて会社に行こうとすると腹が痛くなり、無理して出社しても、鬼の部長の顔を見た途端に胃がキリキリ痛みだす。俺のストレスはもう限界だった――。
 何度も辞表を出そうと書いたが……家のローンや子どもの教育費、今後の生活を考えたら辞めることができない。ああ、どうしたらいい? 今日も家を出たが会社には行けず街を彷徨っていた。見知らぬ路地に迷い込んだら、奥の方で看板がチカチカしている。

〔ストレス溜まっていませんか? スカッと発散させましょう!〕

 その言葉に惹かれて、何だろうと看板の前に立っていたら、白衣を着た男が建物から出て来た。
「ご用ですか?」
「あっ、いや、何だろうと興味が湧いたので……」
「お試しだけなら無料ですよ。どうぞ」
 その声に曳かれるように男の後ろを付いて行った。そして診察台と思しきカウチソファーに身体を横たえ、ヘルメットのような器具を頭に付けられた。 
「どんな方法でストレスを発散させてくれるんだ?」
「格闘技です!」
「えっ? 俺は腕っ節には自信がない、喧嘩なんかやったことがないんだ」
 小心者の俺は何を言われても黙って耐えていた。
「私は長年夢の研究をしていました。そして見たい夢を自由に見られる機械を開発したのです。名付けて【スリープメーカー】の夢の世界で格闘して心の憂さを晴らすのです」
「夢の世界で戦うのか?」
「はい、あなたに一番ストレスを与えた人物と戦います。大丈夫、絶対に勝つように設定してあります」 
 夢で戦うだけなら安心だと俺は思った。
「さあ、【スリープメーカー】のリングへいってらっしゃい」
 男が機械のスイッチを入れた。その声に背中を押されるように強烈な睡魔に襲われた。

 気が付いたら、四角いリングの上に立っていた。
 会場には観客がひしめいている。黒いタイツを穿いた俺はプロレスラーだ。レフリーが試合の開始を告げるゴングを鳴らす。と、俺の前に対戦相手が現れた。なんと! そいつは俺をイビる鬼の部長だった。その顔を見た瞬間、胃がキリキリ痛み出したが……待てよ。――これは夢の世界なんだ。しかも絶対に俺が勝てる設定になっていると聞いた。
 手始めに鬼の部長の腹を拳骨で殴った、すると奴は大げさに痛がってリングに倒れる。その顔をブーツの踵で踏みつけてやった。頭を掴んで起き上がらせてロープに向かって放り投げ、反動で戻ってきたところをキックをお見舞いしてやった。俺が鬼の部長を痛めつけると会場はファンの歓声で盛り上がる。現実では小心者の俺だが夢の格闘技では残酷な暴君だ!
 相手に罵詈雑言を浴びせながら執拗なまでに攻撃を加える。鬼の部長の顔が血潮で真っ赤に染まっている。無抵抗な人間を痛めつけるのがこんなに楽しいとは思わなかった。いつも俺をバカにして、みんなの前で恥をかかせる部長に復讐ができて、これは愉快で止められない、腹の底から笑いが込み上げてくる! あはははっ

「おや、目覚めましたか? なかなか起きないので心配でした」
 白衣の男が俺を覗きこんでいた。
「気分爽快だ!」
 晴れ晴れとした顔で俺は目覚めた。
「夢の中で憎い奴をやっつけられて胸がスカッとしたよ!」
「暴力は一番のストレス解消法ですから……ただ【スリープメーカー】は、まだ開発中なのでひとつ問題があります」
「もういい! 気分が良くなったので会社にいくぞぉー!」
 そう言って興奮して飛び出して行った。

「――実は、強烈にストレスを感じる相手を見ると、脳が勝手に【スリープメーカー】のスイッチを入れてしまうんですよ」

〔○○市の会社で仕事中に部長の○○さんが、いきなりナイフを持った男に襲われた。○○さんはナイフで数箇所刺されて重体である。犯人は同じ会社に勤める男性で、日頃から被害者と反りが合わず悩んでいたという。逮捕時、犯人は夢遊病状態だったので警察では事情徴収ができない〕


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このストーリーに関するコメント

12/09/01 そらの珊瑚

恋歌さん、拝読しました。

みんな、なにがしかのストレスを抱えて生きている世の中で、
【スリープメーカー】が救世主になってくれると思いきや。
ブラックなオチですね。
ストレス値は実際測れるそうですね。
この機械が欠陥を克服するのを待つより、自分なりのストレス解消法をみつけるほうが安全で早そうです。

12/09/03 くまちゃん

ストレス解消で良い夢を見られてのに なんと残酷な結末でしょう。
恐いですね。
でも 苛めれれた人の復讐事件はありますね。

12/09/04 泡沫恋歌

珊瑚さん、コメントありがとうございます。

ストレスを夢で解消という発想は良かったのですが、まさか、
勝手に脳が暗示を掛けてしまうとは・・・

たぶん、夢遊病状態で犯罪を犯しても罪にはならないと思うよ。
ある意味、完全犯罪とも言える。

12/09/04 泡沫恋歌

くまちゃん、コメントありがとうございます。

会社でも学校でも虐めはありますよね?
やった方は忘れても・・・された方は忘れないでしょう。

もし【スリープメーカー】があったら、夢の中でやり返したい人は
多いと思う(笑)

12/09/10 泡沫恋歌

凪沙薫さま、コメントありがとうございます。

「ファイトクラブ」のことはよく知りませんが、絶対に勝てる保証があるなら、格闘技ほどストレス解消になるものはないと思って、このストーリーを書きました。

「夢の格闘者」を読んでくださり、感謝いたします。

12/09/14 鮎風 遊

見てみたいですね。
勝つやつを。

現実には行動に出てしまう。
面白かったです。

12/09/23 泡沫恋歌

鮎風さん、コメントありがとうございます。

夢だからスーパーマンみたいに強いんです。
勝てる格闘技ほどストレス発散できるものはないでしょう。

ただ、起きてる時にいきなり夢遊病モードに入るのが【 スリープメーカー 】の怖ろしさ!
だけど、寝ていて犯した犯罪なら罪にならないかも?

12/10/10 草愛やし美

泡沫恋歌さん拝読しました。

実際にこんな機械が開発されれば、ストレスもなくなるかもしれません。

でも物事なかなかうまくいかないのが常ではないかと思っていましたら、ブラックなオチが待っていましたね。「やっぱり」と呟いてしまいました。面白かったです。

12/10/11 泡沫恋歌

草藍さん、コメントありがとうございます。

暴力で暴れる! それって一番スッキリすると思います。
だけど、普通の社会でそれをやったら警察に捕まってしまいますよ。
だから、夢の世界でと思ったのですが・・・
ストレスが溜まり過ぎた男は現実の世界でやってしまった。

しかし夢遊病だったら、責任能力がないので無罪になるかも知れない。

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