1. トップページ
  2. 俺は映画を観ない

海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

俺は映画を観ない

16/03/25 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:1475

この作品を評価する

 正直な話、俺は映画が嫌いだ。感動できる作品や、腹から笑える作品があることは当然知っている。それでも嫌いなのは、映画が所詮作り物だからだ。作り物の感動に、作り物の笑い。
 そんな偽物に俺は興味がなかった。

 だからそのバイトを引き受けたのはたまたまだったと言える。大学の先輩から頼まれたバイト。それは映画のエキストラだった。
 日当二万円に釣られ引き受けたバイト。だが俺は早々に後悔していた。
(こんなバイト、引き受けるんじゃなかった!)
 俺たちエキストラはバスで山奥にある廃校の校庭に来ていた。そこで俺たちエキストラはスーツ姿で組体操をする。まったく意味のわからないシチュエーションだ。
 季節は冬。そんな中、コートすら着る事を許されず外で撮影を続ける。それはまさに地獄だ。寒くて仕方ないったらありゃしない。おかげで鼻水が延々と出てくる。
 その上、撮影は一回で済むのかと思っていたら、監督が納得いかないらしく、同じシーンを何度も撮り直すと言う。
 ここまでくると監督とエキストラ、両者の意地の張り合いだ。
(こうなったら意地でも最後までやりきってやる!)
 俺は半ばヤケクソ気味になりながら撮影に挑んだ。

 それからさらに一時間後。
 エキストラに待機命令が出て、俺たちは各々その場に座り込んだ。吐く息は真っ白。だがようやく落ち着く事ができた。
「まったく、まいっちゃうね」
 すると突然声をかけられた。声をかけてきたのは同い年ぐらいの真面目そうな男。男は人の良さそうな笑みを浮かべていた。
「そうだな。この寒さはキツイ」
 そう返すと男は苦笑しつつ話を続ける。
「でも後でできたての豚汁が振舞われるらしいよ。今はそれが最大の楽しみだ」
 それは初耳だ。この寒さから抜け出し、温かい豚汁を食べたらさぞホッとすることだろう。
「もしかして、君も役者志望?」
 男がそう問いかけてくる。首を横に振ると、男はふにゃりとした笑みを浮かべた。
「エキストラはこれが初めて? それじゃあ大変だ」
「君はエキストラに何度も参加しているのか?」
「もちろん。役者になる勉強のためにね」
 なるほど、だからエキストラに慣れていて、こうして初対面の人間とも気軽に話せるわけだ。そう納得する。
「そいつは大変だな」
「でも映画が好きだから。映画のためなら頑張れる」
 この男は映画好きなのか。俺と真逆だな。そう思うと自然と口が動いた。
「映画のなにが楽しいんだ? 所詮作り物じゃないか」
 そう口にしてから後悔する。映画好きの相手に映画を否定するような話をしてどうする。男もきっと気を悪くしただろう。
 そう思い男の顔を伺う。意外にも男は笑顔だった。
「なにを当たり前なことを言っているんだい。映画は作り物に決まっているじゃないか」
 あまりにも当然のように発せられた言葉。それは俺にとって予想外だった。
「でも、映画には本物のところもある。その本物を味わうために、僕は役者を目指しているんだ」
 そう語る男の目は真っ直ぐだった。

 それから数ヶ月後。
 俺がエキストラで出演した映画は無事公開された。
 どんな物に仕上がったのか。確かめに映画を観に行くと言ったら「明日は雨が降るな」と友人に笑われた。
 そう言われるのも仕方ないと思いつつ、映画館に入る。中は休日とは言え、ほぼ満席に近い状態だった。
 映画が始まる。作り物の、偽物の物語。最初はあくびをしながら観ていた。
 だがエキストラとして出演したシーンが始まると、俺は一気に引き込まれた。スーツ姿の男たちが組体操をするシーン。
 一瞬アップで俺の顔が映った。寒い中、鼻水を垂らしながら必死に役を演じている。
 その光景を見ているとあの日、寒い中、山奥で映画撮影をしたことを思い出した。大事なシーンというわけでもないのに、こだわって何度も撮り直しを命じる監督。役者になりたいと語った、まっすぐな目をした男。撮影後の温かい豚汁。
 俺の登場シーンはわずか十秒で終わった。

 それなのに、気づくと目から涙があふれてくる。

 ようやくあの日、男が口にしていた言葉を理解した。
 映画は作り物の偽物だ。でも、映画を作っている人たちの『想い』は本物なのだ。
 俺は映画が嫌いだった。でも、これからは少し見方が変わりそうだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン