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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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二つの祖国とオリンピック

12/08/31 コンテスト(テーマ):第十二回 時空モノガタリ文学賞【 オリンピック 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:3121

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 エスタジオ・ド・マラカナン、それはメイン・スタジアム。そして今、そこにはリオのカーニバルが再現され、サンバのリズムが轟き渡っている。
 南米初のブラジル・オリンピックは2016年8月5日から8月21日まで17日間開催された。そして今夜、閉会式を迎えた。

 2012年のロンドン・オリンピック以降、準備は加速されたが、なにぶんリオデジャネイロは混雑したメガシティ、そして「リオ人は遊びで忙しい」と言われるほど楽天的な人たちが住む町。世界からは本当に開催できるのかと随分と心配された。
 しかし、オリンピックは成功裏に終わり、このサンバの熱狂の中で幕を閉じようとしている。世界各国の選手たちや関係者たちも己を忘れ、腰を振り熱く踊っている。
 だがそんな盛り上がりの中で、一人涙を浮かべ、歯を食いしばってる女子選手がいる。彼女は日本女子サッカー、さざんかジャパンのメンバー、センターフォワードの高瀬レチーシアだ。

「タカレチ、もういいんだよ、頑張ったんだから」
 キャプテンの宮池が若いレチーシアを気遣い、声を掛けてきた。レチーシアはその心遣いが胸を打ち、思わずキャプテンの胸に飛び込んだ。そして大泣きする。

 確か今朝の朝刊に次のように報じられていた。
 女子サッカー決勝戦、さざんかジャパン、ブラジルに2対1で惜敗!
 高瀬レチーシア、ノーマークで……痛恨のミス・シュート

 レチーシアのシュートは正確だと定評があった。それなになぜあの時、あのようなへなちょこシュートになってしまったのか自分でもわからない。多分焦ってタイミングが合わなかったのだろう。キーパーが浮き出た千載一遇のチャンス、蹴ったボールは右に外れ飛んで行った。
 そして日本では、これを非難するように、あの高瀬のシュートは祖国ブラジルに対し手心を加えたものだ。またここリオの現地では、レチーシアがブラジルに恩返しをしたとネット内で騒がれている。

 高瀬レチーシアはサンパウロ育ちの日系ブラジル人。小学生の頃からサッカーが好きで、オリンピックに出場し金メダルをとることを夢見てきた。その夢実現に向けて練習に励み、どんどんと上手くなった。しかし、ここブラジルでは大型選手が多く、小柄なレチーシアは力で押すサッカーに歯が立たない。よって、ブラジルからは決してオリンピック選手に選ばれないと自覚した。

 そんな苦悩の中で、2011年FIFA女子W杯を目にした。さざんかジャパンが黄金色の紙吹雪の中で優勝トロフィーを掲げ、歓喜雀躍(かんきじゃくやく)している。
 チームプレーが力ある個人プレーを制したのだ。そしてこの時レチーシアは決意した。日本へ行こうと。こうして日系4世の高瀬レチーシアは単身日本へ移り住み、そして夢を叶えるために帰化したのだ。

 もちろんブラジルは自分が生まれ育った所。そして日本は夢を追って生きる現在地。どちらも好きだ。だがサッカーゲームの中では決して私情を入れない。ただただ勝つためだけにピュアーな気持ちでプレーをしている。あのシュートは決して手心を加えたものではない。結果としてゴールにならなかっただけだ。
 しかし非情だ。誤解されている。そして結果は結果、自分の下手さ加減が身に沁みる。それらが複雑に絡み合い、悔しくて悔しくて堪らない。

「キャプテン、あのシュート、私、自信あったのだけど……、外れてしまったの。それで金メダルをもらい損ねてしまったわ。みんなに申し訳なくって。その上にそれは故意にやったとまで言われ……、私、一体どうしたら良いの?」
 レチーシアはもうこれからの身の振り方がわからない。しかし、キャプテン・宮池は動じなかった。サンバのリズムより強い口調で若いレチーシアを叱った。

「タカレチ、あなたまだわかってないの。それがサッカーなのよ。悔しかったら、この借りを東京オリンピックで返しなさい!」

 早いものだ。あれから4年の歳月が流れた。
 今は2020年、56年振りに東京オリンピックが開催されている。
 しかも佳境に入り、女子サッカーの決勝戦が始まった。そしてその結果が号外で配られた。
 サッカーを通して、ブラジルオリンピックからの高瀬レチーシアの生き様を見てきた人たちは、それを読み、おめでとうと祝福の声を上げた。

号外!
 東京で
 さざんかジャパン……悲願のオリンピック金メダル!

 高瀬レチーシア、3ゴールで優勝に導く。

 敗戦のブラジルチームも
 その一途なプレーを高く賞賛。

 レチーシアにとっての……二つの祖国、
 それらはやっとつながったのだ。


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このストーリーに関するコメント

12/09/01 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

二つの祖国を持つ者にとって、その両国が戦うということは
勝っても負けても、片方の国からは非難されるという、過酷な運命があります。

スポーツマンとして、自分のチームの勝利のために戦っていけば
もう国同士の問題ではなくなると思うのですが・・・たぶん難しいね。

良い作品だと思いました。

12/09/01 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

オリンピックを見るたび、普段は感じていない愛国心のようなものが
むくむくと湧き上がります。選手は見ている私たちより、数倍強く感じているでしょうね。

さすがキャプテンいいこといいます。
失敗を次の勝利への糧とするファイト、見習いたいものです。

13/11/29 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

なかなか難問です。

東京オリンピックが決まりましたから、
この筋書き通りに展開して行ってます。

13/11/29 鮎風 遊

そらの珊瑚

コメントありがとうございます。

さすがのキャップテンです。
東京オリンピックが楽しみです。

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