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タコス村さん

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名を喰らう家

16/03/24 コンテスト(テーマ): 第77回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 タコス村 閲覧数:865

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私の名は母がつけてくれたもので、幼子のころから成人するまで、いつの時期も、
女らしくない私には似合わないとつっこまれ続けたような名だった。 ・・・はずだ。
もう覚えてもいない。

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記者として、様々な人から聞いた話を書き起こし、本や記事にして来た。

それを使命に感じて来た私はどんな話であろうと聞きつけると、そこまで足を運び、話した人の気持ちが収まるまで聞き続け、書いた。古びた田舎の村々には、数々のちょっと怖い話があるもので、中には人が巻き込まれていなくなったり、死んだりしているものすらあった。そのような話も、聞きつけると語り部のところまで足を運び、全てを聞いて、記事にしたものだ。

それを生業をしている同業者もまあ何人かいた。聞くことで鎮める、そんな効果もある気がして、相手のためにも聴くようになっていた。同業者の中にはそれをただ金のためと思ってスクープみたいな扱いにしているものがほとんどだった。

物語は登場人物が、その村の女だったり、若いオトコだったり、様々だった。
最初の言い伝えに出てくる人がいると、時代を経てまたその怨念というのだろうか、強い思いを受けてしまう人、結果死んでしまったりいなくなってしまう人も同じようなステータスであることが多かった。
村の女がでてくる話は、その後何度も村の女や、共通する特徴を持つ誰かをいなくならせたり、しに至らせたりしていた。

一度そんなことをしている仲間に流布した、「すごいスクープ」の噂が流れて来た。「これだけは聞いちゃダメだ。」という触れ込みとともに、それは回って来た。私は、それでもそれを聞きに行くのが私の使命と考えて、あまり気負わずにその場所へ赴いたのだった。山深い村で、人ももう住んでいるのだろうか? 家々は生き生きとした緑に覆われ、人間のいる感覚には乏しい木造の家が数戸あるような村だった。合掌作りに似ているだろうか。それよりは華奢な木が多数束ねられて、柱や梁に使われているような、そんな家だった。向かったのはその中で一際大きなもので、今思い出してみれば、大きさは異常なほどだった。合掌作りのような木造建築で、あんな大きな建物を作ることは可能なのだろうか。専門家で無いからわからないが、ただその家のものの威厳なのか、示しなのか、もしくは残った意思なのか、そう言ったものが、その家を周りの普通の家と比べて何倍もに見せていた、もしくは物理的に成長させてしまったかのように見えた。さて、私は一人で言ったのだが、話を聞く段になるとあと二人いた。もう顔もあまり覚えてはいないのだけれど、金のためになけなしの勇気を推してここまで来れるタイプの女が一人、ソバージュの髪型に、怯えたような表情、口元だけはいつもにやっと端が不自然につり上がっているやつだ。もう一人は髪か黒くて長いストレート、口数はさほど多くなく、彼女も金のために来たのだろうか、わからない、あまり印象も残らないやつだった。

当家の語り部は、60代であろうか、暗い表情のお婆さんとおばさんの間のような人で、編んだのだろうか、濃いワインレッドの毛糸のチョッキを来て、長時間に渡った話の間にも正座を全く崩さない人だった。彼女は下向き加減にボソボソと語り出した。

内容については別でまとめてあるものを参照して欲しい。途中、聞いている三人に同時に衝撃が走ったのは、この話の登場人物、暗い悲しい怨念のような意思が後世に伝わるまでに肥大化し、何人もを喰ってしまったその最初の人が、記者だったという点である。その瞬間に、我々は傍観者ではなく、喰われる対象物となったことを肌の奥底がぞくっとする感覚とともに知ったのだった。例のソバージュの女などは途中からガタガタとはを震わせだし、ただそれを抑えて最後まで聞き入ったのは、語られる話が聞き手を離さなかったのか、ソバージュの女の金への執着だったのか、その両方が彼女の頭の中で葛藤していたのかは、私には分からない。ただ聞きては程度の差こそあれ私も含めて皆戦々恐々という心で聞き入った。語る方の口調は、それらの動揺など見えず聞こえずというように全く歩を乱さず淡々と語られていた。私の脳裏には、その話がまさに今体験していることかのようにありありとイメージとして流れ込んでくるようだった。つまり、ここへ来るとき歩いてきた道、スロープのような緑に覆われたぐにゃぐにゃと回り込んでくる道をまさに語られている登場人物が私がやったと同じように足を擦りながら少しずつこの屋敷へ歩き近づいて来るイメージが頭の中で重なった。皆脂汗をかきはじめた。私は今まで記者として、話を聞き、それを多くに伝えることを話し手や物語の登場人物たちの安らぎにつながれば、とふんわりと思いながらやって来た。その仕事っぷりに対して持っていた矜恃のようなものが、私をそこにとどまらせ、精神を乱さないよう抑えていた。話は終盤になり、みな終わったら即座にこの場を離れようとスタートダッシュの位置につき始めた。少しばかり足を浮かせてすぐにでも立ち上がれる姿勢になったのだ。語り部は最後の最後までペースを崩さなかった。終わった途端、聞いていた私たちは三人ともこの古びた城のように大きな木造家屋を抜け出そうと階段を駆け下り始めた。語り部はまだ伝え切っていないとばかりに、「まて、まて!」と後ろから声を掛けてくる。三人とも一目散に駆け下り、来た道を町の方向へ駆け出す。村の道は来るときは青々と草が生い茂っていたのだが、全てうっすらと十センチほどの雪に覆われていた。かなり長い間歩いてきたのだ、駆けたってかなりの時間がかかる。一目散に駆け続けるなか、私は追いかけてくる語り部も気にしていた。語り部は、「そのままではいかん!」と言って必死で追いかけてくる。私は耳を傾けた。「そのままではとられてしまう…また同じことに…」と息も絶え絶えにいい、必死で走ってくる語り部をみて私は止まった。語り部は言った。「名前をおいて行きなさい。そうでなければこの村を出ることは叶わぬ。」意味が分からなかったが、彼女に、言う通りにする、どうすればいいか、と尋ねると、「名前は置いていかなければならない。あなたはこれから、入岡乙矢と名乗りなさい。入岡乙矢です。」といい、私が了解すると、自分のこれまで背負って来た大きな運命の荷物をやっと下ろすことができたと言わんばかりに、大きな口を開けて声をあげて泣き出した。私の着物の裾を子供のように掴みながら、それはもうわんわんと泣きじゃくった。私は、この全てが終わったのだという安堵の気持ちを取り戻した。最初の人から、たくさんの繰り返しを経て、今まで。この人も語りを連綿と受け継いで来たのだろうか。その重さに打ちひしがれながら、役目を終えるときを焦がれながらあの大きな古屋敷に一人で住まい続けたのだろうか。その全てが見えて来るような、そんな泣っぷりだった。

その後、語り部や後の二人がどうなったのか、私は知らない。語り部が私にしたことはどのように影響したのかそのメカニズムも知ったこっちゃない。ただ、私は入岡乙矢となったのだった。


平成XX年、X月X日、XXXにて。
入岡乙矢


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