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ジンベエザメの涙

16/03/23 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:0件 らすと 閲覧数:855

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「魚はいいわね。学歴も関係ないし。私みたいに悩みも無いから幸せそう ね。」

明日那はそういって水族館のクラゲに向かって微笑んだ。暗い微笑みだ。まるで生気が感じられない。クラゲの様に彼女の顔は青白い。照明を落としたスペース。中央にはクラゲが無重力にただよっているような動きで存在していた。それを観ながらぽつりと呟く明日那。

明日那とは高校時代の親友だった。高校時代はよく遊んだ。一番の親友だったかもしれない。
彼女は明るい元気な女の子だった。高校も卒業する頃、
お互い大学受験をしたが、彼女だけ第一志望の大学には行けなかった。次々に大学に落ち、世間的にはぱっとしない大学にだけ合格した。しぶしぶ滑り止めに入った彼女だったが
あまり大学に行ってないみたいだ。もう人生に疲れたと彼女はよく言う。

だが大学受験に失敗してからというもの彼女には笑顔が無かった。まるで人生が終わってしまったかの様に。
あれだけ可愛らしかった彼女はひたすら影がつきまとう女性に変わってしまった。
それはあまりに痛々しいものがある。家に引きこもりがちの彼女を心配して
たかが大学位でとは周りの大人たちの意見だ。でも明日那にとってはそれは全てだった。
彼女は必死に勉強したがそれは報われる事は無かった。まだ10代の彼女にそれはあまりに辛い出来事だった。
人生の全てが終わったみたいに思えるよう。
余りに元気のない親友に向かって私は近くの水族館に彼女を連れて行くことにした。
明るい水族館でも彼女はひたすらため息ばかりをつき、視線は下を向き元気が無い。

「でも水族館に居る魚たちは幸せなのかな」
私は言った。彼女は溜息をついた。世界が終わったかのようだ。
「さあ でも私よりかは幸せじゃないのかな このサメとか凄い元気だし ね あなた元気ね
つぶらな瞳が素敵だわ タイプかも」
水槽では巨大なジンベエザメが優雅に泳いでいた。明日那はふらふら近寄りそれを見つめる。
明日那は投げやりに言った。ジンベエザメと自分を比べてどうするのか。私は呆れた。しばらくすると
飼育係が餌を運んでいる。餌が投げ込まれる。ジンベエザメはプランクトンを必死に食べていた。 オキアミやイサザアミがサメの口に吸い込まれる。 明日那はそれを死んだ目で見つめる。つぶらな瞳のジンベエザメに比べて
彼女の目はあまりにダークだった。
「ね イルカのショーが始まるよ」
私は努めて元気よく彼女に言った。彼女は首を振る。
「いいわ 私に合うのはイルカじゃなくてサメよ。イルカショーみたいな、ああいう明るい所に私は似合わないもの ここにいる ね 私はここがいいの あなたは楽しんできたら」
明日那はそう言って力なく笑った。これは駄目だ。
私は仕方なく一人で楽しむことにした。座席についてひと息ついた私、会場を包む潮の香り。イルカのショーが始まった。イルカの大ジャンプ。私は大いに楽しんだ。

しばらく楽しんだあと、私はジンベエザメの水槽に戻った。が。
なにやら客が遠巻きに見ている。近くに寄るとジンベエザメの前で明日那が泣き崩れていた。
私はあわてて駆け寄るとそっと彼女を抱きしめた。

明日那は大学を辞めた。しばらく仕事を探していたが
近所の雑貨店で働いている。少し髪も茶色に染め垢抜けたようだった。
「専門学校に行こうと思ってる」
そういって彼女は笑った。すこし吹っ切れたよう。

「また水族館に行こうよ ジンベエザメを観に」
「また?」
私は呆れて彼女の横顔をつついた。
「そう癒されるの あの瞳に」
「イルカショーも行こうよ」
私がそういうと彼女はしっかりと頷いた。


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