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つつい つつさん

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通行人Aの幸せな一日

16/03/21 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:4件 つつい つつ 閲覧数:1352

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 ガラス越しに魚と目が合う。君は確か「クエ」だったか。高級魚らしいね。僕とは全然違う。
 修学旅行で水族館に入るなり僕の班のメンバーは休憩所でジュースを買って座っている。それぞれスマホいじったり、ぼーっとして中は見学しないらしい。修学旅行といえば中学生活でも最大のイベントともいえるのに、みんなニコリともせず、つまんなさそうな顔で過ごしている。でも、その気持ちはわかる。僕の班はクラスの中心メンバーでも、仲良し同士でもなく、ただの寄せ集め。ドラマでいうと、主役でも脇役でも悪役でも必要な役でもない。ただの通行人A、エキストラだ。クラスでも普段目立たず、あまりしゃべらなくているかいないかわからないような人間が四人集まり班を組んだ。だから、楽しむのが恥ずかしいんだ。別に僕らは楽しんでませんよ。修学旅行だからいるだけです。水族館にも、そういう日程だから来ただけですよってポーズを僕らのことなんか全く気にしていない周りの同級生にアピールしている。通行人A達の間違ったプライド。でも、僕はぼっちの割に好奇心だけは人一倍あるから、一人でふらふら歩き廻った。普段から一人で街をふらふらしてるから、ゆっくり自分のペースで見て歩けるのは楽しかった。。
 あんまりクリクリな大きな目とずっとにらめっこしてるもんだから、魚も目を回したりするのかなって、僕はクエの目の前で指先をくるくる回した。時間を気にする必要もなかったから僕は無心で指を回した。
「あいつ、ひとりでなにやってんだ?」
 同じ学校の人が僕に聞こえるように言う。なんだか急に悲しくなった。僕は、ぼっちでも平気だし、なんなら気楽でいいなんて思ってるけど、同じ集団の中の一人は嫌だ。自分が誰からも相手されない人間だって宣告されてるような気がする。それも修学旅行でみんな仲良くわいわいやってるのに一人だなんて、これだったら休憩所でジュースでも飲んでおとなしくしてたほうが良かった。つまらなくても班の人達といれば良かった。回してる指が虚しく感じたから、もうやめようと思った。
「なにしてるの?」
 突然話かけられてびっくりして振り向くと、同じクラスの女子の小泉さんがいた。小泉さんは小柄で明るく誰とも話すタイプのクラスのムードメーカーだ。だけど、僕は話すの初めてだったから、すごくドキマギした。
「あ、いや、なんか、魚も目を回したりするのかなって」
「えーなにそれ。でも、おもしろそう」
 小泉さんは、興味津々な顔でクエを見つめている。僕は緊張して指先が震えてるのがわからないように必死で指を回した。それから五分、十分、とにかく回したけど、何も起こらなかった。
「お魚さん、平気みたいだね」
 小泉さんが残念そうに僕を見る。僕はせっかくの期待を裏切ってごめんなさいって思いながら、ぎこちなくうなづいた。
「あ! ああああぁぁぁー!」
 小泉さんがびっくりして指さしてる方を見ると、クエが仰向けになって、お腹を上にして浮いていた。
「うわっ!」
 思わず声が出た。ほんとに目を回したんだ。僕と小泉さんは目をまん丸にして、クエとお互いの顔を何回も交互に見合わせた。
「すごいね、お魚さんでも目回すんだ」
 驚きと興奮で小泉さんと僕はその場でピョンピョン飛び跳ねながら、はしゃいだ。だけど、しばらくすると小泉さんが不安そうな顔をした。
「大丈夫かな? お魚さん、死んじゃったのかな?」
 クエはずっとお腹を上に向けたまま、その場でプカプカしていた。ピクリとも動かないし、本当に死んじゃったのかもしれない。僕は急にあせった。水族館の魚を死なせてしまったら、どうなるんだろう。弁償かな。すごい怒られるよね。動物虐待って、みんなに冷たい目で見られそうだ。それに、なによりつらいのは、小泉さんを悲しませてしまったことだ。僕のせいで小泉さんを余計なことに巻き込んでしまった。 僕は覚悟を決めて水族館の人を呼びにいくことにした。今なら、クエも助かるかもしれない。
 僕が周りを見渡し、水族館の人を探しに駆け出そうとすると、小泉さんが僕の肩をバンバン叩いた。
「わあっ、生き返った! 生き返ったよ」
 見ると、クエは元通りに表返って何事もなかったように浮かんでいた。
「良かったね。ほんと良かったね」
 小泉さんは少し目に涙を溜めて喜んでいた。ぼくも安心したのか体の力が一気に抜けた。そして、小泉さんは友達に呼ばれ去っていった。
 水族館での自由行動が終わり、クラスのバスに乗り込むと小泉さんが既に座っていた。僕を見かけるとカバンからクエに似た魚のキーホルダーを取り出し、いたずらっぽく笑って仰向けにした。僕は嬉しくなって笑い返した。なんか二人だけの秘密のサインみたいでドキドキした。
 どうせ楽しくないだろうな、なんて諦めてた修学旅行。でも、素敵な旅はまだ始まったばかりだ。


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このストーリーに関するコメント

16/04/03 つつい つつ

小狐丸 様、感想ありがとうございます。
中学生くらいになると急に自分を見せるのとか、見られるのが恥ずかしくなって、わざと醒めているふりをしますが、僕はその傾向が強かったので書いてみました(笑)
実は水族館で魚が目を回すか好奇心でやったことあるのですが、このお話のとおり、くるっと仰向けになり、しばらくすると元に戻りました。

16/04/24 冬垣ひなた

つつい つつさん、拝読しました。

通行人A。誰しもこういう時期があったのだと懐かしみながら読みました。
まるで青春のはじめの一ページを開いたように、
クエを前にした主人公と小泉さんの初々しさが光り輝いたものに感じます。
本当に魚が目を回すのですね、驚きました。

16/04/26 つつい つつ

冬垣ひなた 様、感想ありがとうございます。
主人公がちょっとでも楽しく周りと関わっていければと思います。
水族館だと、ガラス越しに目の前に魚の目があるので、実際ひっくり返った時はびっくりしました。その時の魚が種類は確認してないのですがクエみたいだったので、この話もクエの設定にしました。

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