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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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詐欺師

16/03/20 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:864

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「映画に出たきゃ太れ」
 そう言い置いて春日は部屋を出ていった。苑子は唇を噛み、シーツを握りしめた。その裸の胸にはほとんどふくらみがなく、あばらが浮いていた。

 春日に取りいったのは、彼が有名な脚本家だからだ。だれが好き好んであんなゲスに抱かれたいと思うものか。苑子は歯を食いしばって執拗に肌を這いまわる舌の感触に耐え続けていた。
「新しい映画の話がきたよ」
 ベッドの上で煙草を吸いながら春日が言ったのは二週間前だった。
「まだ主演も決まっていない段階から脚本は俺に頼みたいって頭を下げてきたよ」
 いかにも自分が有能であると言いたげなセリフだが、春日が有名なのはその父親が天才脚本家だったからであり、その七光がなければ話にも上らないくだらない脚本しか書けない男だった。けれど苑子はそんな思いを微塵も見せず笑顔で相づちを打ちつづけた。すべてはその映画のヒロインの座を手に入れるため。春日にそれとなく話をふってみると、いつも春日は二つ返事で「監督に紹介してやる」と言い続けた。
 しかしそんな機会は来ないままキャストの発表が行われた。テレビの向こうで華やかな笑顔を湛えている女優を見つめ、苑子は両手を強く握っていた。その肌に爪が食い込むほどに。

 無視し続けた春日からの電話に、三か月後、映画の上映期間が終わってから苑子はやっと出た。
「なあ、怒ってるのか?悪かったよ、お前を映画に出してやれなくてさ。プロデューサーがどうしてもって、あの女優をねじ込んできたんだよ。裏で金が動いてさ」
 その金を受け取ったということがはっきりわかるのに、春日はさも善良そうな風を装おうとし続ける。苑子は黙って春日の言葉を聞き続けた。心の中では春日を安い詐欺師と罵りながら。
「なあ、久しぶりに会おうや。いつものあの店に九時、いいだろ」
「ええ、いいわ」
 それだけ言い残すと苑子は一方的に電話を切った。

「お前……、どうしたんだ、それ」
 待ち合わせた店に現れた苑子を見て、春日は目を見開いた。苑子の腹はぽっこりとふくれ、体は丸みを帯びていた。
「妊娠したの」
 春日は愕然として言葉を失った。苑子は畳みかける。
「もちろん、あなたの子よ。心当たりばかりでしょう。責任、取ってくれるわよね」
 真っ青になりながら春日は苑子と目をあわせない。
「ちょっと、ちょっと落ちつこう。話し合おう」
「私は落ちついてるわよ。あなたこそ落ちつきなさい」
 苑子は春日が座っている目の前の席につき、やってきたウェイターにミネラルウォーターを注文した。
「お酒は飲めないものね、妊婦だから」
 春日はテーブルに両手をついて頭を下げた。
「たのむ、おろしてくれ!」
「いやよ」
「なあ、たのむよ。俺には家庭があるんだよ。お前だって子持ちで女優なんてやっていけないだろ」
「それでも、いや」
 春日は顔を真っ赤にしてぶるぶると震えた。
「金ならやる。いくらでも必要なだけ払う。だから……」
「五百万」
「な、何を……、ばかな、そんな大金、払えるわけ……」
「あなたが父親の遺産を胡麻かして相続税を払い足りないこと、知ってるわ」
 ぐっと言葉に詰まった春日は目を泳がせたが、唇を噛みしめ悔しそうに苑子を睨むと、震えながら口を開いた。
「わかった。払う。けどちょっと時間をくれ」
「明日までに私の口座に振り込んで」
「無理だ」
「無理なら仕方ないわね。諦めてちょうだい」
「諦めるって、何を」
「幸せな家庭、順調な仕事、栄光の未来」
 春日はぶるぶると震えていたが、小さく「わかった」と呟くと席を立った。入れ替わりにウェイターがミネラルウォーターを運んできた。
「お食事はいかがなさいますか」
「サラダだけいただくわ」
「かしこまりました」
 苑子は窓に映った自分の太った体を見つめ、鼻で笑った。
「三ヶ月でつけた脂肪、二週間で落としてみせるわ。絶対、次のオーディションに間に合わせてみせる」
 赤ん坊など入っていない、皮下脂肪だけの腹を苦々しく睨みつけ、苑子はミネラルウォーターでダイエットサプリを飲み下した。


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