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森氏蛙夢吐さん

手紙には、その裏面に書かれていない人生があると思います。それを描く事により、書き手の想いや愛憎を想像していただければと思います。

性別 男性
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日記を読む女

16/03/15 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:0件 森氏蛙夢吐 閲覧数:1495

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それ急だった。
アヤの同棲相手の善太郎が結婚しようと言い出したのだ。もう同棲を始めて五年が経過していた。
善太郎も養える算段ができたと思ったらしいのだ。アヤもどうするか決める時期だとも考えていた。止めて、新しい生活に移るか決める潮時だったと思っていたのだ。来月の休みにでも、アヤの両親に挨拶に行きたいと言ってきたので、都合を聞いてみると言った。

 翌晩、善太郎は神妙な顔つきで話を切り出した。自分の曽祖父の叔母にあたる人が、まだ二十三歳の若さで自殺をしたと言った。その叔母は変な男に見初められて、付きまとわれていた。
そして、ある日、死んでいたという事件が起こった。当時、終戦直後で警察に掛け合っても埒があかず結局自殺で処理された。しかし、親戚内であの男が殺したのだという意見が強かった。叔母は栗坂弥生で、男は荻野某だと言った。口さがない親戚の間ではいまでも語り草になっている。
身内になったら、いつか聞かされるので適当にあしらえばいいと言った。アヤも昔の事件で自分には関わりがないと思った。二人が幸せになれば非業の死を遂げた、その叔母も浮かばれるのではないかと思った。

二人はアヤの両親の許しを得るために実家に行った。善太郎は両親の好印象を受けた。それからアヤの兄も嫁を貰うとのことである。それで家の中が片付いていたのだ。家を改装する予定だと言った。翌日、善太郎は兄と二人で仲良く出掛けた。
アヤは幼い自分が遊んだこの雰囲気が消えるのかと思うと懐かしさも一入だった。廊下の奥の納戸の前に来ていた。板戸を開けると、少し黴くさい匂いがした。電灯の灯りを点けた。ボーッと部屋が明るくなった。奥の方に一竿の箪笥がポツンとあった。
「ああ、雛箪笥だわ」
アヤがいた頃は毎年出していた。母に聞くと、アヤが上京してからは出していないと言った。
「もう女の子がいないからね」と少し淋しそうに言った。
その晩、アヤは両親に、あの雛箪笥を貰えないかと聞いてみた。両親は別段、あれはアヤのものだからいいよと言った。

アヤが帰京して数日後に雛箪笥が届いた。梱包を解くと、中から雛箪笥と一緒に実家の空気が現れた。早速、アヤは雑巾で軽く拭きだした。抽出しも全部開けて、その中も綺麗にしようと思った。
抽出しの奥に雑巾を入れると、少し短い気がするのだ。覗いて見えと、抽出しの取っ手が見えた。
アヤは不審に思い、腕を伸ばして、隠し取っ手を引くと一緒に引き出しが出てきた。隠し抽出しの中には、古びた本が入っていた。パラパラと捲ると、それは日記のようなものである。

随分と古いものだった。裏表紙に高嗣とだけ墨書されていた。アヤの知っている範囲外の名前である。日付は飛び飛びである。徒然に書いていたらしい。パラパラとめくると、途中に破られている頁があった。更に頁をめくると朱でW罪Wいう文字が見えた。頁を戻した。欄外に大きく罪と朱書きされていた。アヤは驚いた。その文字から、言葉以上の感覚に襲われた。思わず総毛立った。暫くして平静を取り戻してから、読み出した。
それによると、高嗣という人は殺人を犯したと書いている。いま考えれば、他に方法がないわけじゃないが、当時はそうするしかなかったとある。その為、新た命を粗末にしなければいけないことになった。世間的には自殺となっている。しかし、自分の罪であると書いている。事実がどうあれ、言い訳は止めようと結んである。そして、自殺した人の名前は彌生とあった。
『やよいっ!』
アヤの心臓がドクンと大きく唸った。その名前が欄外に大きく朱で罪に繋がっていた。暫く、思考が停止した。ただ大きく見開いた瞳は彌生の二文字を見つめていた。
『でも、名前が違うわ。第一、コウダタカツグだわ。彼の言っていたのはオギノだわ。別人だだわ』

その晩、両親にそれとなく聞いてみた。
「ねえ、家に高嗣という人はいた?」
「たかつぐ?ああ、アヤから数えてひい爺さんの名前だよ」と父が引き取って答えた。
「わたしのひいお爺ちゃん?」
「その人はこうだたかつぐでしょ」
「当たり前だよ」どうしてそんな事を聞くのかという顔で父が返事をした。
それでアヤはホッとした。そして、しばらく別の話題になった後で、母が急に思い出したように言いだした。
「でも、ひいお爺ちゃんも、ひいお婆ちゃんも、もろ養子じゃなかった?」
「ああ、そうだ。そうだったな」
「もろ養子って何に?」
「当時、この幸田に子供が生まれなくて、幸田の曽祖父母の両親は、ひい婆ちゃんを養子に貰ってから、年頃になると、ひい爺さんを婿に貰ったんだよ」
「それじゃ、ひいお爺ちゃんは」
「確か、ハギノだったと思うよ。ねえ、母さん」
「ええ、荻野だわ」
アヤの顔色が変わった。自分でも顔から血の気が引くのを感じた。
おわり


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