1. トップページ
  2. 恋人以上、夫婦未満

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

3

恋人以上、夫婦未満

16/03/14 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:4件 そらの珊瑚 閲覧数:1038

この作品を評価する

 結婚前のお試しとか、そういうのじゃなかった。私達が一緒に暮らし始めたのは。
 一緒に暮らせば、経済的だというのが一番の理由だったから、情けないといえば情けない。
 だけどお互いに同じ劇団に所属する役者。というか、まだ役者のタマゴだった。時給850円のアルバイトで食いつないでいる身なのだ。
 家賃も生活費も折半になるのは、願ってもないことだったし、ついでに好きな人といつも一緒にいられるなんて、ハッピー以外のなにもでもないじゃんという気持ちで始めた同棲だった。

「はぁー」
 同棲して半年も経つ頃、私はためいきばかりつくようになった気がする。
 一緒に暮らさない頃の方が、私達はうまくいっていたのではないかって同棲したことを、ちょっと後悔もしていた。

 夕食に作った野菜サラダにドレッシングをかけようとした時のこと。
 分離しているドレッシングを混ぜようとして、容器を勢いよく振ったら、見事にふたがすっぽ抜けて、あたり一面ドレッシングをぶちまけてしまった。
「ありゃー、何、やってんだよォ」
 彼が半笑いでそう言ったのに、思わずカチンときた。

「ノブのせいでしょうが!」
「はぁ? 俺のせい?」
「そうよ、先にノブがドレッシング使ったでしょ、そのあと、ふたをちゃんとしめなかったから、こういうことになっちゃったんじゃないの」
「そうかなあ……」
「そうだよ。大体いつもふた、ちゃんと閉めないよね。ねえ、なんでなの」
「ふた、かあ。あんまり意識しないでいたかも」
「意識してよ。してくださいよ。いつも真磨き粉のふた、私が閉めてんの! ペットボトルのふたもね。ついでに言わせてもらえば、ボンドのふだって、ちゃんと閉めてなかったから、中身が乾いて使えなかったんだから」

 役者もやれば、衣装係もやる私にとって、小道具を作る際に、ボンドが要るのだ。
 日頃のうっぷんが一気に噴出する。

「ごめん、ごめん。今度から気を付けるからさ」
「もう、ちゃんとしてよ。私、あなたのお母さんじゃないんだから……」
 そこまで言って、はっとした。
 
 ――お母さん。

 掃除、洗濯、食事作り、一応最初は担当を決めたものの、だんだんそれもなしくずしになり、最近では私がほとんどやっていたのだ。

 私は彼のお母さんになりかけてるのじゃないだろうか。

 彼がちゃんとしない。私が怒る。彼が謝る。そんな図式が確立されつつある気がする。
 まずい、非常にまずいじゃないか。

 何が悲しくて、25歳の若さで、こんな大きな子供の母親役をやらなくちゃならないのよ! そう思ったら、自分でもびっくりするくらい、涙があふれてきた。

「こんなことくらいで、泣かなくてもいいじゃん」

 泣く練習してんの! と言い返そうとして、ホントに泣いているから言葉にならなかった。
 私はそのまま飛び出して、しばらく近所をうろうろしていた。

 ケータイも財布も持ってない。どこへも行くところなんかなかった。
 同棲を始めて嬉しいことは、たぶん別々の家に帰らなくてもいいこと。だけど、さっきみたいに、何か問題が起きた時、一緒にいることが苦痛になるのは、皮肉だなあと思う。
 
 本当はわかっていた。

 ふた、は、ただのきっかけなんだ。

 役者をこのまま続けても、芽なんか出ないまま、終わるんじゃないか。
 一生貧乏なまま、結婚さえ出来ないのじゃないか。
 そんな将来への不安が私のこのイライラの原因なのだ。

 アパートに帰ったら、ノブが雑巾で、ドレッシングをぶちまけられて汚れた床や壁を拭いていた。
「あ、おかえり」
「……ただいま」
「寒かったんじゃない? お風呂沸かしておいたから入ってくれば」
「うん」
「一緒に入る?」
「ばか」

 ただの恋人でもないし、夫婦でもない。
 一緒に暮らすということは、ちょっと家族に近い関係かもしれない。
 ちゅうぶらりんな関係だけど、それも案外悪くはないのかなとも思う。

「私、お母さんには絶対ならないから」
「わかってる」
「いつか大女優になるんだから」

 この先、泣く演技をする時に、今夜のことが役に立ちそう。

 いずれにしても、私たちはタマゴだった。
 いつか孵化して、鳥になって、大空を飛ぼうね。
 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/03/16 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、拝読しました。

恋人以上、夫婦未満。素敵な言葉ですね。
家族の予行演習ではあるけれど、一緒に暮らせば、何かのきっかけで不満が溢れだすもの。
きっとこの二人なら夢を持ち続けることができるでしょう。

16/03/16 泡沫恋歌

そらの珊瑚さま、拝読しました。

たしかに同棲って、恋人以上で、夫婦未満ですよね。
将来、結婚に結び付くという保証はどこにもないし、微妙な関係だから、不安も多いでしょう。
たぶん主人公は大女優というよりも平凡な主婦になりそう。

16/03/31 滝沢朱音

同棲するって、いわば結婚のタマゴみたいなものなのかもしれませんね。
いざ夫婦になれば、惰性とか諦めで片付けてしまいがちな日常のささいな違和感を、
ちゅうぶらりんな関係だからこそ「まずい、非常にまずい」と認識できるのかなと。
二人で同じ夢を追いながら、タマゴ時代をじっくり味わうのも素敵ですよね(*^^*)

16/06/05 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、ありがとうございます。
同棲にもいろいろあるのでしょうけど、夫婦(家族)になる可能性も秘めた関係とでもいいましょうか。
クリアしなければならないハードルは高そうです。

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
そうですね、案外そのほうが幸せになれたりして。

滝沢朱音さん、ありがとうございます。
一緒に暮らしてみて初めてわかることだとか、ありそうですよね。

ログイン