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宮下 倖さん

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妖の庭 鬼灯の空

16/03/14 コンテスト(テーマ):第103回 時空モノガタリ文学賞 【 同棲 】 コメント:4件 宮下 倖 閲覧数:1326

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 庭の鹿おどしがカコンと尻をついた。竹の切り口はすぐに顎を上げ夕空を仰ぐ。灌木の間や石灯籠の後ろに潜むいくつもの気配は、庭に臨む座敷の中を心配そうに窺っていた。
 座敷に並んでいるのは、口を真一文字に引き結び緊張した面持ちの鬼火の青年と、背筋を伸ばし凛とした様子の文車妖妃である。彼らの前で渋面をつくっているのは、妖怪の総大将ぬらりひょんだった。 

「じじさま、彼と一緒に住みたいんです」
「俺たちは本気です。夫婦になりたいと望んでいます」

 ふたりを見れば本気は承知であるが、ぬらりひょんとしても安易に首を縦に振るわけにはいかない。
 文車妖妃は妖怪界の数多の出来事を記した文書を管理する妖怪で、彼女の周りには付喪神と化した巻物や書物がつき従っていた。今も妖妃の膝や背中にじゃれている。
 鬼火は乱暴者ではないが、感情が昂ぶると炎が現れる。よって燃えやすい巻物や書物には天敵なのだ。付喪神である書物たちは各々逃げようとするのだが、古いものであるがゆえ動きが鈍い。
 妖怪界の記録を燃やしてはならぬ。共に住むのは難しくはないか。しかし「じじさま」と慕ってくれる孫娘のような妖妃の頼みを無下に断ることも辛い。ぬらりひょんは深々と息を吐いた。

「わしが行こうかい?」

 座敷の中を不安げに覗き込んでいた妖怪たちの間からしゃがれた声が上がった。吹き消し婆である。

「ふたりが熱うなってうっかり炎が上がったら、わしが吹き消してやろうぞ」

 笑顔で請け合った吹き消し婆に、鬼火と文車妖妃が感謝の目を向ける。ぬらりひょんも「なるほど」と手を打った。



 結果から言えば失敗だった。ふたりの愛の炎は婆に吹き消せるようなものではなかったということだ。すっかり意気消沈した吹き消し婆に代わり、名乗りをあげたのが雨女であった。

「火には水でしょ? あたしが火を消せば安心していちゃつけるでしょ〜」

 じめじめした湿気を吹き飛ばすような、からりとした雨女の笑顔である。それがギャップ萌えとして人気を博す妖怪界のアイドルは、再びみなが集まる座敷の中でぽんと胸を叩いてみせた。今度こそと期待をかける若いふたり。ぬらりひょんも「なるほど」と手を打った。



 霧雨から豪雨まで自在に操る雨女だけに最初は順調だった。鬼火が妖妃に愛を囁くたびに炎が巻物の端を焦がす。彼女はそれを見事に消していく。
 しかし、程なく雨女がキレた。あまりに仲のよい鬼火と文車妖妃に、おひとり様が吠えたのだ。

「いくら何でもいちゃつきすぎでしょ! 恋愛禁止のアイドルの前でー!」

 とうとう部屋中にざんぶりの雨を降らせ、雨女は半泣きで出ていってしまった。
 困り果てたぬらりひょんは座敷に妖怪たちを集め、どうしたものかと相談した。そこで手を挙げたのが目々連とうわんだった。

「要するに炎が出なければいいのだろう。俺が家中見張る。もし出そうになったら……」
「オラが、うわん! と叫ぶ」

 みなが感心したように拍手した。炎が出てから消すのではなく、予防対策の観点からの立候補である。ぬらりひょんも「なるほど」と手を打った。



 だが、これには当のふたりから「やめてください」と泣きが入った。目々連は無数の目玉で家中ぎょろぎょろと見回し、何かあればうわんに伝える。結果、鬼火と妖妃が手をつないだだけで「うわん」、見つめ合っただけで「うわん」とやるものだから堪らない。巻物や書物たちは平和だが、若いふたりには苦行の日々となったのだ。

 座敷にはまた、みなが額を寄せていた。愛し合うふたりの暮らしを応援したいが、異種妖怪の恋愛はなかなか難しい。一同「うーん」と唸ったとき、座敷童がひょっこり入ってきた。遊びに行っていた人間界から戻ってきたところである。
 外見からは座敷童とわからないほどファッショナブルな彼は人間界に明るい。ひと通り事情を聞くと、鼻ピアスを引っ掻くようにしてこう言った。

「電子書籍にしちゃったら?」



 かくして文車妖妃が管理していた連綿と続く妖怪界の記録の数々は、小さめのまな板のようなタブレットにすべて収まった。歴史をまるごと飲み込んだタブレットはあっという間に付喪神と化した。
 巻物や書物に比べ圧倒的に若いタブレットは、鬼火が撒き散らす炎を鮮やかに躱して走る。ふたりがどれほどいちゃつこうが、燃えてしまう心配はなさそうだった。

 懸案事項がひとつ落ちつき、座敷から庭を眺めながらぬらりひょんは茶を啜った。妖怪が生きにくい世の中になってしまったが、しぶとく在るためには郷に入っては郷に従えだ。
 近くの川から小豆をとぐ音が聞こえる。松の枝の上では天狗が大欠伸をし、暮れゆく空を一反木綿が横切る。
 庭の鹿おどしがカコンと尻をついた。




―― 了 ――


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このストーリーに関するコメント

16/03/15 そらの珊瑚

宮下 倖さん、拝読しました。

妖怪同士の恋愛もなかなか大変な事情があるのですね〜。
妖怪の世界も進歩しているんだなあと、話のオチが面白かったです。
水木先生がご存命だったら、ぜひ漫画にしていただきたかったなあと思いました。

16/03/23 光石七

拝読しました。
非常に楽しいお話でした。
名乗りを上げる妖怪たちとその失敗が面白く、座敷童子のファッションと一言に吹き出しました。
妖怪たちも時代の流れに乗っているんですね。
面白かったです!

16/03/23 宮下 倖

作品を読んでいただき、またコメントを残してくださりありがとうございます! とても励みになります!
小さい頃から「妖怪」が好きで、水木先生の描く世界に魅了され続けて今に至ります。
「同棲」というテーマに妖怪……というのはどうなのかなあと思ったのですが、「面白い」と言ってもらえてとても嬉しいです。
「暮らしにくい世の中になったなあ」なんて愚痴りながらも、柔軟に強かに生きる妖怪たちを思い描きながら書きました。


【小狐丸さま】
「妖怪大全」が小さい頃から大好きです! 「うわん」を調べてくださったなんて感激しました。「うわん!」って脅かすだけの変な妖怪なんです。彼らの個性が描けていたら嬉しいです。座敷童がおしゃれだったら楽しいですよね。私も見たいです!
読んでくださりありがとうございました!

【そらの珊瑚さま】
妖怪の世界をあれこれ妄想するのが楽しかったです。恋愛事情も大変そうだなあと思いながら書きました。
永きを生きてきた彼らは世の中に上手に適応し進化しながら、これからも生き抜いていくんだろうなあと思います。
水木先生のお名前を出していただき光栄です!
読んでくださりありがとうございました!

【光石七さま】
妖怪たちの生きる世界も一筋縄ではいかなくなっているのかなと想像します。でもきっと知恵を出し合いながらみんなで助け合って暮らしていくのかなあ……なんて思います。
座敷童は思いっきり容姿のイメージをひっくり返そうかなと。人間界で遊ぶ彼は結構おしゃれかも、と楽しく妄想しました。
読んでくださりありがとうございました!

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