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matiさん

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エンドロール

16/03/11 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:2件 mati 閲覧数:1023

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試写室からもうすぐ上映が始まるとのアナウンスがあった。
観客は思い思いの席に散らばり映画を始まるのを待った。
「大変長らくお待たせしました。私の新作をこの上映会にて執り行われることを
光栄に思っています。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
Nの声が聞こえる。彼は大学の映画研究会に属している。彼の新作が出来たのだ。

しばらくするとスクリーンが明るくなり映画が始まった。けれども始まったのはエンドロール。
観客は呆気にとられている。そうした反応もおかまいなしに今度はラストシーンが始まる。観客はざわめき始める。席を立つ者も居る。いつもの事なのだが。


世の中には2種類のタイプの映画がある。
エンドロールから始まる映画と始まらないタイプの映画だ。
Nの作る映画は必ずエンドロールから映画が始まった。暗転してラストシーンの余韻が来て、クライマックスが来てそして逆回転しながら物語は冒頭に進んでいく。普通の映画とは全く逆だ。
「何故エンドロールから始まるのか」
僕はNに問いかけたことが有る。
「だって悲劇的な結末になると観客ががっかりするだろ。落ち込むかもしれない。つらい気持ちになるかもしれない。だから結末から見せるのさ それなら悲劇的に終わっても問題ない」

確かにNの作る映画は悲劇が多かった。でもそんなことで観客はがっかりしたりはしない。
観客はもっと違うタイプの映画を見たいはずだ。たとえばエンドロールから始まらない映画を。
そんな忠告も聞かずNの映画は相変わらずエンドロールから始まった。
彼の映画を見ようと言う変わり者は友人しか居なくなりそして友人さえも上映会には来なくなった。

1時間程の上映が終わり観客席を観ると僕以外誰もいなかった。
僕は立ち上がって一人拍手をする。Nが映写室からそれに応えた。




就職活動をする時が来てNの作る映画も最後になろうとしていた。
Nも大学生活最後の撮影に熱中している。学園祭に彼の最後の作品は上映される事となった。
「巨匠の最後の作品だからみんな観る様に」
そう言われてNの友人や僕も周りの仲間を連れて上映会に詰めかけ席は満席になった。
上映が始まる前にNはわざわざスクリーンの前に立ち言った。
「今からお見せする映像は私の個人的な記録です。有る一人の女性の生涯を
撮った作品です。そして相変わらずエンドロールから始まります ご了承ください」
場内から笑いが漏れる。Nは少し微笑むと映写室の方へ向かった。

映写機の音がし始めスクリーンに映ったのは相変わらずエンドロールだった。
その次に写ったのは高校生位の女性が病室で最後を迎えるシーンだった。家族に見守られた
眠る彼女を撮影者はフィルムに淡々とうつしていく。
シーンは変わりその女性が舞台で演技をするシーン。僕は思わず息をのんだ。美しい女性だ。
主演の彼女は病室とは違って生き生きとしており美しかった。天性の女優とも言うべきか。
高校生とはいえ彼女のもつ輝きに僕は魅了された。
荒い映像とはいえきらめきは十分伝わってくる。
段々主演の女性は若返っていきそしてホームビデオになり彼女の幼い頃の映像になり
そして彼女の生まれるシーン赤ん坊の泣き声で終わる。
「最愛の女性 裕美に捧ぐ」
スクリーンにそう文字が踊り映画は終わった。
僕は観客席を抜け出して映写室に入ったがNはもう立ち去った後だった。映写機だけが回っている。
そして、それから構内でNの姿を見た者は誰もいなかった。

「あの女性 Nが高校時代付き合ってた彼女らしい」
しばらくして友人がそう教えてくれた。何でも彼女は女優を目指していてNは彼女を主演にした
映画を撮りたいと思い映画監督を目指していたようだった。
だが彼女が病に倒れ、そして帰らぬ人となった時、そのショックからNは映画への情熱も薄れ、大学で映画研究会に入ってもエンドロールから始まる映画を撮る様になったよう。
それからNの消息は全く分からない。どっかの映像学校に入ったとも新百合辺りの映画学校に入ったとも
言われた。全く連絡がつかなくなり僕らも社会人になってNのことは忘れるようになった。
いつまでも学生ではいられないのだから。僕が入社したのは映画情報を取り扱う小さな出版社だった。


数年が経過した。僕は東京の郊外で開催された新人映画監督の映画祭に仕事で行く事になり
そこでパンフレットに懐かしい名前を見つけた。Nの名前だ。彼の映画の上映回に僕は映画館にそっと
入る。100人は入れそうな客席の映画館で新人監督の映画祭が開催されていたのだ。
パンフレットにはN は注目の新進映画監督と書かれていた。
やがて場内が暗くなり始まりのアナウンスがあり映画が始まる。
主演女優のアップから映画は始まった。
そしてエンドロールは終幕になるまで流れないままだった。


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このストーリーに関するコメント

16/03/12 あずみの白馬

 エンドロールから始まる映画、しかも観客の大半は途中退出。
 それでも映画を撮り続けるN、それは何故なのか……、と読み進めて行きました。

 その理由に驚きと切なさを感じました。そしてラスト……
 エンドロールが流れなかった理由は説明不要ですよね。素敵なお話をありがとうございました。

16/03/20 mati

あずみの白馬様

この作品は
エンドロールに込めた思いの様な感じで書いたのですが
素敵なコメントありがとうございます

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