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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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予想屋の暗い過去

16/02/23 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:786

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澄み切った青空を見上げて、芳吉は大きく深呼吸をした。長年吸っているタバコのせいで、小さく咳きこんだ。まだ朝8時の府中競馬正門前駅には、人がまばらだった。
芳吉は右手に競馬新聞を丸めて持ち、長年愛用している牛皮のショルダーバッグを肩に下げて、東京競馬場へと続く下り坂を歩いて行った。
場内には入らず、東門広場の一角に座り込み、ショルダーバッグから、『競馬予想屋』と手書きで書いたノートを取り出し、客に見えるように立てかけ、競馬中継を聞くためのラジオも横に置いた。
午前9時を過ぎ、観客も多くなってきた。
「はい、らっしゃい・らっしゃい。予想屋だよ。1レース200円から予想するよ」
1人の中年の男が立ち止まった。
「おっちゃん、当たるの?」
「当たりますよ」
「1レースの予想、いくら?」
「200円です」
男は財布から200円を取り出し、芳吉に手渡した。
「第1レースを馬連で買おうと思ってるんだけど、おっちゃんの予想は?」
「そうっすね、第1レースは逃げ馬が得意の5番と、差し馬が得意の8番が1・2着でゴールすると思います。ですんで、馬連で買うのであれば、5番のトラフィーレと8番のオートメーションを買われた方がいいっすよ」
中年の男は「参考にするよ」と言って、背中を向けた。
「お客さん、もし俺の予想が的中しましたら、ご祝儀よろしくお願いします。この場所にずっといますんで」
中年の男は、去りながら片手を上げた。
午前10時を過ぎ、ファンファーレと大勢の観客の熱狂した声が場外に響いてきた。芳吉は目を瞑って、その音に耳を傾けた。競馬の予想屋をやってもう10年が経つが、このファンファーレと観客の大歓声を目を瞑って聞くのがなりよりも好きだった。
その日の夕方になり、結局、今日の12レースはすべて的外れだった。今日の予想屋の収入は20人に予想を教えたので、4000円だった。

翌週の日曜日、今日は競馬ファンにとっては特別な日だった。東京競馬場で開催されるG1天皇賞(秋)の開催日だった。
この日の夕方近く、もう客はこないだろうと思っていると、1人の背広を着た猫背の男が芳吉の前で立ち止まった。
「当たりますか?」
「当たりますよ。最後の12レースの予想ならまだ間に合いますよ」
男はいくらですか? と小さい声で言った。
「200円です」
「本当に当たりますか?」男の顔は、真剣そのものだった。何か切羽詰まった感する感じ取れた。
「いや、予想屋ですので、すべて的中とまではいきませんがね」
「それじゃ、困るんです!」男は、声を荒げて言った。「全財産の400万円をつぎ込みますんで、確実に当たらなくちゃ困るんです」
「お客さん、何があったのか知りませんが、競馬は趣味の範囲で楽しむものですよ。全財産なんてつぎ込むものじゃないですよ」
男は「分かった」と言い、200円払うので、最後の12レースの予想を教えてくれと言った。
芳吉は心配に思いながらも、12レース目で1着と2着でゴールしそうな馬の名前を言った。
それからしばらく経ち、最後の12レースが終わると、観客が場外に大勢出てきた。芳吉は帰り支度をし帰ろうとしたが、何となく場内の観覧席に行った。まだまばらに客がいたが、すぐにあの12レースの予想を聞いてきた、スーツを着た男の後ろ姿を見つけることができた。
男はうなだれて椅子に座っていた。
「お客さん、外れて申し訳ないっすね」
男は芳吉に涙で濡れた目を向け、またすぐにうなだれた。
「全財産、使いはたしました」男は言った。
「やっぱりそうでしたか」
「でも、金が無くなってすっきりしました。これで一家無理心中ができますので」
芳吉は「何かあったんですか?」と聞いた。
「友人の連帯保証人になってしまいまして、3000万円の借金を抱えてしまったんです。明日までに800万円支払えって暴力団に脅されているんです」
「何とかなりますよ。一家無理心中なんてよしなさいよ」
「あなたに私の気持ちなんて分からないでしょうね」
「分かりますよ。私も20年前、会社を潰してしまいまして、妻子とともに無理心中を図ったんです。でもどうしてか、私だけ助かってしまいました。刑務所で10年服役しまして、今はこの通り、老いぼれた予想屋をやってます。何とかなりますって、お客さん」
スーツを着た男は、小さく頷き「競馬って初めて観戦しましたけど、観客の熱気がすごいですね。人生一からやり直して、趣味でまたこの競馬場に来たいと思います」
「がんばってくださいね。間違っても無理心中などしちゃだめですよ」
男は小さく頷いて、観客席を去って行った。
芳吉は、自分の皺くちゃの両手を広げてみた。妻子を紐で殺した時の感触がまた蘇ってきた。
近くでは清掃婦がほうきとちり取りで観客席に散乱した外れ馬券を掃除していた。


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