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にぽっくめいきんぐさん

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舞台裏

16/02/19 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:2件 にぽっくめいきんぐ 閲覧数:1026

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 男が入ってきた。四十代半ば位だろうか。やや猫背で疲れが見える。
 バニーガールが寄ってきて応対した。
「紹介状はお持ちですか?」
「ええ、これです」
「田中様ですね。こちらへどうぞ」 
 男はカウンターに案内された。スーツ姿の女性が彼に話しかけた。
「当カジノのルールはご存知でしょうか?」
「聞いてます」
「交換はどうなさいますか?」
「そうだな……3年、頼むよ」
「承知しました。コインをお渡し致します」
 36枚のコインを受け取った男は、室内の物色を始めた。

 上層にある地上カジノ同様、ここにも、おなじみのゲームが配置されている。ブラックジャックにポーカー、バカラ等だ。室内は煌びやかな内装で、ダンサーやパフォーマー、豪華な料理も配置され、客を楽しませる演出があちこちになされている。
 男は室内を二周ほど回って考え、ルーレットを選択した。
 「カードゲームは苦手だ。ディーラーに勝てる気もしない。ならば運否天賦」
 滑り出しは上々。数字一点勝負なんて無茶な事はせず、手堅く赤か黒かを選んで賭けていく。手持ちコインは50枚を超えた。 
「この調子なら、俺は若返れる」

 彼は事業で失敗した。才気溢れ、志も実力もあったがワンマンすぎた。社の命運を賭けた重大プロジェクトの進行中に、会計担当者が不祥事を起こした。金の巡りは血の巡りに似ている。社員同士の関係も、またたく間に冷えた。
 金も地位も、友と思っていた者達も失った男に残ったのは、復活の意志と、もう若くもない身体だけだった。

 何事もそう上手くは進まない。
 最初こそ勝てていた男だったが、徐々に追い込まれ、元のコインはすっかりなくなった。挙げ句、10年分の「時間コイン」を使ってしまった。
 うなだれる男に、バニーが声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫なものか。10歳も年をくってしまう。こんなひどいことはない」
「ですが、ご覚悟はおありになったのでは?」
「そう簡単にあきらめられるか?」
「そうですね……田中様。こちらへ」
 連れてこられたカウンターで、先程のスーツ姿の女性が応対する。
「実はお客様の時間は、保有する運量にも変換できるのです」
「運量?」
「はい。運量1で、満員電車で偶然席に座れる程度の幸運です」
「そんなこともできるのか。レートはどのくらいだ?」
「運量10につき2コインです」
「……それで、どの位あれば、勝てる?」
「それは申し上げにくいです。個人差や、場の状況によっても違いますので」
「勝負のキモは教えてもらえないんだな」
「申し訳ございません」
「わかった、ちょっと考えてみる」
 男は部屋の隅に移動し、腕を組んだ。
 更に勝負したいのはやまやまだ。しかし、どの程度の運量が必要だろうか?勝負するにはコインも別途必要だ。俺は既に10年分負けている。運量とコインで、合計何年分の時間を賭ければ良いだろう?ミスればそれも失うのだ。
 男は腕を組んだまま、室内を二周、三周と歩き回った。結果
「……そこまでのリスクは負えない」
 そう呻くと、カウンターに向かった。
「ここで終了にするよ」
 そう受付の女性に告げる。 
「承知しました。清算ということでよろしいですね?」
「仕方がない」
 男が清算用ブースに入り、清算ボックスを開くと、中から白い煙がわき出した。男はより猫背になり、しわも深くなった。
「完了しました」と受付の女性。
「どうも。ちなみに、一つ聞かせて欲しいんだが」
「なんでしょう?」 
「俺が今失った10年は、どうなる?」
「地上カジノと同様、とだけお答えしておきます」
「……そうか。一番儲かるのは、いつだって胴元だもんな」
「そうかもしれませんね」
「じゃあな」
 とぼとぼと出口から出て行く男を、別室のモニターで確認する者達が居た。
 胴元だ。
「さっき来たの、あっさり撤退しましたね」
「あと10年位は、つぎ込むかと思ったが」
「人間の意志なんてその程度ってことだろ」
「しかしまあ、これだけ寿命が延びると、退屈になってくるな」
「大抵の事はやり尽くしたし」
「何か新しい刺激欲しいよな」
「そういや大分前、招待状無しで、裏口から入って来た人間いたろ?」
「あー、子分を助けたやつな。ウラシマとか言ったっけ?」
「そうそう。あいつ、特に賭け事もせず、メシ食ってダンス見て、もう帰るって言ってるんだけど」
「賭けろっての。カジノなんだから」
「まぁ、強制するわけにもいかないしなぁ」
「じゃあさ、そいつにボックス渡して、こっそり開けるかどうかで、勝負でもするか?」
「良いけど、勝ったら?」
「ボックスで吸い取った時間、45年ってとこかな」
「別にいいけど、負けても誤差に過ぎないな。寿命一万年超えだし」
「スリルが足りないよな」
「何か他に楽しい事無いかなあ」


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このストーリーに関するコメント

16/03/06 光石七

拝読しました。
年齢・若さを賭けるカジノ、勝てば万歳ですが負けると…… お金よりもシビアな感じがしますね。
しかし、まさかあの昔話の舞台裏がこうなっていたとは(笑)
面白かったです!

16/03/12 にぽっくめいきんぐ

ありがとうございます!
失った時間は取り戻せないですからねー(><)

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