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つつい つつさん

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醤油味のカップラーメンがやけにしょっぱかった話

16/02/16 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:6件 つつい つつ 閲覧数:1219

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 突然、会社から有給休暇の消化を命令され、唐突に平日に休みになった僕はなんとなく前から気になっていた近所の地方競馬場に行くことにした。今まで競馬どころかパチンコだってやったことがないのに晴天の霹靂みたいな休みに気分が少し舞い上がっていたのかもしれない。
 初めて足を踏み入れた地方競馬場は、けもののにおいがした。ちらほらいる客はみんなまともな社会人には見えず、普段何やっているのかさっぱりわからない派手な服を着たおっさんや、よれよれのスウェットで、前歯が無く、ぶつぶつつぶやいているような年寄りばかりだった。場違いな所に来てしまったと後悔しながらも場内をまわると目の前で馬が走っていた。あんな大きな生き物が全力で駆け抜けるのを見て衝撃を受けた。ドドドッと馬が走るたびに地響きが聞こえ、お金を賭けなくても興奮した。
 二、三回、馬が走っているのを見た後、自分でも馬券を買ってみようと思ってみたけど、買い方がわからなかった。マークカードとペンが備えつけてあって、それに記入すればいいみたいだけど、書き方がわからない。しばらく悩んでいると、ベレー帽を被りパリッとしたスーツに身を包んだ六十代くらいの英国紳士風の男が話しかけてきた。
「はじめてですか?」
 僕が会社が突然休みになり来てみたものの、なにをどうしたらわからないということを矢継ぎ早に話すと、その紳士は穏和に微笑みながら、馬券の買い方を教えてくれた。そして、そのおかげで自分で馬券を買うことが出来るようになった。
 自分でお金を賭けてレースを見ると、それまでとは違った興奮が味わえた。二回ほど買って全然当たらなかったけど、それでもおもしろかった。二回目のレースが終わった後、また先ほどの紳士が声を掛けてきた。
「どうです、当たりましたか?」
 僕は苦笑しながら「さっぱりです」と答えた。すると紳士は、胸元から皮の定期入れを取り出した。そこには、馬主登録証と書かれたカードが入っていた。紳士は自分はこの競馬場の馬主で自分の馬も今日この競馬場で走っているんだということを教えてくれた。僕は馬主なんて人に会うのは初めてで、さぞかしお金持ちなんだろうと姿勢を正した。
「それでね、次のレースいい情報があるんですよ。直接関係者から聞いた話でね。お教えしましょうか?」
 僕は突然の申し出に驚いて戸惑ってしまった。
「いやいや、あなたみたいな若い人に競馬の楽しさを知ってほしいんですよ。せっかく来てくれたんだから、勝って帰ったほうが楽しいでしょう」
 それから僕は紳士の教えてくれた馬券を一万円分購入した。さっきまで百円単位で買っていたから、レースが始まると心臓が急にドキドキした。レースが始まり自分の買った番号の馬が駆け抜けてくると、訳も分からず叫んだ
 そのレースは紳士の教えてくれたとおりになり、僕の一万円は五万円になった。レース後興奮醒めやらぬ中、紳士は再び現れ、次のレースも教えてくれた。僕は紳士に言われるがまま当たった五万円を次のレースに全額ぶち込んだ。
 次のレースのことはあまり覚えていない。いつも何千円、何百円をちびちび使い、大きい買い物なんてしたことない自分が五万円もギャンブルにつぎ込むんだ。その興奮たるや今まで味わったことの無いものだった。朦朧とした意識の中で馬が走りだし、唾をまき散らし声が枯れるまで自分の買った馬を応援した。そして、当たった。
 五万円投資した僕の馬券は二十万の札束となり返ってきた。しばらく興奮を抑えようと競馬場に佇んでいると紳士がまたやって来た。だけど、今度は両隣に知らない人が立っていた。

紳士が言う「おめでとうございます。ところで、いろいろお教えしましたので、授業料をいただけないでしょうか?」ニコニコ
僕はわけがわからず、でも、なぜかニコニコしながら答える「えっと、どういうことですか?」ニコニコ
紳士の左隣のヤンキーの兄ちゃんが僕に近寄る「とりあえず財布出して貰えますか?」ニコニコ
うわっキレたら止まらなそうなタイプですね。そうとうやんちゃしてますよねニコニコ
右隣の浅黒い何人かわからない男も僕の方に一歩踏み出る「プリーズ」ニコニコ
ブラジル人? アルゼンチン人? 日本語通じますか?ニコニコ
男がムキムキの右手を差し出す「カモン!」ニコニコ
あなたすごい筋肉ですね。手加減とか知ってますか?ニコニコ
紳士が財布を受け取り中身を確認するニコニコ お札を全部取り出すニコニコ 
全部ですか? 僕が最初から持っていた二万円も取るんですか?ニコニコ
お札を全部取ると、三人はニコニコ笑いながら去っていった。 僕は、呆然と立ち尽くしたニコニコ

 その晩、僕は財布に残ったなけなしの小銭で買った醤油味のカップラーメンを食べた。つるつると麺をすすりながら、さめざめとすすり泣いた……シクシク。


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このストーリーに関するコメント

16/03/07 光石七

拝読しました。
いいカモにされてしまいましたね(苦笑)
繰り返される「ニコニコ」が、状況のヤバさや主人公の笑うしかない混乱具合と共におかしみも醸し出していて、効果的だと思いました。
最後の「シクシク」、かわいそうなんだけどクスッとしてしまいますね。
面白かったです!

16/03/07 つつい つつ

小狐丸 様、感想ありがとうございます。
ニコニコ笑ってないと仕方ない主人公のつらさを必要以上のニコニコで表してみました。笑い話にしたかったので、最後可愛らしくしてます。

光石七 様、感想ありがとうございます。
状況は多少違いますが、この話は7割くらい実体験(-_-;)なので、シクシクとオチをつけて、自分で笑ってしまおうと書きました(笑)

16/03/18 冬垣ひなた

つついつつさん、拝読しました。

最近の競馬場は女性向けにもなっていますが、これが実体験って……怖い所なんですね、
話のテンポも良く、緊迫した場面での「ニコニコ」が主人公の崖っぷちな状況を際立たせていて凄いなと思いました。そして可愛くてコミカルな印象で締めくくる「シクシク」の存在感!面白かったです。

16/03/19 こうちゃん

つつい つつ様、拝読させて頂きました。最初は競馬に露ほども関心を持たない主人公が、山師の巧妙な話術によって徐々に陶酔していく様が描けてますね。「次のレースのことはあまり覚えていない」という一節は、経験者でなくては書けない描写ですね。ニコニコという表現は斬新です。

16/03/20 つつい つつ

冬垣ひなた 様、感想ありがとうございます。
わりと昔の話ですが、今でも地方競馬は平日の昼間から賭け事してるので、独特な怪しさはまだ残ってると思います。

こうちゃん 様、感想ありがとうございます。
競馬をしていて本当に興奮したときほど、ゴールの瞬間は無我夢中でフワフワしている気がします。後でゴールシーンを見直して、やっと勝利を確信するって感じです。

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