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寿ぴさん

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「いつも」の

16/02/07 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:2件 寿ぴ 閲覧数:901

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そんなことはわかっている!
だが、どうしても賭けなければいけないと言うのか!?

薬を飲む。徐々に落ち着いてくる。同時に眠気も誘発する。

・・・

俺はいま大学を辞めて実家に暮らしている。両親は俺を心配して、しばらくゆっくりしているようにと言ってくれているが、いつ追い出されるのか内心気が気ではない。弟は昔、大学に進学した俺をニート呼ばわりしてからかっていたが、本当にニートになってしまった今、お互い気まずくて会っても話せなくなってしまった。

やばい。とは思っている。切実に。しかし、今やこの4畳半の部屋を出ることすら恐怖を感じる。外に出る用事と言えば、薬が切れたタイミングで病院に行くぐらいだ。寄り道はしない。いつも通る道以外は絶対に通らない。だってそうだろ?何があるかわからないんだから。買い物はもっぱらAmazonを使っている。家を出ることなく欲しいものが買える。受け取りは母親がやってくれる。レジでお金が足りなくて嘲笑されることもない。便利な世の中だ。

ほとんど惰性的にネットを開いた。どうでもいい芸能人の恋愛スキャンダルに目を通した。なぜここまで図々しく生きていられるのか疑問だ。俺なんて他人と話さなければいけないとなると、前日は丸一日憂鬱な気分で想定問答集を作るというのに。あらかたニュースを見終わって、意を決してFacebookを開いた。Facebookは友人のキラキラした日常がひけらかされていてどうも好きになれない。ただ普通の同年代がどのようなことに興味があるのか知るために見ている。どうでもいい投稿が氾濫する中で、大学の同期だったやつがこんな投稿をしていた。

———————————
最近読んだ本で印象に残った言葉がある。
「人生は賭けの連続である。世界は博徒たちの驚きにある。」

僕は生んでくれと言って生まれてきたわけじゃない。
しかし、生まれてきた。
それは偶然。ただの偶然。

生まれてきたからには生きなければいけない。
生きるためには賭けなければならない。

賭けた結果、当たることもあるし、はずれることもある。
大穴狙いか。手堅く勝つか。
———————————

人生は賭け?だとしたら随分と貧乏くじを引いたものだなぁ。クソだ。やっぱりFacebookなんて見るものじゃないな。

シャワーを浴びながら、さっきの投稿が頭をよぎる。人生は賭けの連続である…。連続?ということは今も賭けているとでも言うのか?ふとシャンプーに伸ばした手を止める。

「いつも」のシャンプーではなく、母親や、父親や、弟のシャンプーを使う…とか?賭けにしてはショボすぎるだろう。しかし考えてみろ。弟のシャンプーを使い、運悪く風呂場を出て、弟がいたら。弟のシャンプーは清涼感のある男性用だ。においですぐにバレる。許されるだろうか。陰口を言われるだろうか。ののしられるだろうか。

…たしかに賭けだ。結局、「いつも」のシャンプーを使った。風呂場を出たが、自分の部屋に戻るまで誰にも出くわさなかった。賭けても良かった。と思ったがあとの祭りだ。

・・・

俺の日常は数年は続いた。「いつも」の食事。「いつも」のネット。「いつも」の…。

あるとき父親が脳梗塞で入院した。手術をしたが、身体に麻痺が残ってしまい働けないということで母親が働き始めた。家計が苦しいからと、「いつも」の食事は一品減ることになり、シャンプーはイオンの安いやつになった。それでも俺は良かった。それが「いつも」になるからだ。母親はたまに会うと疲れた顔をしていたが、俺を働かせる気はないらしかった。会うと俺の方が参ってしまうので、できるだけ会わないようにした。その後、数ヶ月して母が過労で倒れ、財産という財産を使い果たし、俺の「いつも」は脆くも崩れ去った。

俺は…世界を、親を、そして生まれてしまった自分自身を呪い、絶叫した。もう「いつも」は望めない。「いつも」を望んだ結果がこれだ。「いつも」ではいけない。安住の地は世界にない。

そんなことはわかっている!

俺は弟のシャンプーを手に取り、血の出るほど頭を洗った。


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このストーリーに関するコメント

16/03/05 光石七

拝読しました。
主人公の気持ち、わかるような気もします。賭けなんかせず「いつも」通り過ごしていれば、大きな得はなくとも平穏でいられる。なかなか踏み出す勇気が出ない。
「いつも」を失ってしまった主人公の崩壊が印象的です。
心にズシリとくる、深いお話でした。

16/03/06 寿ぴ

>光石七さま
コメントありがとうございます。
まさに、賭けに伴う"勇気"の必要性を考えていました。
賭け続ける勇気を持ちたいものですね。

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