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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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猫は九回生まれ変わる

12/08/22 コンテスト(テーマ):【 猫 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1678

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「あなたは何回目?」
 人が行き交う都会の歩道を悠々と歩いていると、突然向かいから近寄ってきた人間にそう声をかけられた。
 僕はおや、と思いながら、その人間の姿をじっと眺める。
 襟元の空いたシャツ、桃色のスカートを着た人間。どうやら性別はメスのようで、その手には、何の変哲もないコンビニの袋が握られている。
 よく見る服装だった。確か、人の世界ではOLと言われる人種。太陽が真上にある時間だから多分食事休憩をしているところなのだろう。
『何の話?』
 会話が通じるとは思っていなかったが、僕の姿が見えているのだからひょっとしたらと思い、声を発した。
 するとその人間は当たり前のように質問に答えてくれた。
「あなたが生まれ変わった回数のこと。今は身体を失って霊体だけれど、その状態でいられるってことはまだ何回か残っているのでしょう?」
 僕は驚きのあまり目を大きく見開いて、その人間をぽかんと見つめた。
 自分でも驚きすぎだとは思うけれど、仕方がない話だった。
 だって、その情報は猫の機密情報で人間が知るはずがないのだから。
 そうして、周りの音が遠ざかったような長い三秒が過ぎて、人間はため息をつき、僕に向かってこう言った。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。単純に私が人間じゃないだけだよ」
『人間じゃない?』
 そんな馬鹿な。目の前の人間が人間じゃなかったら一体何が人間だと言うのか。
 僕が睨むような視線を向けると、その人間は手に持っていたコンビニの袋からキャットフードを取り出し、おもむろに封を開けてボリボリとつまんだ後、紙パックのミルクをストローから舐めるようにして飲んだ。
「ごめんね。時間ないからつまんじゃった。でも、これで信じてもらえないかな?」
 にこ、と白く染まった舌を出しながら笑う人間。
 その異様なまでの違和感に、僕はようやく心辺りが生まれた。
『……ひょっとして、化け猫なの?』
「そ。まあ、化け猫とは言っても、目的があって化けてるわけじゃなくて、目の前で死んだ人間の身体に、生まれ変わる前の霊体が入っちゃっただけなんだけどね」
『ふうん、珍しいね。原因は?』
 猫はこの世に生を持った時点で、それを回避するように自らの親から言い聞かされる。
 死期を悟った猫が姿を隠すのはこのためだ。
 万に一つでも、化け猫になることがないように。それだけ。
 何故、そこまで忌避するのか。それは単純に、――辛いからだ。
 一度そのように他の生物の死体に霊体が入ってしまうと、その死体の本来の寿命が果たされるまで抜け出すことは出来ない。
 ゆえに、決して人の死体に入ってはならないのだ。
 人の寿命は長い。猫の体感速度のままでは、終わりまでが長すぎる。
 だから、目の前のまだ老いが感じられないほどに若い人間の死体から、化け猫が生まれたのには何か原因があるはずなのだ。
「……事故だよ。野良の私がトラックに轢かれそうになったのを、この人が助けようと抱き上げてくれたの。そしたら、結果的に両方轢かれちゃって。あっという間にこうなっちゃったってわけ」
 遠い目で語る彼女の口元には暖かい笑みが浮かんでいた。
 僕は彼女のその満足そうな微笑を見て、彼女の中に後悔がないことを知った。
『そっか。人の生活はどう? 僕は今八回生まれ変わってるんだけど、一回くらい体験したほうが良い?』
 僕はこの先の魚屋でいきんでいる、生まれ変わり先の子を宿す母猫の声を聞きながら、彼女に尋ねた。
「ううん、やっぱり長いから。仕事も面倒だし、一日一日もちょっと長すぎるくらい。だからあなたにはオススメ出来ないよ」
『そっか』
 彼女の答え次第では、ちょっと考えてみようかとも思ったのだけれど、その答えが僕の考えを揺さぶることはなかった。
「ねえ、あなたは今回、どこで亡くなったの?」
 唐突な彼女の質問。僕は首を傾げ、喉を後ろ足でかきながら答えた。
『……この通りをちょっと先に行って、ポスト、電柱を飛び越えて上れる静かな建物の屋根裏だけど、なんでそんなこと聞くの?』
「今の私の大事なお仕事なの。猫が安心して命を落とせる、誰も来ない静かな空間を保つこと。死体があるといずれ何らかの理由で人が来ちゃうから、誰かが片付けなくちゃいけないんだ、よっと!」
 そう言うと、彼女は懐から勢いよく銀色のケースを取り出し、一枚のカードを僕に見えるように置いた。猫の文字で書かれたそのカードには、『見送り課 立山鈴』と記されている。
『見送り課?』
「そ。私にしか出来ない、特別なお仕事なんだよ」
 えっへん、と胸を張る彼女。僕はそれを見て呆れてから。
『そっか。じゃあ、よくわかんないけど後はよろしく。僕はもう行かなきゃ』
 と、次の母のもとへと歩を進めた。
 背後の彼女は、僕の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。


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