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クナリさん

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ペットボトルのお茶戦国時代で飄々と

16/02/01 コンテスト(テーマ):第101回 時空モノガタリ文学賞 【 お茶 】 コメント:12件 クナリ 閲覧数:1643

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 この文章はフィクションです。
 かなりどこかで聞いたような商品名が出て来るかもしれませんが、実在の商品とは全然関係ありません。

 日本の缶入りお茶市場は、一強他弱状態が長く続いていた…
 言わずと知れた、「ワーイお茶」である。数々の不可能を打ち破り、お茶を携帯して飲めるという大革新を成し遂げた商品である!
 長らく、わざわざ正面切ってワーイお茶と戦おうなどという投資と闘志を持ったメーカーはいなかった。
 パイオニアとは、かくも偉大なのである。

 しかし、飲料の主流がペットボトルへ移行しつつあったある時、お茶市場に激震が走る。
 烏龍茶では無敵のシェアを誇るもお茶のイメージなんぞ欠片もなかったはずの日本飲料界の雄が、新製品「沙右衛門」を引っ提げて、本格参入して来たのである!
 関係各社が試飲する。流通・小売のバイヤー達が、サンプルの杯を日本中で傾けた。
 感想は。
 異口同音に「旨い」であった! お茶の老舗とタッグを組んだ、言わば新本格の味は、人々の想像を超えて旨かった。
 誰もが、メーカーの「本気」を感じた。これは、堂々メインを取りに来た商品だ。当時ワーイ以外に品揃えされていた十七茶などの健康訴求品とは一線を画す、ザ・お茶である。
 しかし。確かに沙右衛門は旨いのだが、「旨いだけのお茶」であることも否めない。飲んでもやせない。健康にもならない。味一本やりである。
 付加価値なしで、お茶が売れるのか。関係各社に疑問が渦巻く。
 しかしメーカーは独自の戦略と、何よりも品質に絶対の自信を持っていた(多分)。
 そして沙右衛門は。
 売れた。
 一時は工場が停まるほど売れた。
 爽やかで後を引き適度な深みのある味わいは、お弁当や軽食などの食シーンにピッタリだった。
 当然、ワーイも黙ってはいない。季節差や濃度の変化など、様々な風味の力作が生まれた。
 沙右衛門も、シリーズ展開が成される。
 各社の競争が、ともすれば地味な飲料のお茶のステージを、確かに引っ張り上げたのである!
 売り上げ規模ではまだまだ古豪が強いものの、これでお茶界は二強の時代に入ったかに思われた…

 しかしここで、新たなモンスターが現れる。
 ペットボトルの中に、「急須の如きにごり」を携えて!
 清涼飲料水のトップメーカーが傑作、「綾鷲」である!
 この商品は当初、沙右衛門よりも更に驚きを持って市場に迎えられた。このメーカーの主力商品といえば、コーリャにヴァンタにズブライトなど、炭酸飲料のイメージが強かったからである。何より、お茶製品としては既にロングヒットを続けていた壮健美茶がある。
 実際、言外に「炭酸屋さんがどうしました?」と揶揄する声すらあったという。
 だからこそ、メーカーは品質にこだわった。
 文句なく旨い――万人にそう言わしめる圧倒的な美味しさを追い求めて。
 それまでは見た目が悪いとしてペットボトル飲料の沈殿物は忌避されていたのだが、同社は価値ある「にごり」を導入することを断行。微粉のある高品質のお茶を工場で安定的に生産するという、空前の技術を生み出す。
 そして、綾鷲は売れた。専門外のはずの、後発の、炭酸屋さんが作った新商品を、「美味しいから」という素直な理由で、市場は絶賛と共に受け入れた。これは沈殿物における業界の慣習を、品質の追及が打ち破った瞬間でもある!
 後のCMでは、「邦人の味覚は世界一繊細だと思う」というコピーが流れた。何を国粋主義者のようなことを言うか恥ずかしい、と苦笑も生んだ。
 しかしこのCMは、精一杯遠回しな、メーカーからの感謝の言葉ではないだろうか。
「本当に美味しい商品を精一杯作りました。それを、美味しいと言ってくれてありがとう。あなた達の味覚は世界一です」と。
 二強を相手に社命を背負い相当の苦労をしたという開発担当者を思うと、そう聞こえて仕方がない。

 そして、緑茶業界は戦国時代に突入している。
 素晴らしい旨味を持つ綾鷲だが、味わいが強過ぎて食事には合わないという人もいる。
 人により時により、求められる味は様々である。
 最大限に引き出した複数の茶葉の旨味を、伝統技術と工場のハイブリッドにより贅沢に詰め込む綾鷲。
 石臼挽き抹茶を加え、とろみ抽出技法の新開発や季節ごとに味わいを変え、「伝統は革新の連続」として進化を続ける沙右衛門。
 長年に渡る研究の末に専用茶葉を生み出し、こだわりの原料と製法で日本茶のパイオニアであり続けているワーイお茶。
 その他、字数の都合で触れられぬ(おい)傑作達。

 筆者のごとき消費者はただ素知らぬ顔で、各社の叡智の結晶を、美味しく頂くのみである。
 愛好の一本を好きに飲み、時には別の一本を気紛れに喜ぶ。

 ペットボトルのお茶にも、一期一会というものですね(←がんばった)。


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このストーリーに関するコメント

16/02/01 クナリ

筆者は飲料メーカーの社員等ではありません。
回し者でもありません(多分)。
個人的には沙右衛門が好きですが、色々手を出します。
さらに個人的には、愛知の西尾の抹茶に注目しているのですが、宇治みたいにブランド展開するつもりはないそうで、細々と探して行こうと思います。

16/02/02 梨香

ペットボトルのお茶ができて、外出先でも甘くない飲み物が気楽に飲めるようになりましたね。
私も沙衛門が好きです!

16/02/02 南野モリコ

クナリさん、こちらも面白く読ませて頂きました。

ペットボトル茶に好みはありませんが、
ほうじ茶だけは、ワーイお茶しか飲みません。
これだけは、他メーカーとの違いが分かりした。
けっこうイイかも。ワーイお茶。

16/02/02 クナリ

梨香さん>
ペットボトルのお茶はありがたいですよね。
日本の食べ物や飲み物は、年々美味しくなっていきます。
沙右衛門は大抵の食べ物に会うので重宝しますッ。

ミナミノモリコさん>
こんな話でお恥ずかしく(^^;)。
まだまだ国内の全体シェアはワーイが強いようです。
やはり安定の老舗ですね!
ホットのペットボトルのお茶販売も最初に手掛けたのはワーイでした。
メーカー様の熱意には、頭が下がります。

16/02/05 クナリ

子狐丸さん>
そうなのです、これ以外にもダイドーの葉の茶やキリンビバレッジの生茶、はたまたはじめや茶織など(←コメント欄では遠慮なく実名ッ)、美味しいお茶製品はたくさん出ています。
「ペットボトルのお茶なんて…」という価値観を覆しつつあるメーカー様の努力には、まことに頭が下がります。特に老舗のお茶屋さんと提携したメーカー様はどこも最初、協力を取り付けるのに大変苦労されたとも聞いています(まあ、それはそうですよね…)。
色々試し飲みして、違いをみてみるのも良いと思いますよ。
それぞれの製法の違いや、「にごり」を安定的に供給することの凄さ、「とろみ」とは何なのかなど、もう少し細かく触れて行けなかったのが心残りです(^^;)。

16/02/06 石蕗亮

吹き出し笑いが止まりませんでした(笑)
読んでいてクナリさんは絶対メーカーか販売員かどちらかだと思いましたがコメントでバッサリ斬られてまた笑いました。
価格のテロリスト、イ○ンのトップ○リュのお茶は47円ですよ。
改めて商品説明を比較すると面白いですね!
また別ネタでもやってください。期待して待ってます(・ω・)ノ(笑)

16/02/09 クナリ

石蕗亮さん>
そう、メーカー様でも小売店様でもないのにえらそうに語っています(^^;)。
ペットボトルのお茶カテゴリは、食品業界の中でも外から分かりやすく面白い(メーカー様はそれどこではないでしょうけども…)と思ったので、取り上げてみましたッ。
好きな食品カテゴリやメーカー様はいくつかあるのですが、読み物の題材にできるものはどれだろう…「オハヨー乳業と森永乳業、焼きプリンの仁義なき戦い〜コレどっちか真似してませんか〜」とかではだめでしょうし(色々と)。
食パンなども良いのですが、パン系はちょっとあまり触れづらいメーカー様なんかもあって…ゲフゲフ(あんなに大手なのに、管理栄養士の皆様が誰も食べないという…)。
ロピア、プレシア、ドンレミーなどの手作りケーキとモンテールの工場製との対決とかもマニアックで面白いかもしれません。最近のスーパーは、生菓子の展開がアツいです。
「東洋水産(マルちゃん)VS日清食品〜チルドと乾麺大激突! 焼きそば、うどん、ラーメンも〜」…は2000字では無理ですねえ…。
…誰か書いて(^^;)。

16/02/23 光石七

ペットボトルのお茶の裏事情(?)考察、楽しく一気に読めました。
メーカーさんたちのチャレンジ精神とご苦労に頭が下がります。
普段手軽に買って何気なく飲んでいるペットボトルですが、たまにはそこにある一期一会に思いをはせてみたくなりました。

16/02/24 クナリ

光石七さん>
スーパーに行けばさまざまな商品が所狭しと並んでいる現代ですが、その中には強者を倒そうとする新参から、お客に真摯に向き合い続けている古参まで、多様なメーカーがひしめいています。
今は冬なのでおでん商材がお店に並んでいることと思いますが、たとえばこのおでんだねメーカーも、「おでんって魚臭くてイヤー」とのたまう若者たちに魅力を分かってもらうべく奮闘しています。
「現代の食」の一端を、楽しんでいただければ幸いです!

16/03/03 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

お茶は、どれも捨てがたいので気分によって飲むものを変えています。
「ワーイお茶」「沙右衛門」「綾鷲」は、やっぱり発売当時衝撃を受けました。
クナリさんの軽快な筆致で書かれると、ご飯のお伴としてだけでなく、
メーカーさんも、日本人の血をたぎらせる何かに動かされているのではないかと思えてきます(笑)。

16/03/04 クナリ

冬垣ひなたさん>
ありがとうございます。
われわれ消費者は気軽にあっちを選びこっちを選びしつつ、お気に入りの商品を探していけばいいだけなのですが、その裏には幾多の人間ドラマがあるのだなあ…とよく思います。
おそらくどのメーカーさんも、お茶市場で売り上げを作るというビジネス上の理由のほかに、お茶というもので日本一になりたいという欲求はあると思うんですよね。

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