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笛地静恵さん

SM小説家。妄想家。言葉遊び師。 三和出版『女神の愛』「女神帝國盛衰記」連載中 他

性別 男性
将来の夢 歌集、句集をだすこと。
座右の銘 永遠の未完成、これ完成(宮沢賢治)

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獏をつかまえる方法について

16/02/01 コンテスト(テーマ):第102回 時空モノガタリ文学賞 【 ギャンブル 】 コメント:2件 笛地静恵 閲覧数:1356

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 ああ、夢がさめる。
 獏が、逃げた。
 それが。いちばん思い出に、のこったことかなあ。
 うん。やっぱり、そう。
 夏休みに、獏(ばく)の茫々(ボーボー)が、逃げ出したこと。
 小屋の鍵には、夢封じの高等魔法が、三重にかかっているからねえ。鍵となる暗証番号は、あたしたち飼育係しか知らない。いくら獏でも、それらのすべてを、一晩でやぶるのは、無理だよねえ。
 いまさら、責任を追及しても仕方ないけどさ。信じられないようなミスが重なった。だから、これからも、注意してね。先輩のアドバイス。とくに五回生には、どうか、よろしくってことで。
 外に出た獏を止められるのは、あたしたち飼育係だけ。そして、飼育係の長はあたし。最高学年。六回生としての責任がある。
 魔法学校の誇りにかけて。捕獲しなければならない。手に獏をつかまえる捕縛網をつかんだ。あの大きな補虫網のようなやつね。
 携帯の赤信号が点滅。非常事態。飼育係みんなに召集をかけた。
「みんな。来て!」
 あたしたちは空に飛んだ。
 一年生から五年生まで。空ぐらい飛べる力がないと、獏の飼育係にはなれないからね。魔法処島の上空に来た。深夜。夜景がきれい。無数の星が下りたみたい。でも、獏の周囲だけが暗い。
 やばい。想像以上に大きくなっている。
 獏はおとなたちの悪夢をむさぼり食べたのだ。瞳が紅玉。興奮している。
 茫々は、数百歳。数千年生きる獏としては、まだまだ子ども。
 だから、あたしたちは子どもの夢だけを餌にあたえる。新鮮な大根やニンジンなどをきざんでまぜる。きちんと計量する。必要な量だけを与える。
 その限界をこえてしまった。いつもの白と黒の鼻の長いパンダのようなかっこうをたもっていられない。頭が、六つか七つ。鼻も、長いものと、短いものを合わせて、十本以上。怪獣になっている。
 みにくい悪夢を食べすぎてしまった。消化不良を起こしている。悪夢が溶けている。流れ出している。
 人間の悪夢の中の存在が、港町の通りを徘徊している。獏の体内で、半分だけ消化されたおぞましい状態。人間を襲っている。
 人間と悪夢が同化している。それだけじゃない。建物も変形している。高い山の上にある。船が虚空に持ち上げられている。
 人間が、悪夢の中で思いついてしまう、ありとあらゆる存在。山の中腹を歩いている。百鬼夜行状態。
 あたしさえも、獏の影響を受けている。首が長くのびている。頭のうしろに口が、もう一つひらきそう。妖怪に変身してしまう。まだこんなに距離があるのに。結界がきかない。獏の気が強すぎる。
 茫々は、大きくなりすぎている。四次元網には入らない。被害が広がってしまう。
「みんな、ごめんね」
 あたしは、まわりの飼育係の生徒たちをつかまえていった。あたまから、のみこんでいった。
「合体」
 大きくなっていく。
「あとで、あやまるからね」
 あたしの、おしりになってしまった子が、ぶうぶう文句を言ってくる。
 ぱちん。
「うるさい!」
 てのひらで、たたいた。おとなしくなった。痛いのは、あたしなのだ。議論している場合ではない。
 獏を捕まえるためには、夢の力が必要だ。
 あたしたちは、一か八かの賭けにでた。
 帆かけ船の夢を見た。
 獏に対抗するためには、魅惑的な夢が必要だ。
 前から、獏が逃げ出したときには、そうしようと決めていた作戦。賛否両論あったけど、最高責任者として賭けにでた。
 帆かけ船は、あたしの生まれ故郷の湖をすべっていた船。記憶にある。
 月をかくしていた空の雲。それが、白い帆になった。それから、ゆっくりと下りてくる。
 船長は、あたしになったみんな。
 それに獏が乗った。おいしい夢が大好きなのだ。
 純白の帆が、朝日にきらめいた。悪夢は陽光に消えた。
 ようやく飼育小屋に、獏がもどってきた。
 今朝も、もぐもぐとペラドンナを食べている。口だけが、顏とはべつに動いている。あれが、かわいい。
 獏は子どもたちの悪夢を食べる。魔法学校の空気は、すんでいる。いじめなどの悪い事件も、ほかとくらべて少ない。
 獏の茫々は、あたしたちの友だち。
 あたしの夢。
 みんなの夢。
 あたしは、ここで学べて、しあわせだった。本土の魔法中学校に進学する。
 みんな、ありがとう。あっちで待っているよ。
 最後に、なにか質問ある?なんでも、答えるよ。
「どうしてバクは、ほかけぶねに、のったんですか?」
 一年生。いい質問だ。
 今はまだ、ちょっとむずかしいけど。すぐにわかるよ。
 獏を帆かけ船で「帆獏」したの。
 ああ、夢が落ちる。


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このストーリーに関するコメント

16/02/07 ラズ

幻想的ですがユーモアと親しみやすさがあり、
読んでいる最中もオチの付け方も面白かったです。
特にオチは、もっと単純な物語であればギャグっぽく
なりそうな気がしますが、この作品世界であれば有り
といいますかむしろなんかステキだーってなりました。

16/02/07 笛地静恵

ラズさんへ
いわゆる「夢オチ」に
なんとかひねりを加えることができないかと
工夫したものです。
苦心したところを評価していただいて
ありがとうございます。
うれしいです。
(笛地静恵)

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