小野坂 翔子さん

どうも、小野坂 翔子です。 暗い小説を中心に書きます。 ハッピーエンドは滅多にありません。 それでも、私の駄文に付き合ってくださるなら、 どうぞ、気の済むまで。なんて。

性別 女性
将来の夢 小説家。
座右の銘 何かを残して消えたい。

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父親

16/01/26 コンテスト(テーマ): 第72回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 小野坂 翔子 閲覧数:921

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12月某日。父が死んだ。遺言は特にない。

元々無口な人だった。話しかけても返ってくる言葉は「あぁ」「そうだな」とかいう二言三言。
正直言って、この人がまともに口を聞いているところを見た事が無い。
母に聞いても、「そうねぇ」としか返って来ない。
世話焼きの好きな母は、そんな無口な夫を愛していたらしい。
僕はといえば。
あんまり好きじゃなかった。話しかけても全然まともに取り合ってくれないし。
中学で僕が好き放題やっても、なにも言ってこなかった。
反抗期で母に当たっても、あの人は見て見ぬふり。
他人に興味が無いのか、子供と向き合うのが怖いのか。

あの人との思い出も、ほとんど無い。
帰りも遅かったし、メールとかも、日をまたいで返信してくるし。
おまけに内容は超短文。
あの人の使っている書斎にだって入った記憶も無いし。
楽しい記憶は、大体母との記憶だ。

でも、もうどうでも良かった。
だって死んでしまったんだから。関係無い。
葬儀は酷く静かだ。
5年前の母の葬儀を思い出す。
死因は、覚えていない。
興味がなかったんだ。あんまり。
人が死ぬとか生きるとか。
どうせ死ぬんだから生きてる意味なんて無い、そういう理論の人だ、僕は。
そして、そんな僕を責める様に、二人死んだ。
僕が死ねばよかったのに。
何度そう思った事か。
でも、やっぱりどうでも良かった。

母の葬儀の時は少しくらい涙が出たものだが、この葬儀ではスズメの涙ほども出そうにない。
つまり、あんまり悲しくない。

喪主は叔父さん達。
「残念だったね」「あぁ可哀想に」。そればっかり。
母の時も同じ事を言われた。
憐れむようにこちらを見て、手を差し伸べ、甘い言葉を吐いた。
うんざりなんだ。
もう、どうでも良い。

家に帰っても、誰もいなかった。兄弟はない。
叔父さんが、「うちにおいで」と言ってくれた。
でも僕は断った。
死にやすそうだったから。
なんて事は叔父さんには言えないから「一人でも生きていけます」と言っておいた。
何度も何度も「おいでおいで」と言われたが、僕はその呪文のような言葉を、言われる度に退けた。
僕はここで、独りで死ぬ。
そう決めたんだから。

ふと、台所の方を見た。


「おかえり」


母が一瞬見えた。
母は、いつもここでこうやって料理をしながら、帰りの遅い父を待っていた。
例え日が変わろうとも、待ち続けていた。

今度は、テーブルの方を見た。


「・・・」


何の表情も浮かべず、新聞を読んでいる、あの人。
母の淹れたコーヒーだって、冷めてしまっている。
コーヒーを飲み始めるのも遅いんだ。

僕は、リビングを通る。


「ほら、制服脱いで吊るしておかないと、皺になっちゃうわよ」


母が優しく言っている。


「今日はあなたの好きなカレーライスよ」


にこにこ笑顔で、楽しそうだ。

後ろ髪を引かれる思いで、僕はあの人の、普段は立ち入り禁止の書斎に入った。


「・・・・・・」


また無言で何かを読んでいる。
相変わらず無表情で、なにも読みとれない。
その読んでいる本は楽しい内容なのか、はたまた暗い内容なのか。
あの人にそれを尋ねても、「読んでみれば分かる」の一点張りだった。
そのくせ僕には自分の本を読ませようとしない。
書斎を立ち入り禁止にしたのだって、きっとそのせいだ。

楽しくなかった。
だってここには、思い出が無いから。

ざっと部屋を見回した。
本しか無い、寂しい所だ。


「・・・覚えているよ」


あれ、なんだっけ。
この台詞は、この声は多分、あの人のなんだけど。


「・・・金賞だったらしいな。*****」


あぁ、思い出した。
僕が小学生の頃、絵画のコンクールか何かで、金賞を取ったって言って。
でも言った日は何にも言ってくれなかったけど。
母がもう一度その話をしたら、ちゃんと。
ちゃんと。
ちゃんと・・・?
ちゃんと、なんだっけ。
・・・あれ、思い出せないな。
記憶力は元々悪いけど、これは絶対忘れないと思ってたのに。確か。


「あの人はねぇ、なかなか表には出さないのよ」


ふと、本棚にある写真立てが目に入る。


「ちょっと、時間が掛かるだけなの」


近付くと、二枚、写真が入っているのが見えた。


「考えている間に、結構時間が経っちゃうのね」


一枚は、コンクールの絵だ。
確かこれは、野外の個展で飾られたとか。


「本当に、不器用な人なのよ」


二枚目は。


「不器用だけど、子供思いなの」


僕だ。
恐らく生まれて何ヶ月後かに撮られたモノだ。
母が映っていない。
映っているのは、笑顔の父だ。
僕と顔を並べて、優しく笑っている。


「いつもいつも、可愛いって言ってるのよ。本当よ?」


なんだ、こんな表情も出来たのか。
でも、どうでも良い事だ。
だってもう、居ないんだから。
こんな表情が見れるとしたら、死んだ後ぐらいか。
まったく、いつもいつも遅すぎるんだ。
帰って来るのも、メールの返信も遅ければ、笑顔を見せるのも遅いんだ。
本当、最低だな。

僕は、写真を破り捨てようと、写真立ての後ろを開けた。

すると、一枚の白い紙が出てきた。
四つ折りにされている。
僕は、それを開けた。

中には、あの人のものとは思えないほど、長ったらしい文章が綴られていた。





これを読んでる頃には、きっとお前も、俺と和解しているはずだ
いや、もしかしたら俺が死んでいるのかも
まぁどっちでも良い
長くなるかもしれないが、読んでくれれば幸いだ
正直言って、俺ももう若くない
四十も離れた息子に、こうやって遺書みたいのを残す潮時になったって事だ
がんが見つかったんだよ
結構進んでるらしくって
でも、お前を学校に行かせたいから
なんて恩着せがましく言われても困るか
まぁとにかく、そのまま構わず働いたんだ
医者には、家族には黙っとけって言っといた
ここまで何事もなく来れたのは、本当にありがたい事だ
神様なんてもんがいるなら、是非感謝したいね
でも、そろそろやばいらしい
分かるんだ、自分の体だから
この手紙を読んでいるお前は、俺と和解したお前か?
それとも、独り残されたお前か?
どっちでもいい
お前は、大層つまらなそうに人生生きてたな
死にたいとかぬかしてたらしいじゃないか
母さんにあまり気を遣わせるな
死んだ後でも、きっといろいろ困ってる
あの人はあの人で、神経質なところもあるんだ
でもな、きっと母さん、喜んでる時もある
お前が毎日、母さんの仏壇の前で手を合わせたりしてるのとか
母さんがいなくても俺の飯とか作ってくれてることとか
それだけじゃない
家事は全部やってるし、バイトだってこなしてる
入った部活(バスケ部だったか)やめて、家の事ばっかやって
心配してるかもしれないけど、なによりお前の成長を喜んでるよ
俺は、母さんの次くらいに喜んでるな
あの人ほど子供思いな人はいないさ
きっと、これからも生きて欲しいって思ってる

最後に
こんな父親だったけど、父親と思ってくれてただろうか
ろくに口もきかないし、家事もしないし
新聞読んで偉そうにしてるだけ
って感じだったか?
でもな、それで良いんだよ
父親ってそんな感じだろう?
なにも出来ない父親だったけど、一つだけ、言わせて欲しいんだ
もう聞き飽きただろうけど、しっかり最後まで生きて欲しい
お前の持ってるモノを、俺は全部知らない
でも、辛い事を乗り越えて行かないと

生きていくんだよ、命があるじゃないか
なぁ、そうだろう?




泣いた。
泣きじゃくってやった。

遅いんだよ。いつもいつも。
帰宅も返信も、なにもかも。
いつもいつも。
遅いんだよ。


「・・・金賞だったらしいな。おめでとう」


思いだした。
ようやく、思い出した。
その時は本当に嬉しくて、嬉しくて。

何でこんな事を忘れていたんだ。

あぁ、ようやく。

僕も、どうやら父に似て、遅いらしい。


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