1. トップページ
  2. 新撰組、宵越しの茶毒

クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

5

新撰組、宵越しの茶毒

16/01/23 コンテスト(テーマ):第101回 時空モノガタリ文学賞 【 お茶 】 コメント:9件 クナリ 閲覧数:1112

この作品を評価する

 ――茶漬けを作りに、入隊したのではない――

 増岡一心は、新撰組の中では新参に当たる。
 北辰一刀流を習い、その腕には一方ならぬ自信があった。
 が、猛者のひしめく新撰組にあっては別段目立つ腕でもない。それでも自惚れはやむものではなく、隊内で重用されない不満は日増しに募って行った。

 増岡は貧乏武家の次男だったので、家のことは一通りできる。悪いことに、その炊事の腕が剣よりも先に認められた。
 新撰組は出撃となれば、夜討ち朝駆けを問わない。台所には常に刻んだ漬物が用意されており、打ち出る前には飯に茶とこの漬物をかけ、さっと食って飛び出して行く。
 特に人手不足の初期の折、増岡は手際の良さから半ば炊事係のようになり、他の者が大小を帯びて任務に赴く時にもまだ飯を炊いていることが多かった。
 新撰組の中枢は、局長・近藤勇と副長・土方歳三をはじめとする試衛館出身者で固められており、なかなか直訴も難しい。
 その中でも話しかけやすい、好々爺然とした井上源三郎には、増岡も
「どうも、井上さんからとりなして頂けませんか。俺も、飯を炊きに大小を携えて京くんだりまで来たわけではないのです」
などと頼んでもみる。
 しかし井上はいかにも井上らしく、
「そういうのはわしが決めることでもないからね」
ところころいなしてしまうのが常だった。五番隊隊長であることが、腕前からも性格からも不思議がられる人である。

 増岡には、田代という友人が隊内にいた。
 この田代が、腕は鈍いが何かの拍子につい入隊できてしまったようなもので、剣を取らせれば腰が引け、道場でも常にやられ役だった。実践の場に出れば、真っ先に士道不覚悟で斬首されるようなたちである。しかし、今更隊を抜けようとすれば、それこそ土方に斬られる。
 その田代がいよいよ命の危機――攘夷志士や不逞浪人との戦闘ではなく、隊内の粛正において――を感じた時、案じた一計は、長州一派ら攘夷派と繋がることだった。
「増岡君、俺は長州へつこうと思う。実は既に話を向こうへ渡してあって、手土産についても段取りがしてある。君も今の境遇には不満があるだろう。腕を存分に振るうには、何も新撰組でなくてもいいのではないか」
 増岡は、簡単にそそのかされた。それだけ、組への不満があったということでもあるのだが。
 田代の手土産は二つ。幾人かの同調者を新撰組から引き抜くこと。もう一つは飯炊き同然の増岡の手により、飯に毒を盛ることである。
 翌日の晩、田代は毒のある樒(しきみ)の実を懐に携え、増岡を訪ねて炊事場へ向かった。しかし、飯は炊いてあるのに増岡の姿が見えない。
 そこへ、井上が現れた。
「田代君、夜中だが局長達が出撃する。そこの飯を茶漬けにして持って来てくれんか」
 田代は、(絶好の機会が転がって来た)と、何食わぬ顔で樒を指先ですり潰すと漬物に混ぜ、茶漬けに乗せて盆へ置いた。
「田代君、その茶漬けを食ってみなさい」
 井上の目は、かつて知らぬほど鋭い。田代は、企みが露見しているのを直感した。だが、
 ――井上さんなら俺でも斬れる。五番隊隊長の名など、飾りのようなものだ。
 そう考えて、剣に手をかけた。井上も我が剣の柄に触れる。
 だが、この場で最も速く動いたのは、物陰にいた沖田だった。音も無く抜き、風も起こさずに跳ぶ。
「覚悟」
 という沖田の声を聞くと同時に、田代の首は胴を離れていた。

 増岡は、土方の部屋に呼び出されていた。
 こんな夜中にといぶかしむ増岡に、土方が茶を出した。
「末期の水だ、増岡君」
 露見している。
 増岡は、心臓が止まる思いだった。土方が座る脇には、魔剣・和泉守兼定が置かれている。
 ふと茶を見ると、水面がわずかに揺れていた。部屋の外にも、何者かが詰めているのだ。
 ――しかし、水面を揺らすような足運びしかできない者なら、俺の方が上手かもしれん。少なくとも、副長と斬り合うよりは。
 増岡は覚悟を決めて、抜刀して障子を切り裂いた。そこには名も知らぬ若い隊士がいた。見るからに未熟だ。
 袈裟に斬ってくれると、増岡が振り被る。
 しかしそのすぐ横に、剣気を完全に殺したまま抜いている二番隊隊長、永倉新八がいた。増岡の目には、その姿が映ってもいない。
 火の如き剣が走って増岡の胴を断ち、水が流れ落ちる如くその上半身が廊下に着く。
 土方はうんとうなずいた。
「単純だが、存外上手く引っかかる。田代にそそのかされた可能性があるという全員、この手を試そう」
 企みの芽はそれから、一夜にして潰れた。
 田代らの陰謀を見抜いた新撰組の監察・山崎烝は首尾を見届けて、今夜はもう少し起きていなければならぬと、熱い茶を淹れに行く。
 すると、血塗れの炊事場を沖田と井上が懸命に掃除していた。
 山崎は、苦笑しながら手伝った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/01/23 クナリ

作中には実在の人物が登場しますが、ストーリーはフィクションです。
実在の方々とは、一切関係ありません。

16/01/23 W・アーム・スープレックス

ストーリーはフィクションでも、土方を長とする新撰組メンバーの個性と腹の内が見事に描けていたと思います。近藤さんが不参加なのがまたよかったです。あの人はちょっと無骨すぎて、拳を口に押し込むだけの一芸では、この内容にはいささか不向きのようです。

16/01/24 クナリ

W・アーム・スープレックスさん>
個人的に新撰組好きなので、ついつい、ときどき題材にさせて頂いております(^^;)。
みんな大好き近藤さん(後期の永倉さんと原田さんはそうでもないかッ…)は、ばっちり高イビキで全てはトシにお任せです!(コラ)
当初はもっとシンプルな粛清ものにしようと思っていたのですが、気がつけば結構人数(だけは)が出ておりました…。
やはり、試衛館メンバーは元々キャラが立ってますね。このようなへっぽこな書き手でも何となく書けてしまいますッ。
でも源さん主人公にしづらいよ源さん。
でも好き(何)。

16/01/30 ヤマザキ

拝読しました。僕も新選組が大好きなので、新選組の話というだけで点数が甘くなってしまいますが……それを抜きにしても面白かったです。
ただ沖田でなく新選組のレベルの高さを見せつける意味で、源さんに活躍して欲しかったなあ、と。
まあこっちの方がリアルですけれども。

16/02/01 クナリ

ヤマザキさん>
そうッ、井上さん好きなんですよ、できれば井上さん無双の戦いの記録とか見つかって欲しいくらいで…!
でもこの方、とにかく戦場での活躍の痕跡がいまいち見つからなくて(近藤さんと土方さんが過保護(?)だったのかなあ…って失礼な(^^;))、無念なのです。
逆に、どんな条件が整えば井上さん無双にリアリティが出るだろう…などと考えてしまう始末で。
敵が全員丸腰…駄目だッ。
敵が全員子供…もっと駄目だッ(お前本当に井上さん好きなんか)。
結局戦わないのが一番リアルなのかなあと思いつつ、でも思いっきり弱ければさすがに五番隊隊長着任は内部からクレームが出るだろうから、それなりには強かったはず…ならちょっと活躍して頂いても…でもなんか「井上さんが強い描写」した時点でわざとらしいかなあ(今更)…と悶々しています(^^;)。
コメント、ありがとうございました!

16/02/17 宮下 倖

拝読いたしました。
新撰組……さほど詳しくはないのでおこがましいのですが、好きです。
エピソードはフィクションとのことですが「ありそう!」と、楽しく読ませていただきました。
「単純だが、存外上手く引っかかる。田代にそそのかされた可能性があるという全員、この手を試そう」
この台詞、いかにも土方さんが言いそうでちょっと笑ってしまいました。

16/02/19 クナリ

宮下 倖さん>
自分もでんでん詳しくは無いのですが(年号とか言われると特にサッパリ)、ていうか井上さんはそういえば五番隊隊長ではなかったような気がします…(お前…)。
自分がそうであったように、新撰組を書く時は新撰組についての予備知識がない方でも楽しんでいただけるように気をつけて書いているつもりだったりします。
時代考証含め、コレおかしいんでないの?と思われる箇所もきっとあるのですが、やっぱりけれん味とかかっこよさ大事でしょう!というわけで(^^;)。
自分の中では、勝手にドラマのような感じで主要メンバーが喋ったり戦ったりしてるので、台詞に生っぽさが出ていれば嬉しいです。
コメント、ありがとうございました!

16/02/23 光石七

久々のクナリさんの新撰組シリーズ!
それぞれのキャラクターが生き生きとしていて、実際に起こったことではないかと錯覚してしまいました。
個人的には、ラストに出てきた山崎さんが好きですね。
面白かったです!

16/02/24 クナリ

光石七さん>
時代劇というよりは、群像劇としてとらえている部分が大きいんですよね、時代考証なんぞ弱い弱い(^^;)。
山崎さんは、隠れファンも隠れていないファンもたくさんいる、陰のあるナイスガイなのです!
ありがとうございます!

ログイン