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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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曽祖母の習慣

16/01/20 コンテスト(テーマ):第101回 時空モノガタリ文学賞 【 お茶 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1248

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敵の攻撃は熾烈をきわめた。わが地球軍戦士たちは劣勢に陥り次々に倒されていき、とうとう味方は50人を残すのみになってしまった。地球から数十光年はなれた惑星の上で、もはや脱出の手段もなくなり、地球軍はあえなく投降した。
敵の将軍ズーダは、自分たちと顔も姿も酷似した人間たちを前にして、勝者の余裕をうかべた。
「きみたちの勇敢さには心から拍手を贈ろう」
ここは、地球人たちの最後の砦の中だった。激しい攻撃にさらされて飴のように溶け落ちた天井部分から、嘘のようにきれいな星がのぞいているのをみた河野美雪は、自分たちをまちうけている運命をおもって、ため息をついた。生殖機能の衰えた彼らが子孫を残すために地球人との混交を狙っているのはあきらかで、約半数いる女性隊員の肉体は願ってもない子づくりの道具と化すのはまちがいなかった。
ズーダはまた、我々地球人が口にするものに多大な関心を示した。調理ということをしらないかれらの食べものはみな、生の動植物にかぎられた。地球人が料理して食べる習慣があるのを知って、自分たちも同様に一種のステータスとして温めた料理や飲み物を口にしたがっていることを、美雪も情報としてしっていた。
案の定ズータは、美雪の前までくると、彼女の顎をなでながらいった。
「私たちのために、おいしい料理を作ってくれないか」
美雪は、仲間たちに目をはしらせた。ここはへたにさからうな。誰もの顔がそう語っていた。
美雪は、女性隊員たちを集めると、敵に監視されながら地下の食糧貯蔵室におりていった。
宇宙船でこの惑星におりたってから、地球軍がまず最初にしたのは、食料となる地上の生物の捕獲と採集だった。宇宙食には限界があるし、第一まずかった。水は地上に豊富にわきだしている。調理の対象となる動植物もいくらでもみつかった。だからこそ我々地球軍は、なんとしてもこの星を獲得したかったのだ。だが、ここには敵がいた。というより、藪から棒に侵略を開始した我々のほうが、かれらにとっては極悪非道の敵だった。ズータ将軍の指揮のもと、ゲリラ戦で対抗したかれらは、野生の身体能力と奇襲攻撃によって、科学力では雲泥の差のある地球軍を攻略してしまったのだった。
「食べ物に毒を盛りましょう」
フィチンが耳もとでつぶやくのを、美雪はかぶりをふって、
「貯蔵室には毒薬なんかおいてない」
一時間後、美雪たちが作った料理が、テーブル上にならべられた。ステーキあり、サラダあり、スープあり、様々な果実のデザートも用意された。どうせ敵に食べさせるのだから、もっと粗末なものをとフィチンたちが入れ知恵したが、日本人の血をひく美雪には、ズーダにこれが自分たちの食文化だとみせつけたかった。
ズータは、料理を前にしてすぐには食べずに、美雪に毒味をさせた。フィチンのいうように、毒を盛っていたりしたら大変なことになっていただろう。
美雪は一口ずつすべての料理を味わってから最後に、コップの液体を飲んだ。
「それは」
「これは、お茶という飲み物です。日本人である私の祖先たちは、なにかにつけこれを飲んでは、体調をととのえ、心を清めたのです」
美雪は地球軍の宇宙船内で、茶を栽培していて、乗組員たちにも飲ませていた。不足しがちなビタミンCの補充にもなり、誰もがこれを好んで飲んだ。
それを聞いたズータは、これもまた自分たちの生活習慣として、これから取り入れることを考えた。
美雪は、お茶だけはさいごの一滴までのみおえた。きちんと背筋をのばし、両手でコップをもってのむ彼女のしぐさは、平気で泥水でもすするズータたちの目には、これ以上ないぐらい気品よくうつった。
「さあ、みんな、食べよう」
ズータとその配下のものたちはテーブルをとりかこむと、いっせいに料理に手をつけだした。肉をわしづかみにして頬張るみんなをながめながら、嘆かわしげにズータはひとりごちた。
「我々は地球軍の文化を、もっと見習う必要がありそうだ」
すべての料理を食べおえた後、ズータは配下のものたち全員に美雪からきいていたお茶のコップを手にするよう命じた。
「勝利を祝って」
ズータがさっきの美雪のように背筋をのばして飲みだすと、ほかの連中もそれに倣った。とたんにテーブルをかこむ将軍をはじめとする全員が、喉元をおさえて苦しみだし、みるまに口から泡をふいて床に倒れていった。
「お茶はかれらにとっては、致命的な飲み物のようね」
美雪は希望に顔を輝かせて、やはり同じ表情の仲間たちをみまわした。
彼女はそして、自分の家族からつねづねきいていた曽祖母の習慣をふとおもいだした。なんでも日本住宅にかかせない畳を掃除するさい、濡れた茶葉をまいて 掃き清めれば、よけいな雑菌を取り除くことができるとか。いままたお茶が、そのような役割をはたしてくれたようだ。


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このストーリーに関するコメント

16/01/23 クナリ

お茶の持つ有害性についてのお話を書きたい…と思っていたのですが、こうした形でお話の中で使われる発想はありませんでした…カテキンがよくなかったのでしょうか(^^;)。
なかなかコワいお話ですが、お茶の持つ多様な性質が盛り込まれていますね。
灯油をこぼした後も、茶殻をまくと匂いが取れるそうですし…。

16/01/23 W・アーム・スープレックス

おっしゃるとおり、頭にあったのはカテキンです。それにしても、どんなものでも効果的に再利用するすべを知っていてる昔の日本人って、本当に素敵ですね。ただ侵略されるわ、ばい菌扱いされるわで、さんざんの惑星の住人たちではあります。

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