1. トップページ
  2. 理想と現実

睦月 希結さん

駄文ですが、お付き合いの程を。 素敵な創作を拝読しつつ至らなさを痛感しています。精進・精進。 色々ご指摘真摯に受け止めさせて戴きます。 勿論お褒めのお言葉・ポイント等は24時間受け付けております・笑。

性別 女性
将来の夢 元気に、程々長生き。ポックリ祈願。
座右の銘 残ったもん勝ち

投稿済みの作品

0

理想と現実

16/01/18 コンテスト(テーマ):第101回 時空モノガタリ文学賞 【 お茶 】 コメント:0件 睦月 希結 閲覧数:1141

この作品を評価する

 人は誰しも理想とする結婚観を持ってると思う。僕にもある。
『美味しいお茶を淹れられる』この条件を満たせば他の気配りも出来ると言うのが自論だ。
「お疲れ様です」外から帰るとお茶が出される。美味い。疲れが吹っ飛ぶこの瞬間が好きだ。彼女の笑顔も付いてくる。

 いつも美味しいお茶を淹れてくれる彼女が好きだ。そして秘かに彼女を想う奴らが、一人二人じゃないことも。
お茶を飲みながら考える。いかに奴らを出し抜き、彼女との接点を掴むか?けど名案が浮かばない。
 ある日の昼食後、とある店先のポスターに気づく『お茶を美味しく楽しむ講座』
会社からそう遠くない場所と時間。婚活よろしく相手探しも手広く探した方が良いか?
所詮高嶺の花とアタックする勇気もない。空を見上げ、ため息をつくと店の中へと進んだ。初講座の日。あわよくば若い女性の参加を目論んでたけど、当てが外れた。そこへ「遅れて申し訳ありません」と入って来た人に目を奪われた。

 余りの不甲斐なさを嘆いた恋の神の啓示か?彼女もこの講座に参加するなんて!
「玉露を容れる際のお湯の温度ですが…」先生の手元に受講生の視線が集中する。が、僕の意識は別の所にあった。
真剣な手つきで お茶を注ぐ姿に見惚れていると、お茶を溢れさせて、周りの笑いを誘ってしまった。勿論彼女にも。

 解散後、僕が居るとは思わなかったと驚かれ「じゃぁ」と言うので「お茶でも飲みませんか?」と引き止めた。
「今どきそんな誘い方をするなんて。お茶なら講座で頂いてたのに」と、また笑われてしまった。
講座参加の動機を聞かれ言葉に詰まり、質問を質問で返したら「皆さんに美味しいお茶を淹れられたらと」だなんて最高だ。それからも会社で話す機会は余りないが、講座へ行けば会える。そして講座が終わると、またお茶に誘った。
初めは理想に近いと意識した彼女が、ますます好きになった。彼女も多少の好意をと自惚れていた。
ところが他の女子社員たちが、彼女が近くお見合いをするらしいと話すのを聞いた。そんな嘘だろ?でも話に割って入る勇気などなかった。
講座も次で最後となってしまう。再びこの時を逃がせない。あの噂の真意も確かめないと!僕はついに告白を決意した。最後はいつもと違い食事に誘う。予約しておいた店に案内する。しかし問いかけるタイミングが難しい。
「どうされたんですか?」と聞かれ「おみ…御御御付けで好きな具は何ですか?」とか「おみあ…お土産のお菓子が美味しかったね」ってコントか?
そして時間だけが過ぎて、食後のコーヒーもなりそうだ。もうチャンスも時間も無い。
「あのそろそろ。今日は楽しかったです」と微笑む彼女に 勢いよく立ち上がり「僕は歳を取ったら縁側で猫を膝に乗せ、美味しいお茶を飲むのが夢だ。そのお茶は君に淹れてもらいたい」とプロポーズめいた言葉を口にしていた。
まずは『見合いなんて止めてくれ、好きです。付き合って下さい』と言うんじゃないのか?けど後の祭りだ。自己嫌悪に陥りながら、そっと彼女の様子をうかがった。彼女はハッと目を見開き、ふっと息を漏らして口を開いた。



「猫も可愛いですけど、私は犬の方が好きですね」

 湯呑にお茶を回しいれ、最後の一滴に旨味が凝縮される。
いつも後で知らされるが、僕の仕事ぶりに好意を寄せていた妻が、毎回僕のお茶に最後の一滴を入れていたようだ。
講座も僕をたまたま外で見かけたから同じ様に。噂も煮え切らない僕に業を煮やし、友達と策を練ったようだ。
女性ってのは同じに見えて色んな一面を持ってる。製法で変化する茶葉みたいに。

「私は犬の方が好きですね」そう言った後 妻は「でも貴方が好きなものは、私も好きになるように努力したいです」と言った。
そうだ。自分の理想ばかり押し付けていたら駄目だ。相手の事も思いやらないと、当たり前の気づかされた。
お互いの理想を受け止めあい、すり合わせていく。やがて現実が、理想に変わっていくものだと。

 あれから数十年。僕は当然年老いていき、縁側で庭を眺め椅子に腰かける。
「おじいちゃん飲んでみて。今回のも自信作だよ」孫娘がお盆に乗せたお菓子と共にお茶を差し出しす。
「ああ、ありがとう」そっと口に含み「うん、美味しいよ」と頷きながら微笑んだ。
「あら?私が淹れたお茶よりも、そっちの方が宜しかったかしら?」妻は口では不満そうだが、目元が笑っている。
「いや勿論お前のが一番美味しいよ」慌てて目の前で手を振れば「あ〜あ また惚気ちゃって。ご馳走様〜」孫娘がチャチャを入れる 
クッションの上で茶色の柴犬が、ふぁと欠伸をしてクルリと身体の向きを変え、猫のように丸まり眠っている。
孫娘が淹れてくれたお茶を飲みながら心の中で呟く。祖母譲りの美味しいお茶を淹れられる日も近いだろう。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品