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サラダS太郎さん

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向かいの人

16/01/18 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:0件 サラダS太郎 閲覧数:678

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今日のバイトはとても長く感じた。今は家路についている。明日の予定は特に無かったから、今晩は目覚ましもかけずに寝てしまおうと決めた。バイト先から15分電車に乗った、自宅の最寄り駅に乗り入れる支線の始発駅。この駅には、大きな売店がある。バイト帰り、そこでは疲れた体と喉を潤わすためにジュースを買うことが多い。今日も売店に寄ることにしたが、今日は次の日が休みであることと、そしてなんともいえないしんどさがあって、いつもは買わないチューハイを選んでしまった。ただ、家に帰ったら勢いよく飲もうと想像すると、なんだかとても楽しみにはなった。

チューハイの入ったビニール袋を提げて、最寄り駅への電車が来るホームに向かう。もうすでに結構な人が並んでいて、座れるかが微妙なくらいだ。このくらい人がいる時、周りを見渡す癖がある。友人や、何度か見たことのある人、あるいはきれいな人。そんな人がいないか探すのである。

電車が到着した。前の人たちに続いてずかずかと乗り込み、すこし早足気味に車両の真ん中あたりまでいくと、シートにまだ一人分ほど空いているスペースがあった。実際座ると少し狭かったが、一駅ごとの間が長いこの線で座れたのは大きい。とりあえず何気なしに、向かいに座った人達をサーッと一瞥した。と次の瞬間には自分はそのうちの一人の女性にもう一度目を向けていた。心臓が飛び出そうになった。すぐに他人だと分かり安堵したが、彼女は、先日まで自分が付き合っていた子にそっくりだった。

ただのそっくりな人であるから、こちらが見つめて、それに気づかれてもし目が合っても怪訝に思われるだけだ。いずれにせよ突然現れた彼女は見事に可愛く、小さな両手に持った携帯電話の画面をみつめるのに寄せた眉間にすら目が行ってしまう。服装も、派手すぎず、しかしじっくり好みのものを選んだような恰好でよく似合っている。本当に、可愛い。我に返らねばと思った。

直後、彼女は手に持った携帯電話の画面にクスクスと笑いかけた。どうやらだれかとやり取りをしているようだ。5秒後、またしても笑みを浮かべた。さっきよりも少し大きな笑みだった。それからもしばらくの間、彼女は携帯電話の画面から目を離すことなく、嬉しそうな、楽しそうな表情のままだった。そして終始、自分はやはりその顔を見つめたままだった。

彼女は、自分の最寄り駅の1つ手前で降りて行った。向かいのシートに小さなスペースがぽっかりと空いた。そしてドアが閉まり、電車はまた走り出す。次は自分が降りる番だ。

電車が止まり、ドアが開いた。最寄り駅のホームに降りるとようやく、長かった一日も終わろうとしていると実感できた。改札に向かって歩きながら、ふと自分の携帯電話を開いた。友人から連絡が来ていた。それを見て、明日はその友人と少しだけ会う用事があったことを思いだした。自分はその連絡に、了解、と一言だけの返事を打ち、改札を通った。

駅舎を出るとすぐに噴水があり、ベンチも備わっている。なんとなく家まで歩くのが億劫に感じ、そこに腰かけた。当然、こんな遅くに他に座っている人はいない。自分は、さっき買ったチューハイを、そこで飲むことにした。自分がかつて、あの子の携帯電話に送っていた言葉を、あの子はどんな風に見ていたのだろうか。いまさらになって気になった。

さっき電車でみかけた彼女は、明後日の電車にも乗っているだろうか。


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