1. トップページ
  2. ボーイ✩フレンド

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

5

ボーイ✩フレンド

16/01/15 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:4件 そらの珊瑚 閲覧数:1001

この作品を評価する

 失恋したのは、三十五年も生きてきて、もちろん初めてじゃないけれど、年をとるごとに、なんだか重いダメージを受ける気がする、心に。二十代だったら恋を忘れるには新しい恋をするのが一番の近道! みたいな陳腐な歌詞にあるような言葉を胸に、立ち直れたかもしれない。若かった……実に若かった。
「女って不可解よね。失恋したてだっていうのに、よく食べるわねえ」
 元彼のアオトは口は悪いが優しい。今まで何度こうして私の失恋話につきあってくれただろうか。それに手早く美味しいものを作る特技もある。
「ニンニク、いつもより多く入れときました!」
「飲んだあとは、やっぱりアオトのガーリックチャーハンよね!」
 私はアオトが作ったまだ湯気の立っているチャーハンをスプーンですくい食べる。ガーリックと醤油の匂いが口いっぱいに広がる。明日は土曜日。口の中がどれだけ臭くなっても、かまうもんか。会社は休み。そのつもりでちゃっかりとお泊りセットも持ってきている。さっきまで居酒屋でお酒を飲んで、すっかり酔っ払っていたのに、アオトの家に着いたとたんに醒めてしまった。すると猛然に腹が減る、減る。
「……お、おいしい。アオトがいてくれてほんとに、よかったよォォ」
「ちょ、ちょっとあんた、また泣く気? 食べるか泣くか、どっちかにしなさい。汚なっ! 鼻水が皿に落ちるじゃないの」
 いくぶん呆れ顔のアオトは、箱からティッシュを二、三枚引き抜いて私の鼻をかんでくれる。
「世話の焼ける子ね」
 アオトと私が恋人だった時代はほんの半年。大学の同級生同士で、私が告白してつきあったのだが、あっけなくふられた。「自分はゲイなんだ」と。うすうす自分でもそうではないかと思っていたらしく、私とつきあってみて確信したそうだ。女とキスするのが苦痛だったと。どうりでキス以上には発展しなかったわけだ。私はひどく傷ついた。だけど私が泣く前に、アオトは泣き出して、ただひたすら謝る姿に「もう、いいから」と言って、友人に戻ったのだった。
「アオトにお願いがあるんだけど」「なあに?」
 私はバックからスマートフォンを取り出し、電話帳から先日一方的に別れを告げられた男の頁を開き、削除の操作をする。最後に『削除してよろしいですか』の表示が出てから、スマートフォンをアオトに渡した。
「はい、を選んで」
「えーなんであたしが?」
「何度も自分でやろうとしたわ。だけどできなかった。私が彼について知ってることといえば、携帯の番号と名前だけなの。削除したら、彼と私をつなぐものはゼロ」
「なんなの、それ。二年もつきあってて家も知らないの?」
「うん、おばさんちに居候してるとかで、行ったことなくて」
「ふうん、ちょっとおかしくない?」
「クリスマスもお正月も一緒に過ごしたことないし。IT関連の事業を自分でやってるって言ってたけど、インターネットのこと、あんまり詳しくなさそうだったし」
「そいつ、たぶん嘘つきね。独身? そう、あんたには独身って言ってたのね。でも妻持ちね、おそらく」
「やっぱり……私もうすうすそうじゃないかと思ってたけど」
「あのね、信じたい気持ちはわかるけど、現実は受け入れなきゃ。でも人って自分の見たい現実しか見ないんだよね、そういう生き物なんだ。自分もゲイであることを受け入れるまで時間、かかったもの」
「うん」
「それなら、なおのこと、自分でしなきゃだめよ」
 そういってアオトは私の背中に回って私を後ろから抱くようにスマートフォンを差し出した。ちゅうちょする私の右手を自分の手で包む。……削除。
「ありがとう、アオト。ああ、すっきりした」
「ふふ、なんか強がりに聞こえなくもないけど」
「これで心置きなく祈れるわ」
「何を?」
「もちろん、あいつの不幸を」
「あはは」
「別れたあと、相手の幸せを祈るなんて、今の私には出来そうにない」
「正直だね、でも嫌いじゃないよ」
 友達に戻ったつもりだった。アオトがゲイだという現実を受け入れたつもりだった。けれど……ううん、そういう事にしておこう。もしまだ好きだと認めてしまえば、また私は失恋してしまう。アオトの不幸を願うのは、嫌だ。
「ねえ、アオト、今、幸せ?」
「うーん、どうかな。今、恋人はいないけど」
「ああ、よかった」
「なんだよ、それ」
「ずっと、ずっと、アオトがひとりでいますように」
「呪いか、それ」
 呪いじゃなくて、願いだよ。叶っても叶わなくてもどっちにしろ悲しい、ひとりよがりの願いだよ。
 セミダブルベッドに二人並んで寝る。このまま二人共死んで発見されたら、私たち恋人同士って思われるのだろうか。それはそれで幸せかもしれない。けれどたぶん、朝はやってくる。
 世界のどこかで今夜泣きながら眠る人にも、どうか新しい朝が来ますように。これもささやかな私の願い。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/01/15 石蕗亮

拝読しました。
心置きなく元彼の不幸を祈るに声出して笑っちゃいました。
失恋したら男は振っても振られたら尚強く、相手を自分の都合良く思うから(私の偏見大ですが)、女性らしい失恋の話で、おかしな感想かもしれませんが気持ち良く読めました。

16/01/19 滝沢朱音

さわやかに、すらりと駆け抜けるお話だけど、悲しいですね。
このまま二人共死んで発見されたら…って想像するところ、あたたかいけど静かな悲しみでいっぱいのシーンだなと思います。
そばにいても、どんなに寄り添っていても、人はどこまでも寂しい。
それでもなお、そばに居てほしい。読んでいてそんなことを感じました。

16/01/25 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

こういうボーイフレンドなら、恋人よりもずっといいと思う。
「もちろん、あいつの不幸を」これは本音だけど、それをやったら自分が惨めになっちゃうよね。
さらりとした失恋話、面白く読ませていただきました。

16/02/04 そらの珊瑚

石蕗亮さん、ありがとうございます。
笑っていただいてなによりです♪
いろんな事情で違うとは思いますが、まあ、本音らしきものということで。(笑)

滝沢朱音さん、ありがとうございます。
書いていたら、ちょっとだけシリアスなかんじになりました。
ひとりでいる孤独と、ふたりでいるからこその孤独、どちらがよりさみしいのでしょうね。

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
心の底から念じていたら(それもこわいけど)たぶん口には出来ないでしょう。
軽い本音、みたいなかんじでしょうか。


ログイン