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八子 棗さん

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傾いて落ちる

16/01/15 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:0件 八子 棗 閲覧数:721

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「お前が嘘ついたんだから、指を切っても、殴ってもいいよね?」
 彼は、輝かんばかりの笑みを浮かべた。


 浮気をしたわけではなかった。彼を嫌いになったわけでもなかった。
 ただ、あまりにも彼のことが好きすぎて、仕事が手につかなくなっただけだ。

 彼は同じ職場の後輩だ。彼が私の職場に入ってきてくれて、恋をしたことのなかった私の人生は目まぐるしく変わった。
 朝起きて彼を想い、職場で彼を想い、帰宅して寝るまで彼を想い……幸せだった。
 抑えきれない想いを、彼に告白した。
「いつでも俺と一緒にいてくれるなら、いいよ」
 彼は、私の重い愛を、受け入れてくれた。

 私はそれでよかった。でも、家族も、会社も、理解してくれなかった。
 仕事ができなくなって、朝から晩まで夢うつつのままで、端から見ても生活に支障が出ていたのだという。
「病院に行きなさい」
 実家暮らしだったのが仇となった。母に半ば無理やりに連れて行かれた心療内科で、私は休職を求められた。
「だめ、彼に会えなくなったら私……!」
 嫌がる私を押さえつけ、母は会社に電話を入れ……休職の手続きを取ってしまった。

 彼といつでも一緒にいるという約束を、破ってしまった。


「嘘は嘘だよ。約束を破ったんだから、罰を受けるべきだよね」
 彼はおかしい。と母も、病院の先生も言う。同じくらい、私もおかしいと。
 でも、私にはあの重さじゃないと耐えられない。天秤は、同じ重さじゃないと釣り合わない。

「だから、私は……」
 指もあげる。頬も差し出す。好きにしてくれればいい。
 それが、私の幸せだから。

 ……それなのに。
「でも、いいよ。もう、冷めちゃった。約束を破った女はいらない」
 私なんかの重さじゃ、初めから彼には釣り合わなかったのだ。そう知ったのは、彼を失った後だった。


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