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せいしんさん

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夜明け

16/01/13 コンテスト(テーマ): 第72回 【 自由投稿スペース 】  コメント:1件 せいしん 閲覧数:1129

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 その日のロジェは例年にない大雪となった。
 きっかけはほんの些細なことだった。十一時の予算会議の開廷と同時に、陳情書を持った男が議席に駆け込んできたのだ。衛兵が後から飛び込んできて、職務に忠実に彼を外へと追い出した。その様を見ていた国民議員らは激高した。門前で喚く声を聞いた工夫たちまで堂内に雪崩れこみ、政府への不満を声高に叫んだ。大変な騒ぎとなった会議は、ついには五百人を超える規模の暴動となった。髭の公爵率いる軍隊が出動する事態となり、場は益々混乱した。男たちは頭から血を流しながら互いを罵りあった。しかし、昼を過ぎ、雪がいよいよ強くなってくると、それも自然とおさまった。数十人規模の暴動が、日暮れまでいくつかの要所で起こったが、今では当たり前の光景で、誰も関心を払わなかった。
 とにかく永らえた。
 大量の食事が盛りつけられた皿を見て、国王は長いため息をついた。情けないことだ。こんな時でも腹が減るとは。大皿に乗った子牛の腹を切り分けると、たっぷりの油と、濃厚なクローブの蕩ける香りが広間に満ちた。王は閉口した。20分でこれを全部平らげろというのか。肉を切り分ける横で、秘書が淡々と必要歳出の目録を読み上げ続ける。王は分厚い肉の塊を口に放り込んだ。食事の後は法務大臣と西側領地移譲の書簡の返事についての会議、それが終わればリュ・バン地区の破壊された擁壁の補修の対応について、髭の公爵との話し合いだ。問題は山積みだった。にも拘らず、胃袋が満腹になると、少しだけ気分が楽になるのが、なんとも妙な感じだった。
 全ての音が吸い込まれたように静かな夜だった。王の目は冴えていた。柔らかい鵞鳥の羽毛の中に、疲れ切った体を横たえたのは、もう二時間も前のことだ。
 彼は不眠症患者だった。玉座についた頃から、一度たりともまともに眠れたためしがない。眠ったところで、どうせあと二時間も経てば、続々届く領主らの書簡の返事を考えねばならないのだ。睡眠という習慣を持たない彼にとって、夜とは、布団という暖かな棺でただ横たわるだけの時間だった。こんな下らないことで時間を費やすくらいなら、妻や息子の様子を見にプリュノーの離宮に馬を走らせたいくらいだ。ああ、あの子は今何が起きているかさえまだ分からないのだ!
 この三か月というもの、自らが馬車馬になって働いてきた。代々受け継がれてきた膨大な国債の返済のために、ありとあらゆる倹約を進めた。頭の鈍い枢機卿らは、ここに至って自分たちの利権ばかり口にし、領主らは城壁の手薄な地区を探ろうとし、商人たちは高い利率で交易を持ちかけてくる。それがこの国の国民なのだ。そんな裏切者らを煽て、宥めながら、ここまで永らえてきたのだ。外では今も静かな綿雪が降り続けているのだろう。瞼を閉じると闇はますます冴えた。今は亡き先代の伯父に聞かされた格言が闇の中に浮かんだ。
 革命は夜に起きる。
 真夜中、疲れきった農民たちが、暗く、重たい明日の帳が開かぬうちから、暖かい布団の中でしっかと目を覚まし、凍てつく空気のなか、手探りで戸口に横たわる鍬を掴むことを決意した瞬間に革命が起きるのだと。言葉と共に伯父の右だけつり上がった口角が瞼の裏で浮かび上がった。恐ろしい伯父だった。一晩中、明晰な意識を保ったまま、横たえた体の真中で両腕を深く組み合わせ、王はただ時が流れ去ることだけを祈った。
 その夜、彼は神を見た。
 瞼は開いていた。部屋の中は既に明るかった。どうしたことか体が軽い。眠れなくなって以来、開け放したままの大きなガラス窓からは、暖かな光が部屋じゅうに射しこんでいた。黒い桟には夕べの雪がまだ残っている。隙間なくはめ込まれた硝子には、外の明かりがぼんやりと映り込み、室内は夢のように明るかった。夜が明けたのだ。心は思いのほか穏やかになっていた。この燦然と輝く光の前では、一国の王の悩みなどほんの些細なことに思えた。素晴らしい夜明けだった。この光をわが身に取り込み、私は今日も国民のために、背骨が折れるまで働こう。自ら王としての務めを果たすのだ。今晩はきっとよく眠れることだろう。
 王は自ら王衣を着込み、堂々と廊下を進んだ。我が身の内から熱い光が漏れ出でるようだった。広間では既に大臣たちが皆揃っており、一様に両手を組み、顔を伏せて王を迎えた。最も親しい法務大臣が、王の姿を認めると駆け寄ってきて、伏目のままで奏上した。
「陛下、丁度今お起こししようと思っていた所で御座います。大変です。外をご覧になってください。我々の市民たちが。」
 雪ふる闇のなか、右手に松明を、左手に鍬を携えたロジェの市民が、農民も商人も貧乏人も、皆で巨大な一つの火塊となって城に押し寄せてくるのだった。


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このストーリーに関するコメント

16/01/13 せいしん

九十八回のテーマ「革命」へ応募しようとして書いたのですが、期日を勘違いしていたため、間に合わなかった作品です。
供養のためにこちらに投稿させてもらいました。文字数は2000+α程です。冗長になりすぎ、文章を削るのに苦労しました。
初投稿です。読者に読みやすい文章を目指しています。
文字遣いや、読みやすさなどのアドバイスがあれば、お手間ですが是非教えていただきたいです。

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