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つつい つつさん

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太宰、三島なんか読みたくない

16/01/07 コンテスト(テーマ):第100回 時空モノガタリ文学賞 【 純文学 】 コメント:6件 つつい つつ 閲覧数:1482

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 勉強机に座って、便箋を取り出す。手紙なんて書くの初めてだから、なんて書き出したらいいのかわからない。とりあえず、日菜子ちゃんの好きなラノベの感想でも書こうかな。
 そもそもなんで手紙なんて書くことになったのかというと、冬休みに田舎のじいちゃん家に帰ったら日菜子ちゃんに再会したからだ。日菜子ちゃんは、じいちゃん家の近所に住んでいる同じ年の女の子で小学校に入るくらいまでは田舎に行くたびに遊んでたけど、血液かなんかの病気で入院してから何年も会っていなかった。それが、中学生なのになんで公園なんかで遊ばないといけないんだと思いながらも、いとこの裕也のおもりをした後じいちゃん家に戻ると日菜子ちゃんいた。最初、誰だかわからなかったけど、「和樹君、ひさしぶり」って笑う笑顔が懐かしかったから、すぐ日菜子ちゃんだってわかった。
 それから一週間、日菜子ちゃんは毎日遊びにきた。日菜子ちゃんは学校にあまり行けてないから近所に友達がいないらしい。その日は裕哉と日菜子ちゃんとトランブしてたら、急に裕哉がこっくりし始めた。仕方ないからふとんに寝かしつけた。そうなるとふいに二人きりになっちゃって、なんだか緊張して言葉が出てこなくなった。しばらく沈黙が続くと日菜子ちゃんはカバンから本を取りだし読み始めた。それはシュールでバカバカしくておもしろいって評判のライトノベルだった。僕もタイトルは知っていたけど、読んだことはなかった。僕は昔から本が好きだから、どっちかと言うと、ラノベなんかより純文学が好きだった。
「日菜子ちゃん、そんなの読むんだ。僕は最近、太宰とか、三島とか読むかな」
「難しそうなの読むんだね」
「まあね。一度読んでみなよ。難しそうに思うかもしれないけど、読み始めるとおもしろいよ」
「そっか。私、いつも病院で本読んでるから、ついつい明るくて読みやすそうなのばっかり選んじゃうんだ」
 あっ……。
 そっか、そう言われたらそうだよね。病院で重くて悲しい本なんて読んだら、もっとつらくなっちゃうよね。僕はカッコつけて難しい本読んでるんだって自慢なんかして、すごく恥ずかしくなった。
 田舎から帰る日、日菜子ちゃんに手紙書いてって頼まれた。ラインとかメールのほうが手軽で便利だけど、病院で読むには手紙のほうがいいって言うからそうすることにした。でも、実際書こうとすると、手紙がこんなに難しいもんだって思い知らされた。ラインやメールみたいに二、三行で終わるわけにもいかないし、かといって、改まって書くとなるとすごく照れ臭い。やっぱり日菜子ちゃん、女の子だしさ、真面目になりすぎてつまんない奴って思われても嫌だし、ふざけすぎてしょうもない奴、なんて思われたくもないし。書いては消して、書いては消して、そのうち便箋がよれよれになって使いもんにならなくなってはまた新しい便箋を破って、その繰り返しだった。でも、日菜子ちゃんに「楽しみに待ってるから絶対書いてね」って頼まれたから僕は頑張って書いた。悩んでは一行書いて、さらに悩んではまた一行書いて、やっと半分くらい進んだところで下から母さんが大声で僕を呼んだ。
「和樹! 和樹! ちょっと降りてきなさい」
 せっかく調子出て来たのに、邪魔すんなよって腹を立てながら下に降りると、母さんは真っ青な顔をしていた。
「和樹、日菜子ちゃん、亡くなったのよ。昨日、急に容態が悪くなって。母さん、田舎帰るけど、和樹、あんたどうする?」

 ふーん

「ふーんってなによ! 和樹わかってるの? 日菜子ちゃん、死んじゃったのよ!」
 僕は二階の自分の部屋に戻った。
 ガタンッ!
 ドアを閉めたとたん、涙が止まらなくなった。
 ウアアーウッウッ、ヒックッ ウワアアーン。
 ふとんに潜り込む。涙が止まんなくて体が震えて、だから、ずっと潜り続けた。
 それから母さんと一緒に田舎に帰って日菜子ちゃんをお見送りした。この間またねって手を振って笑い合ったばかりなのに、日菜子ちゃんがもう笑うことも出来ないなんて信じられないし、正直よくわからなかった。せっかく何年かぶりに会えたのに、死んじゃったなんて信じられない。ひょっとしたら、また休みになって田舎に帰ったら会えるんじゃないかって思ってしまう。もう会えないって言われても全然実感がない。いつか実感出来る日が来るのかもしれないけど、僕はそんな日が来てほしいなんて思わないから、わからないままでいい。
 でも、日菜子ちゃんが明るい本を読みたいって気持ちはわかった。こんな気分で太宰や三島なんて読みたくない。こんなにつらいのに、他人の苦しみや痛みなんて感じてらんないよ。
 だけど、だからって日菜子ちゃんが好きなラノベも読めないよ。だって、ラノベを見ただけで日菜子ちゃんの顔を思い出しちゃう……から。


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このストーリーに関するコメント

16/01/09 クナリ

読書の主体は、常に読者にあり…ということを再確認する作品でした。
中盤から後半への転調、一瞬の緩急も優れた演出でした。

16/01/11 つつい つつ

クナリ 様、感想ありがとうございます。
どんな本を読みたいかって、好みや環境、年齢、いろんなものに左右されるだろうなと思って書きました。
あんまり型通りにきちっとしなくてもいいかなと思ったので、演出と、とらえてもらえれば嬉しいです。

16/02/03 泡沫恋歌

つつい つつ 様、拝読しました。

たしかに太宰治や三島由紀夫は内容も暗いし、小難しいくて、気軽に読める小説ではありませんよね。
最近は文学好きしか、そういう作家を読まなくなってるみたいです。

手紙ってを書くのって難しい、それを書き終えて投函する前に日菜子ちゃんが亡くなってしまい残念なことに、
お棺に入れて天国に届けてあげたい。
面白かったです。

16/02/04 つつい つつ

泡沫恋歌 様、感想ありがとうございます。
人それぞれ、難しい本を読みたいときや、気軽に読みたいとき、いろいろあるだろうと思って書きました。

16/02/11 冬垣ひなた

つついつつさん、拝読しました。

読書は人それぞれ、心の動きの違いもあります。けれども日菜子ちゃんに文章で寄り添う努力をする和樹。
ラノベを含め大衆小説というのは辛いことから離れるための娯楽かもしれませんが、ラストが切ないですね。
日菜子ちゃんを偲びラノベを手に取り、純文学の世界に戻って出せなかった手紙が天国に届く事を祈ります。

16/02/12 つつい つつ

冬垣ひなた 様、感想ありがとうございます。
読書は人それぞれ、環境、価値観によるだろうなってことを書きたかったのですが、今さらながらもっと温かいラストでも良かったのではと思います。
コメントはいろいろ考えさせて貰えるので、嬉しいです。

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