1. トップページ
  2. 恋という妖

石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

投稿済みの作品

19

恋という妖

16/01/06 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:11件 石蕗亮 閲覧数:3994

時空モノガタリからの選評

雪の中の寂れた駅舎の中で始まる怪談……。この世ならぬ雰囲気が異世界をかいま見たような、幻惑的な魅力を醸し出していますね。怪談の語られる場の設定が非常に巧みで怖さが引き立っていると思います。また「自身の正気を保てず、盲目になり自我を失う。恋によってそれらの状態に陥るから失恋」という「男」の失恋の解釈は新鮮かつ説得力がありました。そもそも相手を失うまえに、自分自身を失ってしまっている。それは、相手を失う以上に本来は恐ろしいことかもしれません。「恋の対象者を失い、自我を失い、正気を失い、いつしかその肉体を失ってもまだ在り続ける」という強烈な執着を生み出してしまう「失恋」とは、確かに恐ろしい感情ですね。周囲のものもろとも自らを滅ぼしていくそれはまさに「鬼」なのだと思います。
それにしても周囲から閉ざされた駅舎は、「妖し」達の集まる場所にふさわしいですね。この結末によって外界と遮断された状況の説明がなされ、ストンと落ちる明快さがありました。状況設定、心情や風景描写ともに、無駄がなく完成された世界感を見たような気がします。

時空モノガタリK

この作品を評価する

「こんな寒い夕暮れ時はストーブを背負って怪談をするに限る。
 寒さが孤独感を後押しして寂しさを増すから、話すなら悲恋ものが良い。」

雪で止まった電車を待つために駅の待合室には数人が集っていた。
田舎のため、駅員も居なければ復旧を告げるアナウンスも流れない、昭和の匂いが残る古い駅舎であった。
今時珍しく携帯の電波も届かないほどの田舎である。
下手に携帯を視ても情報の更新もなければ視るだけ電池の消耗を早めるだけであった。
駅舎の裏手には薪が積み上げられており、朝一で近所の、といっても数キロ先になるが、駅舎を管理している地元の人が薪ストーブに火をくべたら後は自然に消えるまで誰かが足し木をするだけであった。
時刻表の時間を過ぎても電車は来なかった。
待合室で無言のまま時間を食いつぶして居た時に、ふとある男がぼそりと呟いた。
 「あぁ、逢魔ケ刻だ。」
辺りは雪雲が落日の残照を早々と隠し、その影を広げていた。
 「怪談は何も夏でなくても良い。そうは思いませんか。」
誰に問うわけでもなく男は語りだした。
周囲の数人は別段諌めるでもなくその場を流していた。
そして男は冒頭の台詞を言うと、独り、語り始めた。

 「恋とはなんと難しいものでしょう。
他者には伝わりにくいのに、自身には刺さり時には身を抉る様な苦しみさえ伴うほど強く感じるものだ。
想う対象に届かない程、叶わないほど苦しみは身を焦がすような苦痛を心に刻み付けていく。
自身で終わりを、区切りをつけられたらいっそ清々できるのでしょうが、それが出来なければ、もしくは他者から一方的に告げられ与えられた区切りであったならば、それは乗り換え難い苦痛となるものでしょうな。」
男の語りにいつしか聞き入るようにストーブを囲んで人が座っていた。
残照はとうに消え果て、宵闇が雪を蒼く染めると駅舎の中は闇に覆われていた。
薪ストーブの燃える炎だけが唯一の灯りになっていた。
雪で配線が切れたのか、駅舎の灯りは付かなかった。
復旧のアナウンスが流れないのもそのためであろう。
隣の人の顔さえ見えない闇の中で男は語り続けた。
 「恋は人を盲目にし、愚かな行為に走らせる。
好意を抱いた相手が世界の中心になってしまい。失えば世界が崩壊したように錯覚する。
人は事象に理由を見出せないと区切りをつけれない性を持っている。
そして大概の人はその理由を自身ではなく相手に見出そうとする。
そうして自身を見失う。
そんな恋を失恋というのでしょうね。」
周囲がざわついた。
男は懐から煙草を取り出すと咥え火をつけた。
闇に煙を燻らせながらまた語らいだした。
 「恋を失ったから失恋なんじゃぁないんですよ。
わかりますか。
失恋は最初から失恋なんです。
自身の正気を保てず、盲目になり自我を失う。
恋によってそれらの状態に陥るから失恋。
だから叶わないのですよ。
正気でないのだから、当然相手だけでなく周囲を巻き込んで様々なものに当り迷惑をかける。だから当然人間関係も生活のも壊して失う。
酷い場合は相手を殺そうとする場合や、いや、実際殺してしまった話もありますね。
みなさん、心当たりはありませんか?」
闇の中で声を出さずに気配だけが振えた。
 「先ほども申しましたが、恋を失ったから失恋ではないのですよ。
恋によって喪失するものがあるから失恋なんです。焼かれて失えば焼失というでしょう。
紛れ見失えば紛失、過ちで失えば過失。読んで字の如くですよ。
ですがね、この失恋というのは非常に性質が悪い。
恋の対象者を失い、自我を失い、正気を失い、いつしかその肉体を失ってもまだ在り続けるんです。
それはいつの頃からか意思を持ち、次々と失恋の素質のある人たちに取り憑き始めた。
取り憑かれた人はたちどころに正気を失い、叶わぬ恋に身を投じてしまう。
そして終にはその身を滅ぼしてしまう。そして新しい失恋として彷徨い始めるのです。
どうです。こうしてみると失恋とは妖怪のようではありませんか。
いつか叶う、満たされると妄信し無間地獄を彷徨う亡者の如く。
失恋とは怖ろしい妖しでございますよ。」

 「ふふふ、は、ははははは!。」
話を聞いていた男が不意に笑い始めた。
 「そうか、俺は悪く無い。悪いのはあの女だ。あの女には失恋が憑いていたんだ。
殺した俺は悪くない!」
そう言いながら男は立ち上がると駅舎を飛び出した。
直後
ガガン!
何かが割れるような大きな音がしてドスンと地響きを立てた。
駅舎の屋根に積もった雪が氷塊と化して男に直撃していた。
即死だった。
周囲にも駅舎の中にも語り手の男意外、誰も居なくなっていた。

 「やはり先ほどから此処に居たのは失恋達だったのですねぇ。
恋は昔から人を狂わせ鬼に堕とす。恋は本当に妖しの如くだ。」
語り手の男はしみじみと呟いた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/01/12 白虎

拝読致しました。
今回は夢師シリーズではなかったんですね。
夢の世界ではなかったけど、語り手が夢師に思えてなりませんでした。

16/01/13 海神

拝読しました。
恋愛模様が一切無い、真冬の怪談でした。
失恋の説明が生々しくリアルでやけに説得力がありました。
タイトルが恋という妖だったのでハッピーエンドかと思ったのですが、真逆を突かれました。

16/01/13 石蕗亮

白虎さん。
お久しぶりです。読んで頂きありがとうございました。
夢オチよりリアルな話を書きたくてこうなりました。

16/01/13 石蕗亮

天神さん?海神さん?
読んで頂きありがとうございました。
東北は秋田の人間ですので真冬の怪談も大好きです。
夏の怪談は湿度がありますが、冬の怪談は暗さと寂しさが似合うと思います。

16/01/20 滝沢朱音

相手を殺しちゃってたんですか。。。こわーっΣ(゚∀゚ノ)ノ

「失恋」という言葉の解釈が面白いです。
妖怪みたいに取り憑くって、新鮮に感じました。
恋って、たしかに厄介なものですものね(笑)

16/01/22 石蕗亮

滝沢朱音さん
コメントありがとうございます。
なかなか怪談畑から抜けられません(笑)
妖怪のせいかもしれません。

16/02/05 海人

読ませていただきました。
風景が目に浮かぶようでした。話の内容と風景が同じ色のようでした。

16/02/06 石蕗亮

海人さん
コメントありがとうございます。
夕闇以降の暗さと話の暗さは意識してみたので感じて頂ければ嬉しいです。

16/03/16 石蕗亮

初受賞しました!
今まで応援してくれたみなさん
コメントや評価頂いたみなさん
読んでくださったみなさん
そして運営サイトのみなさん
本当にありがとうございました!
これを励みにこれからもがんばっていきます!!
これからもよろしくお願い致します。

石蕗亮

16/06/04 名の無い魔術師

拝読させて頂きました。
まるで見たきたかのような描写。
もしくは自己紹介にある通りの実体験なのか。
生々しく色と温度と音のある素晴らしい作品でした。

16/06/06 石蕗亮

名の無い魔術師さん
コメントありがとうございます。
この作品は書いてる最中から自身が楽しめた作品でした。
丁度あんな光の時間帯に書いていたのでそうなのかもしれません。
駅舎や季節も実体験やモデルとなる駅がありますが、すでに古いもので私の記憶の中にしか残っていません。

ログイン