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高橋螢参郎さん

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革命家の見た夢

16/01/04 コンテスト(テーマ):第九十八回 時空モノガタリ文学賞 【 革命 】 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:1062

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「神よ! あなたは我が兄弟を見放したもうたのか!」
 傍で跪く朋友アレハンドロの祈りを、病床のエルネストは白い天井を見つめながら聞いていた。
 ――早いもので五年来の付き合いになるが、あの静かに燃える炭火のような男がここまで大きな声を出したのを初めて聞いた。
 今まさに、世界を股にかける若き革命家の命の灯火が消えようとしているというのに、当のエルネストは我が身を案じるよりも先にそんな事を考えてしまうのだった。
 この狭い病室で穏やかに看取られる事が、革命に生きてきた彼自身いまだに信じられなかった。

 エルネストがこの国へと辿り着き、盟友アレハンドロと独裁者バリエントス大統領の築き上げた軍事政権を打倒してからちょうど一年。病を押して参加した革命記念日のパレードの最中に、彼は倒れた。国内の情勢はいまだ混沌としており、この記念すべき日に青写真を描いた革命の立役者を欠くわけにはどうしてもならなかった。
 彼らは正義を信じて戦い抜き、国民もそれについてきたが、反面快く思わぬ者たちも当然いた。革命という言葉自体が花火のようなもので、単なるプロパガンダに過ぎない事は先立って革命した国の例もありエルネストも重々承知の上だった。既得権益の調整、新法の整備と、課題はまだたくさん残されていた。
 現大統領を務めるアレハンドロとて政治の才覚に劣るような事はなかったが、そこに多くの人間が関わる以上どれほどの能臣をもってしても、決して一筋縄ではいかない。俺の仕事はむしろこれからなのだと、エルネストは今にも飛びそうな意識を歯を食いしばって繫ぎ止めた。
 不意にエルネストの右手に温かいものが触れた。首を傾げて見ると、先ほどから心配そうにこちらを見つめていたアレハンドロの幼い息子、ディアスの小さな手がエルネストの手をしっかりと握りしめていた。
 俺たちはこの子の生きる未来のためにも、戦い続けなければならない。
 エルネストとアレハンドロの視線は何も言わずとも確かに通じ合っていたが、別れの時は刻一刻と迫りつつあった。
「……兄弟、俺に命を預けてくれないか」
 アレハンドロはすっかり重くなった口を動かした。
「何を今更。だがこんな絞りかすみたいな命を?」
「ありがとう。……実はバリエントスが、国立療養所の地下に冷凍睡眠室を秘密裏に作っていた。もちろん自分のためだ。存在を知った時は実に馬鹿げた施設だと思ったが、どうやらそうでもなかったらしい。兄弟、俺は君をそこへ連れて行こうと思う。現在のこの国の医療では君を助ける事は難しいが、今に素晴らしい発展を遂げるだろう。だからその時まで、信じて待っていてくれるか」
 エルネストは残された最後の力で口角を僅かに上げ、掠れ声を振り絞った。
「ああ、信じているよ、兄弟」
 彼の意識はそこで途絶えた。

 冷凍睡眠の最中、エルネストは長い夢を見ていた。
 若き日から今日に至るまでの、戦いの日々を振り返った夢だった。革命に命を懸け、寡兵ながらによく戦い、先に死んでいった戦友たちの笑顔。過酷ではあったが、志を一にする仲間たちと過ごした日々は掛け替えのない記憶だ。
 祖国の革命を終えた後、エルネストは自ら故郷を去り新たな闘争へと身を投じた。自分たちの問題が解決したからといって、それで終わりではない。虐げられつつも声を上げられない人々がいる限り、俺は抗い続けよう。
 新たな革命を起こし続けよう――

「……アレハンドロか?」
 再び目覚めたエルネストの目前にいたのは、やはりと言うべきか朋友アレハンドロだった。身体の不調はまるで嘘であったかのように消え失せていた。どうやら、上手くいったらしい。
 しかしどうも様子がおかしい。永らく冷凍睡眠されていた割には、アレハンドロは意外と老けてはいなかった。むしろ若返ってすらいるのではないか。
 それに何故、武装する必要があるのか。この薄暗い部屋にいるアレハンドロ以外の若者全てが、軍装のままエルネストに向けて捧げ銃の敬礼をとっていた。もうそんな必要はないはずだ。
 まさか、とエルネストは訊ねた。
「……ディアスか?」
 ディアスは頷くと、エルネストに抱擁を交わした。エルネストも精悍な若者となったディアスの成長に素直に喜びを表したが、すぐさま質問を付け加えた。
「アレハンドロは?」
 その名を聞いた瞬間、若者たちの目つきが皆一様に険しくなった。それはディアスも例外ではなかった。
「父は……アレハンドロ大統領は今や、我々の倒すべき敵です」
 打倒現政権に燃える若き革命闘士たちの眼差しは、反骨の国民的英雄であるエルネストへと熱く注がれていた。
 ――ああ、彼らは間違いなくあの頃の俺たちなのだ。だとしたら、俺たちの為してきた事とは一体何だったのだろう。
 エルネストは、もう彼らに応えてやれなかった。


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このストーリーに関するコメント

16/01/19 光石七

拝読しました。
同じ理想のために共に戦った唯一無二の盟友も、権力を手にすると……
ラストのエルネストのやりきれなさ、無力感が胸に迫ります。
最後まで変わらず民のために尽くし続ける為政者はいないものでしょうか?
含蓄のあるお話でした。

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