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睦月 希結さん

駄文ですが、お付き合いの程を。 素敵な創作を拝読しつつ至らなさを痛感しています。精進・精進。 色々ご指摘真摯に受け止めさせて戴きます。 勿論お褒めのお言葉・ポイント等は24時間受け付けております・笑。

性別 女性
将来の夢 元気に、程々長生き。ポックリ祈願。
座右の銘 残ったもん勝ち

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桜の木の下に

16/01/04 コンテスト(テーマ):第100回 時空モノガタリ文学賞 【 純文学 】 コメント:6件 睦月 希結 閲覧数:1211

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 修との出会いは僕が居酒屋で独り安酒を飲んでいた時に声を掛けられたことからだ。
僕は今 修の家で原稿用紙に目を通している。修の小説が出来上がったら僕に感想を聞くのが最近の彼ブームだ。
が、正直に言って純文学と言うジャンルに興味が無い。それどころか「面白い」のか「つまらない」のかも判らない。と、修には口が裂けても言えないけど。
まるで速読を習得したかのように、見せ掛けの斜め読みを駆使して読了する。さて問題はここからだ。感想を どう伝えれば良いか毎回苦労する。何しろ内容をさっぱり理解してないんだから、言い様がない。
「どうだった?」椅子の向きをクルリと回転させて僕と向き合う。その眼差しは、受賞の連絡を待つ作家のようだ。僕は息を詰め決心した。本当の事を話そう。友情にヒビが入っても仕方ない。

「う〜ん そうだね。悪いけど僕のような凡人には君の小説の良さが正直判らないんだゴメン。今度からは ちゃんとした出版社とか…
ネットの小説募集に投稿してみたら?」と提案した。
「なぁ本当に面白くなかったか?」修が呟く。やっぱり傷つけたか?でも後には引けない。僕はもう付き合いきれない。
「うん。何度も言うようだけど、僕には判らない。でも君の良さを認めてくれる人もいると思うんだ!!だから…」と先の慰めを探していると、修の肩が小刻みに揺れた。もしかして泣かしちまった?どう謝ろうかと考えてる僕の耳に聞こえてきたのは、修の含み笑いだった。
「そうか!そうだろ〜。純文学ってのは、パンピーには理解しがたい魅力ってのがあるんだよ!お前はちゃんと判ってるよ!!」と肩をバシバシ叩かれる。
「でも僕になんか原稿を見せても何の得にもならないんじゃないの?」と問えば。
「なんだろうな俺にも解らないんだけど、その辛気臭い貧相な顔と薄汚れたシャツを見てると、インスピレーションが浮かぶって言うか創作意欲が沸くんだ」と腕組みをし頷く。
何か褒められた気がしないんだけど。ふて腐れた顔をすると「だが俺はついてる。一番の理解者が側にいてくれて」修の声は高笑いに変わっている。

「そうだな、出版社に出すよりも、いっその事 桜の木の下にでも埋めちまって、後世の奴らに俺の作品を見せるってのも一興かもな。本物は死後に脚光を浴びるもんなんだ」「じゃあ僕が確かめておくよ。印税が入ったら分け前をくれるだろ?」と身を乗り出せば「俺が先に死ぬ前提かよ」と睨まれたので謝った。
「そうと決まれば」修は今にも物置からスコップを探しそうな勢いなのを僕は止めた。
「修は今のこの時に、評価されたいとは思わないのか?」と聞けば。「文学ってのは人に褒めてもらうために書くもんじゃねぇよ。俺は自分が書きたいものが書ければそれで良いんだ」
ま、確かに金になるに越したことはないかもしれないがな。と口では言うが、それは本音とは かけ離れているんだろう。修の目と心は遥か彼方に想いを馳せているようだ。


「僕には芸術的な事は解らないけど、人を見る目は、あるつもりだ。君の才能は神に愛されてる。必ず日の目を見る。僕が保証するよ」と言えば。
「お前に言われるようじゃ俺も お終いだなぁ〜」とカラカラと笑われる。
「だけど修が凄い作家になったら、僕なんてお呼びじゃあなくなるかもね」と俯けば「何言ってんだよ。俺たちは変わらねぇよ。ずっと友達だ!」と言われ胸が痛んだ。
(ずっと友達でいてくれるの?)喜んで良いのか、彼に申しわけないような複雑な気持ちが過る。次の言葉を探しあぐねている僕に救いの手が差し伸べられた。スマホのアラーム音だ。

「あっ、悪い。もうそんな時間か?」僕が鳴らしたアラームは、年末 知り合いに頼まれたバイトに出掛ける時刻を告げるものだった。
「外仕事のバイトだって?寒いのによくやるよな」「うん、こんな僕にでも手伝って欲しいほど忙しいんだって」
外に出て寒さにコートの前をかき合わせる。息が白い。不意に呼ばれた気がして上を見上げると、部屋の窓から修が「バイト代が出たら奢れよ。良い年越しをな風邪ひくなよ」と歯を見せて笑っていた。
返事をする代わりに片手を上げる。この僕にお金をせびるなんて君って奴はまったく。

 もう一度僕は君に誓おう。その豪胆さと大衆に媚びることのない独自性を持ち続けるのなら、きっと名の知れた文豪になれる。
だって君はあの日 僕に気づいて、声を掛けてくれたんだから。

 再びスマホが振動と共にメロディを奏でる。手の中の画面を見ると、相手は今から向かうバイト先の神社だ。
全く便利な世の中になったものだ。ひと昔前は、相手と話をしたければテレパシーを送るなしかなかったのに、今じゃ直接話すことが出来るなんて。

文明の利器を、耳に当て相手に応答した。





「はい。貧乏神です」


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このストーリーに関するコメント

16/01/11 泉 鳴巳

拝読しました。
「文学ってのは人に褒めてもらうために書くもんじゃねぇよ。俺は自分が書きたいものが書ければそれで良いんだ」という台詞にハッとさせられ一気に読み進め、まさかのオチにやられました。
文学への愛に溢れた作品だと感じました。

16/01/11 睦月 希結

泉様初めまして。コメントを有難うございます。こちらに投稿されている素敵なお話の数々の創作の中で、文学をオコガマシクも語る才能も資格もないのですが。きっと古の文豪達はそれを理想として掲げていたのでは?と代弁させて頂きました。私個人は、褒めれらたら天や木に舞い上がってしまいますがね・笑。

16/02/04 光石七

拝読しました。
純文学というものが調べてもイマイチわからず「書きたいことを書けば、それでいいんじゃない?」と思ったりしていたので、修の台詞には共感を覚えました。でも、人からの評価が気になってしまう俗人の私です(苦笑)
まさか語り手がこの方だったとは。
面白かったです!

16/02/04 睦月 希結

光石様お褒めのお言葉有難うございます。建前は修君の台詞ですが、本音は、やはり何でも もらえるなら戴きたいです・笑。裏話なのですが。本当は語り手も同級生で桜の木の下の件でギャグっぽいオチにするつもりが、ふといつものように仕事中にネタを回してて「文豪って結構 赤貧だったろうなぁ〜」と思ってたらヒラメキまして、あのような形と名台詞(自分で言うか?)が出来上がりました。何が幸いするか解りませんね。

16/02/13 滝沢朱音

ひやー!ラスト一文での鮮やかなひっくり返し!
すばらしいですね。ヤラレました!

純文学と清貧は、なんとなくお似合いのイメージがありますが、
そうか〜、逆説でこうきたか。とてもおもしろかったです。
私も書きたいものだけ書いていければいいなと思うのですが、
最近は何を書きたいのか、自分でも混乱しつつある今日この頃です。

貧乏神がバイトする神社って…ふふふ (*^m^)o==3

16/02/13 睦月 希結

滝沢様コメント有難うございます。過分なお褒めのお言葉に舞い上がっております。彼も申しておりますが「こんな僕にでも手伝って欲しい」らしいし、お正月なので多分黒字でしょう・笑。「書きたいもの」が次々と沸いて来れば楽しいだろうな。

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