1. トップページ
  2. 違和感

光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの作品

13

違和感

16/01/04 コンテスト(テーマ):第九十八回 時空モノガタリ文学賞 【 革命 】 コメント:12件 光石七 閲覧数:1499

この作品を評価する

 今日も首相官邸に側近たちが集い会議が始まる。場を仕切るのはやはり第一首相補佐官である根古川先生。私は首相秘書として部屋の隅に控える。
 ……ずっと根古川先生を信じてついてきた。先生の理想が私の理想で、それは現実のものとなりつつある。だけど……
「では、元Q県議の井沼衣良武も殺処分に」
革命の中心人物だった根古川先生の提案は決定事項と同義だ。……もう何人目の粛清だろう? 側近たちは口々に「異議なし」と応えるだけ。
「首相、ご承認いただけますね?」
根古川先生が床で仰向けになっている首相に笑みを向ける。――ニャン丸首相はマタタビ入りのフェルトボールを前足で掴んでガジガジしている。

 十年前、根古川先生は私の家庭教師だった。
「どんな猫にも幸せになる権利があると思うんだ。猫が安心して暮らせる社会って、人間も住み良い社会じゃないかな」
授業初日、私の部屋に入ってきたニャ太郎を抱き上げながら先生が言った。
「僕、捨て猫や迷い猫を保護する団体でボランティアしててさ。みんな人間のエゴの犠牲者だよ。ホント思うね、この子たちが幸せになれますようにって。――ニャ太郎はいい人たちと暮らせてよかったねえ」
大学生のお兄さんの優しい笑顔と信念を感じさせる言葉に、中学生だった私はときめいた。
 先生は授業の合間に所属する愛護団体『NYAX』のことをよく話してくれた。「猫たちの幸せは人間の幸せにつながる」が先生の持論で、不幸な猫をゼロにすべく『NYAX』で精力的に活動していた。
「猫たちが飢えたり事故にあったりすることなく、猫らしく生きていけるなら、別に野良猫でもいいと僕は思うんだ。飼い猫でも野良猫でも幸せに暮らして寿命を全うできる、本当の猫と人間の共生社会が僕の夢なんだ」
純粋に猫の幸せを願う先生の姿勢と語られる和やかな理想社会に私は感銘を受けた。私も先生の夢を手伝いたい、そう思った。先生に恋してもいた。だけど、気持ちを伝えると先生とのつながりが壊れてしまいそうで怖かった。
「P高に受かったら、私も『NYAX』の活動に参加していいですか?」
当時の私の精一杯の告白だった。
「亜子ちゃんなら絶対大丈夫だよ。『NYAX』に来てくれるの? いつでも大歓迎さ」
先生は笑って連絡先を教えてくれた。
 無事志望校に合格した私は『NYAX』に顔を出すようになった。里親候補者との連絡や里親イベントの企画、保護した猫たちの世話、細かな雑用まで、根古川先生は熱心に働いていた。ついには大学を中退して『NYAX』の職員になってしまった。
「亜子ちゃんが『先生』って呼ぶからさ。イベントのお客さんに『どちらの学校にお勤めですか?』って聞かれちゃったよ、ハハハ」
「すみません、クセになってて……」
「別に怒ってないよ。どう呼ばれようと僕は構わない」
先生に女性の影は無かったけど、私は想いを伝えなかった。先生のそばにいられる。先生と同じ夢を共有している。手伝えることがある。それだけで十分幸せだった。
 だけど、先生は次第に苦悩の表情を見せることが多くなった。私たちがどんなに頑張っても捨て猫は後を絶たない。捨て猫をそのままにしておけばほとんどは死んでしまう。シェルターは保護できる数に限りがあり、運営のための資金繰りも苦しい。世間では未だに年間八万匹近くが殺処分されていて、車に撥ねられて死んだ猫を見かけることも度々だ。猫の虐待や不審死のニュースもなくならない。……先生は憔悴していき無口になった。一緒に猫たちの世話をしながらも、私は先生を元気づける方法がわからなかった。
 しかし、先生は夢を諦めたわけではなかった。地元の大学に入学して二か月が経とうとしていたその日、私はいつものように『NYAX』のシェルターに行った。――階段に一匹の猫を抱いた先生が微笑みを浮かべて立っていた。
「亜子ちゃん、僕は決めたよ。猫たちを救うには……国を変えるしかない」
先生は思い描いてきた猫と人間の真の共生社会を実現する計画を考えていたのだ。理想に燃える先生のそばで同じ夢のために歩む幸せを思い、私は身震いした。
「手伝ってくれるかい?」
言われるまでもなかった。
 その後、先生は全国から有志を募り、霞が関や各業界に送り込んだ。そして去年の二月二十二日、私たちは国会議事堂と首相官邸を占拠し、ニャン主主義国家の樹立を宣言した。日本は猫を首相とする猫のための国に生まれ変わったのだ。

 急ピッチで進む法整備の裏で連日行われる粛清。国家新生のためのやむを得ない汚染物除去、その範囲はもう超えている気がする。私たちをフランス革命時の恐怖政治になぞらえて『ニャコバン党』と揶揄する者もいる。先生はロベスピエールと同じ道をたどっていないだろうか?
 血生臭い会議が続く中、ニャン丸首相だけはマイペースに欠伸をしていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/01/06 霜月秋介

光石七さん、明けましておめでとうございます。拝読しました。

駅長の動物は聞いたことありますが、首相とは驚きました(笑)
以前ウチの庭にも野良猫が4匹旅行しにきました。ネコに罪はありません。それなのに殺処分されてしまうのは理不尽極まりないですね。

16/01/06 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

人間が首相するより猫がなった方が平和な気がします。
猫は駅長だってやれるんだから、お飾りの首相なら猫で十分だと思う。
私も動物殺処分ゼロの社会を切望しています。
猫さんにもマイナンバーを与えて、勝手に捨てたりできないようにしてほしいです。
可愛い猫さんたちと幸せに暮らせる、平和な社会になったらいいね!
私は『ニャコバン党』を支持します(`・ω・´)ハイ!

16/01/10 冬垣ひなた

光石七さん、拝読しました。

私も最近殺処分される猫をもらい受けました。すでに猫いたんで増えても良いかと思い……。
大阪には避妊した野良猫を住まわせている公園があるのですが、断種に対し危険だと感じる思想もネットには時折見受けられ、問題は一筋縄ではいかないのだなと思います。
極論に走る人たちもいるかもしれませんね、この革命がどこへ向かうのかとても気になりました。

16/01/10 滝沢朱音

光石さんのニャンコシリーズ〜(ΦωΦ)
お待ちしてました。やはり素敵すぎですにゃ。
重いテーマ&フルスロットルな話運びなのに、ふわんとしていてたまりません。
ニャン主主義国家、万歳!とニャン丸首相に忠誠を誓いたくなりますが、が、
井沼衣良武派でもある私ですので、そこはなにとぞ穏便に…?!笑

16/01/11 光石七

>霜月 秋介さん
2016年最初のコメントを下さり、ありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
たまに海外のニュースで犬や猫が町長に立候補という話を聞くので、国の長というのもありではないかと。
設定も構想も不十分なまま無理矢理書いたため、中途半端な話になってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
「ネコに罪はない」、同感です。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
最近新聞に載っていた海外のニュースで、市議選だったか町長選だったか、立候補者の中で猫が一番優勢という話がありました。賄賂や汚職が蔓延している地域だそうで、猫はその心配がないからとか。
殺処分ゼロ、私も願っています。
ただ、『ニャコバン党』はお勧めしかねます。書き込みが足りなくて申し訳ない限りですが、彼ら(というより根古川)は主義がエスカレートしすぎて、わずかでもそこからずれている者は粛清しています。作中の元Q県議は「猫より犬!」だったので(名前もそのイメージから付けました)粛清対象になってしまったという…… 権力に溺れつつある部分もちょっとあったりします。
馬鹿話なのか真面目な話なのか、どっちつかずになってしまいましたが、感じるものが少しでもあったならうれしいです。

>冬垣ひなたさん
コメントありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
うちも不幸な猫が増えないようにと愛猫に避妊手術を施しましたが、彼女自身はどう思ってるんだろうと考えてしまう時があります。
世の中には猫が嫌いな人もいるし、猫を愛する人の中にもいろんな考え方がありますね。
“猫の幸せ”を掲げて革命を起こした根古川たち(作中は名字だけですが、フルネームは「根古川悠士(ねこかわゆうし)」です。ちなみに主人公は「見矢亜子(みやあこ)」、作中の元Q県議の名前をよく読んでみると……。いろいろ書き込みが足りないくせに、変なところに凝ってます(苦笑))ですが、行き過ぎた粛清は世間の反発を強めそうですね。

>朱音さん
コメントありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
ニャンコシリーズって……(苦笑) “困ったときの猫頼み”にするつもりはなかったのですが、何故か『ニャン主主義』という言葉が頭から離れず…… フランス革命のパロディで“ニャベスピエールとニャン・ジュスト”なんてのも浮かびました(笑)
馬鹿なのか真面目なのか、中途半端になってしまった感が大アリですが、いい方向にとらえてくださったとは。
元Q県議の名前、気付いてくださりうれしいです。こういうところに無駄に思考を費やす、光石の悪い癖です(苦笑)
いろいろ足りませんが、楽しんでいただけたようでうれしく思います。

16/01/11 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

革命に流血はつきものかもしれませんが、ニャンともブラックな猫たちの革命。
猫と人間の平和な共生社会ができることを祈ってます。

16/01/12 石蕗亮

拝読しました。
根古川という時点でもしや、と思いながら読み進んでいきましたがやはりで面白かったです。
この独特な猫の世界観が大好きです。
しかし、いつもリアルな描写でまるで猫が書いてるのでは?と深読み勘ぐりしてしまいます。

16/01/12 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
平和的な手段による革命も時間をかければ不可能ではないと思いますが(地道な草の根運動、市町村や県に何度も陳情、国会議員に働きかけ法改正etc.)、根古川たちは待てなかったようで……
猫たちも流血を願っているわけではないはずなのですが。
猫と人間の平和な共生社会は実現してほしいですね。

>石蕗亮さん
コメントありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
やはりピンと来られましたか。
言葉遊び的なネーミングとか、話の本筋とは関係ないところで変に思考を費やすのは私の悪い癖ですが(苦笑)、楽しんでいただけたようでよかったです。
“この独特な猫の世界観が大好きです”、“いつもリアルな描写”、もったいないお言葉をいただき、恐縮です。

16/01/15 坂上 沙織

拝読しました。
冒頭、ショッキングな出だしに引き込まれました。猫が総理という設定も斬新で、どうなることかと思いながら読み進めました。過激に変わっていく、憧れの先生が、主人公の目から見ると、不安でたまらない様子がよく伝わってきました。面白かったです。

16/01/16 光石七

>坂上 沙織さん
コメントありがとうございます。
書き込みは不十分だしいろいろ中途半端な感がありますが、書きたかったことを的確に汲み取ってくださり、感謝です。タイトルもそこに掛かっています。私自身がこの話にしっくりこなかったから、というのもありますが(苦笑)
楽しんでいただけたなら幸いです。

16/01/16 アシタバ

光石七様 拝読しました。

猫たちを想うあまり過激になってしまった先生と、それをどうすることも出来ない無力な私の悲しくて真面目な内容ですが、読み進めていくなかで『ニャン』の文字に一瞬にして癒されてしまいます、どうしよう。『ニャコバン党』も名前だけならむしろ愛されてしまいそうですね(笑) そんなギャップに惹かれました。

16/01/19 光石七

>アシタバさん
コメントありがとうございます。
真面目なのかニャンなのか、中途半端な話にしてしまった私が悪いのです(苦笑)
ですが、“そんなギャップに惹かれました”とのお言葉に救われます。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

ログイン