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午前4時のスープさん

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朝食をあなたと

15/12/27 コンテスト(テーマ):第九十八回 時空モノガタリ文学賞 【 革命 】 コメント:2件 午前4時のスープ 閲覧数:944

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 暮れていく空気を映すキッチンの青い窓ガラス。
 紅の薔薇のような夕陽が、たった今終わりを告げた。

 油をひいて、肉を焼く。トマトと玉葱を刻んで炒める。塩をふる。黒胡椒の粒を挽く。
 香ばしいにおい。

 誰かのために誰かが料理をしている。
 誰が、誰のため。

 煙。換気扇を回す。
 ぶんぶんとプロペラが回る音がして、風がキッチンに流れる。 
 手元で上がるオレンジ色の炎。

 三年前、結婚したての頃にそろえた、金色のふちどりがある白い皿に、ビーフソテーを盛って、赤いトマトソースをたっぷり。
 出しっぱなしのワイングラスに、赤ワインを注いで、一杯だけ。

 食卓の準備はできた。
 よし、先にシャワーを浴びよう。
 浴びた後は赤いブラとショーツと。

 洗面室の鏡に自分を映す。

 少し、痩せた?
 けっこうじゃない。

 眠い。

 そのはず。昨夜は寝ていない。ひと眠りすることにする。
 寝室のベッドにもぐり込む。
 あの人の、青いチェックのパジャマの背中に顔をこすりつけ、眠る。

 うとうとする夢の中。

 物音がする。
 寝返りをして、無意識に隣に手を伸ばす。
 冷たいシーツ。そこにはいない。
 あの人、帰ってきたのかしら。
 がたがたと音がする。
 食べているのかしら。
 冷えてるから味、落ちてる。
 トマトソースの出来はどうかしら。
 眠すぎて、味見を忘れたけど。
 あれは、唯一、ほめてくれた料理だった。

 レースのカーテンが夜明けのすき間風に揺れた。
 夜の深さはここまで。朝はここから上がるのだと教えてくれる。
 寝室に入る前、ワインと一緒に薬を飲んだ。精神を安定させる薬。簡単に眠れる薬。
 もっと眠れる。もっと眠れる。もっと眠ろうとしても朝は無情だ。
 カーテンの隙間から、白い光。
 隣は冷たいシーツのまま。

 寝室を出る。
 玄関。
 あの人の靴はない。
 食卓。
 昨夜の肉は手つかずのまま。
 あの物音は、夢で聞いた風の音だった。

 冷えたビーフソテーをゴミ箱に。
 朝ご飯を作らないと。
 冷蔵庫から卵とベーコンを出す。
 二人分。
 フライパンでベーコンを焼き、卵を割って落とす。
 さっきまでビーフが乗っていた皿に、ほかほかのベーコンエッグ。
 厚切りの食パンを焼いて、バターを塗ったら、また眠くなってきた。
 けど、ここはがんばりどころ。
 「革命」の旗を揚げなければならない。
 そうこれが「革命」でなくて何なのだろう。

 コーヒーを淹れている間に、出しっぱなしのワイングラスに、赤ワインを注ぐ。
 グラスを持つ左手。
 薬指の指輪が目について、抜く。
 思った以上にするりと抜けた。
 ポップコーンみたいに指輪を宙に放り投げて、ぱくんと口の中に。
 金属の味は、血の味に似ている。
 ワインを一杯。
 朝の太陽に乾杯。
 皿の上に指輪を吐き出す。
 からん、と乾いた音を立てて、指輪が白い平原に着地。
 あら。ブラとショーツのままだった。
 服を身につけて出かけなければ。
 痩せたら着ようと思っていた、ピンクのニットのセーターに黒のタイトなミニスカート。

 今から訪ねる病院の位置を、スマホの地図で確かめる。
 診てもらいにいくんじゃない。
 あの女に会いに行く。
 あの人の女、そこの病院でナースをしてるそうだから。

 口の中の血の味。消えない。
「革命」には、どうしたって血がつきもの。
「既存のものを壊すこと」、それが革命ならば、
 あなたとわたし、あなたとあの女、わたしとあの女、
 歪んで弛みきったそれぞれの花園の、その腐った土に、革命の剣(つるぎ)を捧げなくてはならない。
 
 二人分のベーコンエッグを食べてバタートーストをかじってコーヒーを飲み干して。
 食べ終わり、白い皿を床に投げつけて、割る。
 派手な音を立ててみごとに割れた。

 さて、行きますか。




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このストーリーに関するコメント

16/01/20 光石七

拝読しました。
読み進めながら少しずつ違和感が積み重なり、中盤から主人公の精神状態が見えてきて、手を差し伸べてあげたいけれども何もできずに立ち尽くす感覚とでもいえばいいのでしょうか、哀しさを覚えました。
おそらく主人公は一人、同じような毎日を送っているのでしょう。闘っている、と言ったほうがいいかもしれません。
心の奥にずっと引っかかっているような、そんな読後感でした。

16/01/21 午前4時のスープ

>光石七さんへ
コメントありがとうございます。読んでいただいてうれしいです。
ひとりの人間が日々を生き抜いていくということは、とてつもない闘いなのかもしれませんね。
短編では、言葉多くなくとも余韻のある物語を書けたらなと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。

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